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作曲家として活躍したフィンランドの歴史における女性たちを紹介する連載企画

スザンナ・ヴァリマキ、ヌップ・コイヴィスト=カーシク著
(2019年2月8日掲載)

あなたは20世紀初頭に活動していたフィンランド人女性作曲家の名前をいくつ挙げられるだろうか?19世紀ならどうだろう。30人?あるいは3人だろうか。FMQ(フィンランド音楽季刊誌)におけるこの連載記事は、フィンランドの歴史的な女性作曲家についての知識を深めるのに役立つことだろう。

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 2020年代が目前に迫る今、コンサートのプログラム、教育の学習内容、歴史の記述における男女差別を、我々はもはや黙認することはできない。

 これはフィンランドにおける歴史的な女性作曲家たちの人生と音楽について論じた、スザンナ・ヴァリマキとヌップ・コイヴィストらによる『音楽の娘たち:18世紀後半から20世紀初頭までのフィンランドの女性作曲家たち』(原題:Sävelten tyttäret: Säveltvät naiset Suomen historiassa 1700-luvun lopulta 1900-luvun alkuun)と題した書籍出版計画から派生した、彼ら自身によるFMQへの連載記事である。

 この最初の記事は連載全体への導入に加え、ヴァイオリニストのミルカ・マルミが行っている、忘れられた音楽に対して再び息吹を与える一連のコンサートも紹介している。それ以降の記事では、選び出した作曲家の生涯と音楽に光を当てていくこととなる。

 ここでは、いくつかの作曲家と、女性・音楽・平等に関する興味深いプロジェクトを手短に紹介したい。

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ピアノ曲や独唱作品を作曲したイェンニ・エルフヴィングの1908年の写真。写真原本の裏面には、「エルフヴィングはサンクトペテルブルクを旅行中」との文章が書かれている。エルフヴィングは音楽活動のほかに、園芸活動の推進者、教師、学校の校長、女性の権利に対する擁護者、女性教育の先駆者として活躍した。

フィンランドの音楽史から選ばれた作曲家たち

 以下に紹介する、18世紀末、19世紀末、そして20世紀初頭に生まれた女性たちは、作曲をしていたことが知られており、スザンナ・ヴァリマキとヌップ・コイヴィストが自身の出版計画のために調査している者たちである。この計画はまだ始まったばかりで、このリストはまだ草稿の段階のものでしかない。

シャルロッテ・リタンデル=カールボム(1784-1858)
Charlotte Lithander-Carlbom

ヘンリエッテ・ニューベリ(1830-1911)
Henriette Nyberg

リリ(ヒルマ・ロザウラ)・トゥーネベリ(ラインベリ)(1836-1922)
Lilli (Hilma Rosaura) Thuneberg (Leinberg)

ファニー・マンセン(1834-1856)
Fanny Mannsén

ラウラ・ネーツェル(1839-1927)
Laura Netzel

アンナ・カタリナ・ブロムクヴィスト(1840-1925)
Anna Catharina Blomqvist

イダ・バシリエール(1846-1928)
Ida Basilier

ミンナ・フォン・ノーリング(1846-1918)
Minna von Knorring

ソフィ・リテニウス(1847-1926)
Sofie Lithenius

マリア・ヨセフィーヌ・ヴォルトステート(1848-1913)
Maria Josefine Woldstedt

ヴェンドラ・フォルストレム(1858-? )
Vendla Forsström

アイネス・チェチュリン(1859-1942)
Agnes Tschetschulin

イダ・モーベリ(1859-1947)
Ida Moberg

ベッツィ・ホルムベリ(1860-1900)
Betzy Holmberg

アイナ・コルホネン(?-?)
Aina Korhonen

ハンナ・ホルムストレム(1864-1942)
Hanna Hällström

フルダ・クロンクヴィスト(1864-1934)
Hulda Kronqvist

アレクサンドラ・ゼレズノーヴァ=アルムフェルト(1866-1933)
Alexandra Zheleznova-Armfelt

エディス・ソールストレム(1870-1934)
Edith Sohlström

アルマ・ヴィーケストレム(1870-1952)
Alma Wikeström

イェンニ(エルレヴィ)・エルフヴィング(1871-1932)
Jenny (Erlevi) Elfving

アリス・ホルンボリ(ヘルシンギウス)(1875-1963)
Alice Hornborg (Helsingius)

