【SF小説】 母なる秘密 3-2
「英治くん、落ち着け」
と、新田が手のひらで英治を制した。
「危害を加えるつもりはない」
「……どういうことだ」
「これから、君の拘束を解く」
英治が呆気に取られていると、その左手首に巻かれたバンドを新田が緩め始めた。
バンドの結束が解け、英治の左前腕が自由になった。手首には、しめつけられた跡が轍のように残っていた。
休むことなく、新田は他のバンドも緩めていく。
「あんた……俺の味方なのか」
「ああ。監視カメラに不具合を起こさせたのも僕だ。システム課に潜っておいて正解だった。そう簡単には復旧できないよ」
「どうして俺を助けるんだ。そもそも、あいつらは何者なんだ」
「彼らは、NEXTという政府直属の研究機関だ。ここは、その研究施設の一つ。僕はある目的のため、新田という職員になりすまし、ここに潜入している。もとの名は、飯沼亮平という」
新田――飯沼亮平が、英治の上半身に巻かれたバンドをはずし終えた。彼は屈み、引き続き英治の拘束を解いていく。
「NEXTってのは、一体、何の研究をしてるんだ?」
「通常兵器、化学兵器、その他もろもろ……。他国との軍事競争で優位に立つための、あらゆる研究を行っている。この施設は、未知の生命体やエネルギーについての研究を担当している。国民が知らないだけで、何十年も前から存在している組織だ」
普段なら一蹴しているような陰謀論だが、今さらあり得ない話だとは思わなかった。何より、今の英治には、亮平を信じる外に選択肢がなかった。
ようやく見えた光明を逃すまい、と英治は彼に疑問をぶつけ続ける。
「そんなやつらに、どうして狙われなきゃいけない。母さんの金庫に何が入ってるっていうんだ。それに、母さんに変身するやつまでいた。変装なんてレベルじゃない。体が丸ごと変わったような。いくら秘密の組織でも、そんな技術があるか。それこそ、未知の生命体みたいじゃないか」
「彼らはただの人間だよ。君に真実を話そう」
最後のバンドがはずれた。英治は自由に動けるようになったが、亮平の言葉をじっと待った。
彼が立ち上がり、英治と向き合う。
「君と君の両親、そして僕も。僕たちはモルフという星の生き物。この星からすれば、地球外生命体。つまり、宇宙人だ」
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