板倉俊之

インパルスの板倉俊之です。 執筆もやっております。 『トリガー』 『蟻地獄』 『機動戦…

板倉俊之

インパルスの板倉俊之です。 執筆もやっております。 『トリガー』 『蟻地獄』 『機動戦士ガンダム ブレイジング・シャドウ』 『月の炎』 『鬼の御伽』など。

マガジン

  • 板倉微風雲録

    実体験を元に書いた回顧録集。

  • 板倉ひねくレポート

    当然を破壊することは罪なのだろうか。 たとえそうだとしても、私は真実を追いつづけるだろう。

最近の記事

新作映画を観るならレイトショーに限る。

新作映画を観るならレイトショーに限る。 僕はこの考えに疑いを持たない。 よほど不人気の作品なら話は別だが、たいていの作品は満席状態となっている。隣の人が身じろぎをする気配、後ろの席に座る人のつま先が自分の椅子を蹴る衝撃、映画の内容を理解できなくなった女が彼氏にひそひそと質問する声、ポップコーンを噛み砕く音———。 これらに邪魔をされ、作品に集中できないのだ。 そもそもなぜポップコーンなどという音の出る食べ物を売っているのか理解に苦しむ。食べていない人からすればうるさい

    • 倒れた猿

      10月下旬、僕はハイエースを運転して、オートキャンプ場に向かっていた。 高速道路を降りて、現地のスーパーで買い出しをしたあと、のどかな田舎道を走る。 景色のいい場所に行って車中泊をするのが、近ごろの楽しみとなっていた。 よく晴れた日で、空は青く、日光を受けた山は鮮やかな緑色をしている。 その緑を分断するように延びる灰色の上を、心地いい速度で進んでいく。 信号機もほとんど見なくなり、田舎の風景に癒された僕は、すでに「来てよかった」と感じていた。 それを見たのは、小さ

      • 必要のない仕事

        ローテーブルの前で片膝を立てて、僕はネタを考えていた。 無音にしたテレビ画面には、津波の映像や、悲しみに暮れる人々が映っている。 東日本大震災から、数日が経った夜だった。 ゴールデンウィークに単独ライブを控えており、そのチケットはすでに発売されていた。 僕はその台本を書かなくてはならなかったが、どうにも集中することができないのだった。 こんなときに、自分はいったい何をやっているんだ? いま「面白いこと」を考えるなど、許されるはずがないだろ——。 いっそテレビを消

        • 洗濯後、靴下の片一方が行方不明になる謎がついに解けた

          洗濯物を畳んでいるとき、靴下の片一方がなくなっているのに気づくことがある。 たいてい洗濯機のタンブラーの中に、隠れるようにして残っている。 そうでなければTシャツなどの衣類の中に、これまた隠れるように潜んでいる。 また、靴下を保管場所に入れようと引き出しを戻したとき、靴下は高確率で挟まる。おそらく70%は超えているのではないだろうか。 これらの現象は、どれも偶然とは言いがたい頻度で起こっている。 この問題について頭を悩ませつづけた結果、私はある仮説に行き着いた。

        新作映画を観るならレイトショーに限る。

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        • 板倉微風雲録
          24本
        • 板倉ひねくレポート
          11本

        記事

          「シュミレーション」と言った人に「いや、シミュレーションだから」と指摘するのはもうやめにしないか

          「simulation」という英単語がある。  私が子供だった頃はこれを、「シュミレーション」と発音するのが主流だった。 『信長の野望』などは「シュミレーション・ゲーム」と言っていたし、周りの人間もそうだった。 むしろ「シミュレーション」などと発音している者を見たことはなく、説明書などにも「シュミレーション・ゲーム」と書かれていた気さえする。 しかし現在、「シュミレーション」と読み書きすると、「いやシミュレーションだから」と指摘されてしまう。 私が大人になるまでのあ

          「シュミレーション」と言った人に「いや、シミュレーションだから」と指摘するのはもうやめにしないか

          自分以外いないはずの車内で……

          これは僕がじっさいに体験した、恐怖の記録である。 晴れた冬の日、愛車のハイエースに乗って秩父の美の山公園に向かった。 そこにある展望台にGoProを仕掛け、夕暮れの様子から夜景に変わるタイムラプス映像を撮影するためだった。 寒さに凍えながら、景色を観に来た人たちに頭を下げながら、僕はひたすら待ちつづけた。 苦労の甲斐あって、満足のいく映像が撮れた。 https://www.youtube.com/watch?v=XRdVLtop3GQ (ちなみにこの動画の一番目の

          自分以外いないはずの車内で……

          魔除けの効果

          「こんど富士の樹海に行くんだけど、板倉興味ない?」 劇場の喫煙スペースで、先輩である芦澤(あしざわ)さんが訊いてきた。 「え、ちょうど僕行きたかったんですよ!」 僕は興奮して答えた。 無意識に声が大きくなってしまったのには訳がある。 当時、『蟻地獄』の構想を練っている段階にあり、樹海をこの目で見てみたかったのだ。しかし一人で行く勇気が持てず、どうしようかと考えていたところに、まさかの誘いを受けたからだった。 「よかった。この前〈はりけ~んず〉の新井さんと、一回も行っ

          魔除けの効果

          「目尻」という表現はひどすぎやしないか。

          目の外側の端を指して「目尻(めじり)」という。 これは決して、笑うなどしてしわができた様子がお尻っぽいからではないらしい。 始まりを「頭」、終わりを「尻」と呼ぶのは、何も「目」に限ったことではない。 しかし、身体の部位を表現するのに、身体の部位を用いるのはいかがなものか。 「目尻」などと言われた目の立場からすれば、自分が目なのかお尻なのかわからなくなり、己の存在自体を見失ってしまうだろう。 聞き手の立場からしてみても、「目尻」という言葉は「目みたいな尻」という解釈も

