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ポジティブよりもアプリシエイティブ(Appreciative)

Appreciative Inquiry(略してAI、なのでこれ以降はそう書きます)と呼ばれる手法があります。主に組織開発を行うときに使われるものですが、その手法の一部を切り取って使われているケースもあるようです。
AIの手法はいわゆる「問題解決」ではありません。問題に焦点を絞って原因を突き止めて解決してゆくのではなく、ありたい姿に向かって何をしてゆくかを焦点としてます。
ゆえに、よく「ポジティブ・アプローチ」と混同されることがあります。

しかしながら、AIの根っこにあるアプリシエイティブ(Appreciative)とはポジティブ(Positive)とは似て非なるものなので、ちょっと整理してみたいと思います。

AIとはどんなことをやるか

アプリシエイティブと言っても普段使わない言葉なので、ピンときにくいところがあるかと思います。なのでその考え方を取り入れたAI(Appreciative Inquiry)と言う手法がどのようなものなのかをまずはお伝えしましょう。

AIは組織開発の手法の一つで、対話を通じて組織が求める姿を見つけ出し、それに向かってゆくための具体的な行動を最終的には見つけ出し、皆で共有して実行してゆくためのものです。

その進め方は4つの段階を踏みます。
Discover、Dream、Design、Deploy(ないしはDestiny)の四つであり、それを何回か繰り返してゆくことから4Dサイクルという呼び方をすることもあります。

最初のDiscoverは「発見」の段階で、ハイ・ポイント・インタビューと呼ばれる、人が輝いていた瞬間を聞き出すところからスタートします。90分ぐらい時間をかけて一対一でいくつかの用意された質問を使って、相手の思いや大切にしているものを聞き出してゆくプロセスです。インタビューが終わったら、それを他の参加者と共有します。
その後、それぞれの大切にしているものの共通点を見つけてゆきます。これをポジティブ・コアと呼んだりしています。

次の段階のDreamは、ポジティブ・コアが発展して行った時に起きるであろう未来について夢を見る段階で、インタビューで聞き出して行くとともに、それをより具体的に体感できるレベルまで鮮明なイメージにしてゆきます。

続いてDesignの段階で、Dreamのイメージの中にあった欠かすことができない価値を定義し、それをどのようにしてゆくのかをコミットメントとして宣言文に仕立て上げます。参加しているメンバーみんなが納得いく形になるまで、言葉を練ってゆきます。

最後がDeployないしはDestinyで、宣言文に書かれたことをどのようにして現実化させてゆくのかを決めます。
それはアクションプランでも良いでしょうし、まずはこれから始めるという小さな一歩(変化)でも良いです。

AIは「ポジティブ・コア」という言葉を使っていたり、最初のハイポイント・インタビューの部分だけ取り上げるとポジティブなことだけに目を向けているようにも捉えることができてしまうので、ポジティブ心理学をベースにしたポジティブな組織開発手法だと考えられてしまいがちです。
しかし、実際には無理矢理ポジティブに考えようというわけでなく、「問題」を見つけてそれを潰す代わりに、それを問題だと考えている価値観に光をあてて、その価値を未来に向かって展開して具現化してゆくというのがその本質になっています。

ポジティブに非常に似ているのですけれど、ちょっと異なる考え方が根底にあり、それがアプリシエイティブという考え方なのです。

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ポジティブの危うさ

これを読まれているみなさんは、「ポジティブ」と聞くと何を思い浮かべられるでしょうか。元気で明るく悩んでいない様子とかが浮かんでくる人が結構多いのではないかと思います。
ポジティブと聞くと対になって浮かんでくるのが「ネガティブ」と言葉になっているのではないでしょうか。ネガティブだと暗い感じがするからとか、ネガティブだと皆んなのやる気を削いでしまうとか考えてしまい、ポジティブに振る舞おうとか振る舞わないといけないと考えさせられているということはないでしょうか。