ルル(ユリア)・ヴォルトステート=バッチ(1883-1965)
Lullu (Julia) Woldstedt-Buch

リリー・カヤヌス=ブレンネル(1885-1963)
Lilly Kajanus-Blenner

グレタ・ダールストレム(1887-1978)
Greta Dahlström

ルース・フォルストレム(ヴァーラネン)(1889-1974)
Ruth Forsström (Vaaranen)

ゲルトルード(マラウ)・オルス(1890-1951)
Gertrud (Marau) Ollus

アンネ=マリー・メケリン(1892-1929)
Anne-Marie Mechelin

エリザベス・フォン・ティーセンハウセン=フォルステン(1896-1963)
Elisabeth von Tiesenhausen-Forstén

ヘルヴィ・レイヴィスカ(1902-1982)
Helvi Leiviskä

アイリ・アウエル(1902-1968)
Aili Auer

ヘイディ・スンドブラート=ハルメ(1903-1973)
Heidi Sundblad-Halme

マイリ・ヴァリサロ=ライト(1908-? )
Maili Välisalo-Wright

マイヤ・コルケアコスキ=ハウプト(1909-1983)
Maija Korkeakoski-Haupt

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ベッツィ・ホルムベリは、コペンハーゲンとライプツィヒで学んだ。生涯の大半をノルウェーで過ごした彼女は、フィンランドの広報誌によると「音楽の天才」だったという。彼女の残した作品には交響曲(1884年作曲)がある。写真の《前奏曲とフーガ》は、彼女のピアノ作品の中でも最も頻繁に演奏されているものである。
(訳者追記:上記作品はIMSLPにてダウンロード可能。)

作曲、女性と平等—プロジェクト、素材

ミルカ・マルミのコンサート・シリーズ「女性とヴァイオリン」
ウェブサイト
(フィンランド語・スウェーデン語)

ココナイネン(全女性)音楽祭(フィンランド語)
※音楽における女性の躍進を目的としている

フィンランドにおける音楽分野での平等と多様性を促進するための論文集

Suoni ry 研究会(英語・スウェーデン語)
※社会的な活動家の音楽研究を促進している

「公正な作曲」プロジェクト(PDF、フィンランド語)
※2019年春に開始されたこの研究開発プロジェクトの目的は、この分野の職業選択における性的偏見を緩和し、作曲に関するステレオタイプを解体することにある

キーチェンジ・プロジェクト(英語)
※2022年までに男女比を50:50にするという誓約書に署名するよう、音楽祭に呼びかけている

スウェーデン女性作曲家協会 (KVAST):レパートリー保管庫

Illuminate Woman's Music Project(女性音楽啓蒙計画)(英語)

音楽学における女性・ジェンダー研究のためのソフィ・ドリンカー研究所(ドイツ語)

音楽とジェンダーに関する研究センター(ハノーファー音楽演劇大学)(ドイツ語)

国際女性・音楽関係者リーダーシップ会議(英語)

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エディス・ソールストレム(1870-1934)は作曲家、作家、そして音楽と運動を専門とする教師であった。 よく知られた彼女の作品である《エレジー》(1900年作曲)は、今日に至るまで、ピアノ、あるいはピアノとチェロのためのレパートリーとして残っており、またその他の編成による多くの編曲も存在する。
(訳者追記:こちらもIMSLPでピアノ独奏版をダウンロード可能。)
写真:ウーノ・ローゼンダール/シベリウス博物館(トゥルク)所蔵

※冒頭の写真:1950年代における、ヘルシンキ・ウィメンズ・オーケストラ。指揮者はオーケストラの創設者でもある、作曲家のヘイディ・スンドブラート=ハルメ(1903-1973)(前列左から6番目)。

(邦訳:小川至)

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こちらの記事は、ウェブマガジンである「フィンランド音楽季刊誌(FMQ)」に掲載された記事の邦訳文章です(2019年2月8日掲載)。
著者のスザンナ・ヴァリマキ、ヌップ・コイヴィスト=カーシク両女史に許可を頂いた上、翻訳・掲載しております。
以下のサイトにて原文記事をお読み頂けます。

なお、現在、本連載記事は、上記FMQにてPart 6まで公開されています。
以下に現在公開済みの拙訳へのリンクを纏めました。


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