          「目尻」という表現はひどすぎやしないか。

          渾身の力作

          悲しい目に遭わないのが一番だが、ときにその体験が、味わった悲しみ以上の喜びをもたらしてくれることもある。 ――――――――――――― 今年こそ、工作で誰よりも目立ってやる……! 小学校5年生の夏休み、僕はそう誓った。 夏休み明けに提出した作品は、しばらくのあいだ教室や廊下に展示されることになっていた。 図工は得意であるはずなのに、僕は工作の類で褒められたことがなかった。 考えられる原因はただ一つ。 本気を出していなかったからだ。 これまで自分は、遊びへの欲求に任せ、宿

          渾身の力作

          名物女将の旅館

          貶(けな)されれば落ち込み、褒められれば嬉しくなるのが人間だ。 しかし、褒められて落ち込む場合もあることを、僕は知っている。 ――――――――――――――――――― 知人からサバゲーの貸切ゲームに誘われたのは、五年ほど前のことだ。 開催日のスケジュールを調べてみると、ちょうど仕事は入っていなかったので、僕はありがたく参加させてもらうことにした。 フィールドは山梨県にあるとのことで、帰りの渋滞や運転疲れが予想された。 開催日翌日の仕事は夕方からだったので、僕は現地に

          名物女将の旅館

          謎の発光体

          不思議な光を目撃したという人は大勢いる。 じつは僕も、そのうちの一人だ。 それを見たのは、もう十年以上も前のことだ。 漁港での撮影が終わり、僕はロケバスに戻った。 窓際の席に座り、ぼんやりと外を眺めながら、ロケバスの出発を待つ。 ひっきりなしに鳴るドアの開閉音が、共演者やスタッフがつぎつぎと乗車してきていることを報せていた。 当時、ローカルのロケ番組をやっており、隔週ペースで東北地方を訪れていたのだった。 つぎのロケ場所でも、面白キャラの人と出会えるといいのだが

          謎の発光体

          「グレープフルーツ」というネーミングはひどすぎやしないか

          世の中にはたくさんのフルーツが存在する。 リンゴ、メロン、キウイ、レモンなど、それぞれに名前がつけられている。 その中で明らかに浮いているのが、グレープフルーツである。 私はこのグレープフルーツのことが不憫でならない。 どこもグレープ(ぶどう)らしくないのに、なぜ「グレープフルーツ」という名前がつけられたのか。 調べたところ、グレープと同じような感じで木になるフルーツだからだそうだ。 こんなにひどい話があるだろうか。 果実そのものが似ているならまだしも、「木にな

          「グレープフルーツ」というネーミングはひどすぎやしないか

          「いまのちょっと面白い」の「ちょっと」は必要か?

          ここ数年、誰かが気の利いた発言をしたとき、 「いまのちょっと面白い」とか言ってしまう人を目にするようになった。 「いまの面白い」ではいけないのだろうか? 「ちょっと」というワードが加えられたことで、「『面白い』といえるレベルには満たないけど」というニュアンスが発生してしまう。 これでは発言した側も、褒められているはずなのに両手放しで喜ぶことができず、下手をすれば落ち込んでしまう。 どうすれば「ちょっと」ではない面白い発言になったのだろうと、反省してしまう場合さえあるだ

          「いまのちょっと面白い」の「ちょっと」は必要か?

          パスワード、パスワードやかましいわ!

          何でもかんでもパスワードを求められる時代だ。 タブレットをひらくにも、アプリにログインするにも、文字を打ち込まなければならない。 セキュリティー保護の観点から、必要なのは理解している。 しかし僕らは、パスワードに守られるよりも、苦しめられることのほうが多いのではないだろうか。 1年ほど前のことだ。 僕は大手通販サイトで買い物をするために、スマートフォンにアプリを入れ、そこにアクセスした。 「ユーザー名またはメールアドレス、パスワードを入力してください」 という指

          パスワード、パスワードやかましいわ!

          短編小説「狂同生活」

          じっと息を殺し、私は暗闇を見つめていた。 ソファーの座の下にある収納スペースだからか、空気がとても淀んでいる。彼女によって、私は閉じ込められているのだった。 ついさっき部屋のインターフォンが鳴り、いま彼女はその応対に出ている。 自力で脱出するのは不可能だった。手のない私に、内側から座を押し上げることなどできない。 玄関の方向から、話し声がかすかに聞こえる。彼女のものと、聞き憶えのない男のもの。もしもいま私が大声を上げれば、きっと訪ねてきた人間は気づくだろう。だがそれは

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          短編小説「狂同生活」

          「のどちんこ」に告ぐ。「のど」さえつければ何を言ってもいいのか?

          セクハラや不謹慎な発言に対してきわめて厳しいこの時代に、見事なまでに非難を浴びていない言葉がある。 「のどちんこ」である。 読んで字のごとく、「のど」にある「ち〇こ」みたいなやつという意味だ。 正式には「口蓋垂(こうがいすい)」と呼称するらしいが、そう言ったところで「え? 何それ」と返されてしまい、けっきょくは「のどちんこのことだよ」と言い直す羽目になるだろう。 ならばやはり、あれはもう「のどちんこ」以外の何物でもないのだ。 仮に公然の場で「ち〇こ」と言い放ったとしよ

          「のどちんこ」に告ぐ。「のど」さえつければ何を言ってもいいのか?