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【SF小説】 母なる秘密 1-2

【あらすじ】
高校三年生の林英治は、幼い頃に父が他界し、母の美絵子と二人で暮らしていた。ある日、母の言動に立て続けに異変を感じた英治は、何者かが母になりすましているのではないか、と疑念を抱く。その正体を追った先で、英治は驚愕の真実に辿り着く。

 サッカー部のエースが百メートルを走りきると、トラックの脇に集まった女子生徒から黄色い歓声が上がった。

 その後方で、英治は運動場を囲むネットの陰に腰を下ろしていた。

「十二秒くらいじゃない?」

 隣で体育座りをしている三宅が言った。

 三宅は、二年生の始めにこの学校へ転校してきた。縮れた癖毛が特徴的な、薄い顔の男子生徒だった。陰気な性格なので、周りと群れない英治がつき合いやすいのか、こうしてよく話をする。

「今年の体育祭はあいつがアンカーで決まりだな。去年のリレーも、あいつだったよね」

「クラス違ったのに、よく覚えてるな」

「転校してきたから、いろんなやつのこと見てたんだ。でも、本当は英治が一番足速いんでしょ?」

「ああ、それか……」

 英治は運動神経が良いものの、学校ではそれを隠していた。昔から、学校で目立つと、美絵子に嫌な顔をされるのだ。

 だが、一年生のとき、籤引きで体育祭のリレーのメンバーに選ばれてしまった。

 当日、前の走者までで他の組と大きく差がつき、流せばかえって目立つような状況になった。仕方なく、英治はその差を詰めた。

 結局、先頭の組のアンカーが転んでしまうという大番狂わせが起きたので、目立たずにすんだのだが、一部の生徒の間では、そのような噂が立ってしまった。

「変な妄想したがるやつがいるんだよ」

 英治はかぶりを振りながら、自分が言えたことではないな、と思った。昨夜から美絵子に抱いている疑念を誰かに話したところで、とんだ妄想狂だと思われるだろう。

「あっ、話変わるけどさ」

 と、三宅が思い出したように言った。

「昨日、下校中に英治の母さんと会ったよ」

「どこで?」

「駅行く途中にでかい電気屋あるでしょ。その前ですれ違った」

「三宅って、母さんと会ったことあるっけ?」

 三宅が宙を見つめて考える。

「確かにいつ会ったんだろう。英治の家に行ったこともないし。でも、俺が挨拶したら、向こうも返してきたよ。たぶん、学校で見たことあるんだと思う」

 三者面談で美絵子が学校を訪れたことはある。三宅が彼女を見かけていても、おかしくはないだろう。

 英治には、それよりも気になることがあった。

 学校から駅までの道は、美絵子の通勤経路ではない。仮に駅から帰るにしても、バスを利用するはずなので、徒歩通学の三宅とすれ違うのも不思議だ。些細なことだが、昨夜のこともあり、疑問に思わずにはいられなかった。

「次、俺の番じゃん。だるう」

 三宅が立ち上がり、尻についた砂を払いながら、小走りでトラックに向かっていった。


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