【SF小説】 母なる秘密 2-2
英治が家に帰ってから一時間ほどして、Xが帰ってきた。
何を言われるものか、と息が詰まりそうだったが、Xは今まで通り美絵子のふりをするだけで、尾行に気づいている様子はなかった。
それから一週間、Xに新たな動きは見られなかった。頼みの綱である休日も、今回は家に籠もったままだった。
英治は歯痒かった。母の無事を確かめたい、という執着心だけが、今の彼を動かしていた。
そして、月曜日がやってきた。
朝、英治はなかなかベッドから起きられずにいた。
一階で扉が閉まり、鍵のかかる音がした。Xが仕事に行ったのだろう。
ふと、あることに気がついた。
今日は七月の第三月曜日。海の日だ。英治は先週末から夏休みに入ったが、祝日の今日に限っては、美絵子も休みのはずである。
なのに、なぜXはこの時間に家を出たのだろう。
盲点だった。Xは、初めから美絵子の職場には通っていないのだ。
英治は飛び起き、母の職場に電話してみよう、とスマホを手に取った。だが、会社の名前をネットの検索欄に入力する寸前で思いとどまった。
Xが出社していないということは、二週間も美絵子の欠勤が続いているということだ。職場から何の反応もないのはおかしい。Xに先手を打たれている可能性がある。
しかし、これは朗報だ。明日の朝、Xより早く家を出れば、あの電気屋の手前にあるバス停に先回りしておける。
英治は一縷の希望を見出した。
同時に、これが証拠を手に入れる最後の機会だと悟った。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?