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【SF小説】 母なる秘密 2-3

【あらすじ】
高校三年生の林英治は、幼い頃に父が他界し、母の美絵子と二人で暮らしていた。ある日、母の言動に立て続けに異変を感じた英治は、何者かが母になりすましているのではないか、と疑念を抱く。その正体を追った先で、英治は驚愕の真実に辿り着く。

 勉強の息抜き、という名目で家を出た後、英治はバスに乗り、昨日と同じバス停で降車した。

 近くの商店の陰からバス停を張っていると、午前八時を回ったところで、バスがやってきた。英治が降りてから三本目のバスだった。

 バスが停まり、ドアが開いた。

 もちろん、どれかの便にXが乗っている、という確証はなかった。英治は、藁にも縋る思いで祈り続けた。

 ラッシュアワーだが、主要なバス停ではないため、降車する客は少なかった。

 そして、降車客の中にXの姿があった。

 電撃のような緊張が走る。もう見失うわけにはいかない。

 その後、Xは昨日と同じ道を辿って、あの住宅街にある公園の公衆トイレに再び消えていった。昨日はたまたま立ち寄っただけだと思っていたが、ここに来る理由があるのだろうか。

 平日の朝ということもあり、公園には他の誰もいない。Xに気づかれるのを恐れ、英治は公園を囲むフェンスの外から、ひっそりとトイレを監視した。例のごとく、スマホで動画を撮影する。

 五分ほどして、トイレから人が出てきた。若いスーツ姿の女性だ。Xが来る前から入っていたのだろう。

 それ以降は人影すらなく、十分以上が経った。

 段々と焦りが募っていく。まさか、またXを見失ったのだろうか。

 英治は不安に堪えきれず、録画を停止し、トイレに向かった。

「すいませーん。誰かいますかー」

 声色を変えて建物の外から呼びかけるも、返事はなかった。中に入れば確認できるが、Xと鉢合わせるのはまずい。

 悩んだ末に、多少の後ろめたさを感じながら、英治は女子トイレに入った。

 中は個室が二つと手洗い場があるだけの簡素な造りだった。男子トイレと同じく、出入りするのは正面からでないと無理だろう。

 個室の扉はどちらも開いている。再び呼びかけてみるが、返事はない。

 英治は意を決して、手前の個室を覗いた。

 誰もいない。

 奥の個室も確認する。

 Xはいなかった。

 唖然とした。手品師の舞台に上げられた客のような気分だった。

 自分の目が信じられなくなり、英治はスマホの動画を確認することにした。

 Xが公衆トイレに入ってから、英治が録画を開始するまでは、三十秒となかった。

 四分四十秒の場面で、トイレから女性が出てくる。英治がいた場所とは反対側の出入口に向かい、画角からはずれた。

 その瞬間、英治は閃いた。女性がトイレから出てくる場面まで、急いで動画を戻す。

 女性は長髪でスーツ姿。年齢は二十代だろう。

 今度はカメラロールを開き、昨日Xを尾行した際の動画を再生する。

 三分四十二秒の場面で、女性がトイレから出てくる。間違いなく、今回の動画の女性と同じだった。

 衝撃と恐怖で、スマホを持つ手が震えた。

 この状況を説明できる考えは一つしかない――この女が、姿から声まで母そっくりに変身していたのだ。


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