これは日本人独自なのかもしれませんが、ポジティブとネガティブが評価軸のようになってしまっているきらいはあるのではないかと思います。
ネガティブがいけないこと、ポジティブが良いこと、のように。
そして、否定的に見えるところは見ないようにして、肯定的な前向きなところだけにスポットライトを当てていたり、ネガティブなことをリフレームしてポジティブに書き換えてしまったり、を無意識にしていたりします。

しかし、そのようなことは無理矢理感が満載で、表面的になりやすく、人によっては嘘くさく感じてしまい、頓挫するか長続きしなかったりということが多いです。
言い方を変えると、ポジティブなアプローチは気をつけないとその高揚感から一時的お祭り的な盛り上がりを見せはするけれど、それだけで終わってしまいかねないということでもあります。
そんなことが何回か続くと、組織開発やチーム・ビルティングに対して冷めた目で見るようになって行ってしまいます。

ポジティブに踊らされてしまうのは、ちょっと危ういのです。

Appreciativeってどう考えたらいいか

ではアプリシエイティブとはどういうことでしょうか。
Appreciateという言葉には「感謝」という意味があることはご存知の方もいるかと思います。でも、辞書で出てくる最初の意味は、状況や問題などと「正しく理解する」であり、そこには評価はありません。相手のことを理解して受け入れる、というニュアンスがあると言ってもいいかなと思います。

言葉の意味を深く理解する方法としては、語源を遡るやり方や反対語を探すやり方があります。
アプリシエイティブのコアの意味を探る意味で、敢えて反対語を出してみましょう。Appreciativeの反対はDepreciativeです。

Depreciativeは普段聞かない言葉かもしれません。
しかし英語で財務諸表を見るとDepreciationという言葉が出てきます。日本語にすると「減価償却」ですね。設備や固定資産の価値が年を追うごとに下がってゆくことを指しています。買った時に1000万の価値があったものでも、1年経てば価値は下がってしまう。その下がり方の割合によって、資産価値が下がってゆくことを減価償却といい、何年で価値が0になるかというところから金額が導かれます。
つまり平たく言えば、「価値が減ってゆく」ことをDepreciateと言ってるわけです。

これの反対がAppreciateなので、「価値が増えてゆく」ということになります。
そこにあるものは変化しないのだけれど、その価値を認め、その価値を大きくしてゆくための考え方をしてゆくということがAppreciativeということになります。

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具体的にポジティブとアプリシエイティブの違いを例で説明してみます。
上の写真のように、グラスに水が半分入っているとして、、、
半分しか入っていない、と考えるのが「ネガティブ」
半分も入っている、と考えるのが「ポジティブ」
水があることの価値を認め(あるいはコップにまだ隙間があることの価値かも)、このコップと水が何に使えるのかを考えてみるのが「アプリシエイティブ」になります。
そこに水に対する評価はありませんし、何か問題がある訳でもありません。あるのは価値とその可能性だけです。

アプリシエイティブが大切な理由

ポジティブとアプリシエイティブの違い、伝わったでしょうか。なんとなくでも違いを感じてもらえたら嬉しいです。

私がアプリシエイティブがポジティブよりも大切だと考える理由は、それがそれぞれの人がオーセンティックであることと密接に関わってきそうだからです。
オーセンティックについては別のnoteで書かせていただきましたが、その人「らしく」、嘘くさくなく、背伸びせず、ありのままということだとした時に、その状態に対してアプリシエイティブになることが大切なのではないかと私は考えています。

自分自身についても他の人に対してでも、接するときにポジティブやネガティブという見方や考え方であるがままを評価するのではなく、そこには良いも悪いもなく、それぞれが大切にしているものを見出し、それを共有し、共有された価値が創り出す新たな可能性を共に作り出してゆくような関係。
それこそが、感謝に溢れ、長続きする関係性になってゆくのではないでしょうか。

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