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メタバース入門Ⅱ(メタバースの歴史)

【メタバース入門Ⅰ】に続き、「4.メタバースの歴史」から解説します。 


4.メタバースの歴史

(1) メタバース概念の誕生と広がり

 メタバースのようなオンライン上の仮想空間のコンセプトは、それを実現するために必要なインターネットなどの技術の発展よりも早くSF作品の中で生まれ、小説、漫画、アニメ、映画などのメディアを通して一般に広がっていきました

  SF小説としては、アメリカの数学者・SF作家のヴァーナー・ヴィンジの「マイクロチップの魔術師」(1981年)が最初に仮想空間のコンセプトを打ち出したと言われており、脳と直接接続されたコンピュータ上での戦いなどが描かれています。

 その後、サイバーパンクというジャンルを確立したウィリアム・ギブスンによる「クローム襲撃」(1982年)、「ニューロマンサー」(1984年)シリーズなどが続き、1992年には、メタバースという言葉の由来とされる仮想空間サービスが登場するニール・スティーヴンスンの「スノウ・クラッシュ」が発表されました。

 漫画では、脳神経を直接ネットに接続できるサイボーグの草薙素子を主人公とする士郎正宗の「攻殻機動隊」が1989年に発表され、その後、作品がアニメ映画化、テレビアニメ化されて、世界中でカルト的な人気を誇ることになりました。

 実写映画では、主人公が物質転送機によって送り込まれたコンピュータ内部の世界を描いた「トロン」が1982年に公開されています。
 また、ウォシャウスキー姉妹が監督した、自我を持った機械によって人間が閉じ込められた仮想現実世界を描いた「マトリックス」3部作が1999年から2003年にかけて大ヒットを記録し、大きな社会現象をもたらしました。

 アニメ映画で仮想空間を描いた作品としては、先述の「攻殻機動隊」のほか、ディズニーアニメ映画の「シュガー・ラッシュ」(2012年)や細田守監督による「サマーウォーズ」(2009年)、「竜とそばかすの姫」(2021年)などがあり、特に、細田監督の2作品は、実際のメタバースのイメージに近いと思います。

 このようにオンライン上の仮想空間(メタバース)は、数多くのメディアで取り上げられ、その構築が技術的に可能になるよりも先に、一般の人にとって身近な存在となっていきました。

(2) オンラインゲームの発展とメタバース

 最も早くメタバースのようなオンライン上の仮想空間を実現し、多くの人が実際に体験できるようになったのは、オンラインゲームの世界です。
 その中でも特に、MMORPG(大規模多人数同時参加型オンラインロールプレイングゲーム)は、ゲーム内におけるユーザー行動の自由度が高まることによって、よりメタバースの概念に近いものが生まれています。

 商用MMORPGとして、世界で初めて商業的に成功したと言われるのが1997年に発売された「ウルティマオンライン」です。
 広大なワールドマップ、スキル制成長システム、生産システム、派閥戦争のサポート、本格的な家建築など現在のMMORPGに含まれる要素の多くがこのゲームによって確立され、その後のMMORPGの発展に大きな影響を与えました。
 日本でも大きな成功を収め、現在も利用者の半数近くを日本人が占めています。

  その後、家庭用ゲーム機対応ソフトの販売や定額制インターネット接続の普及によって、誰でも簡単にオンラインゲームに参加できるようになりました。
 日本でも、2002年に発売されたセガ・ドリームキャスト用の「ファンタシースターオンライン」が家庭用ゲーム機対応のオンラインゲームとして初めて成功を収めました。

 また、2000年代前半には、「ラグナロクオンライン」(2002年)、「メイプルストーリー」(2003年)、「リネージュⅡ」(2004年)などの韓国製MMORPGが日本でもヒットしました。

  MMORPGの普及によって、オンラインでのアバターを用いた活動やユーザー間の交流も活発に行われ、ゲームで知り合った仲間と実際に会うオフラインミーティングのような仮想世界から現実世界へのフィードバックも行われるようになりました。

 一方で、オンラインゲームを長時間プレーすることにより日常生活に支障をきたすオンラインゲーム依存症、ネトゲ廃人などの問題も顕在化してきました。

(3) 第1次メタバースブーム

 2006年頃には、メタバース的な仮想世界の先駆けと言える「セカンドライフ」が一大ブームを巻き起こしました。

 セカンドライフは、米国のリンデンラボ社が2003年に発表した3次元CGで作られた仮想世界サービスで、アバターを利用した仮想空間内での交流を目的とし、仮想空間内の仮想通貨(リンデンドル)で物品やサービスの売買を行うことができるのが特徴です。
 また、仮想空間内で稼いだリンデンドルを現実の通貨に換金することも可能となっています。

  仮想空間内の土地を転売することによって100万ドル以上の財産を築くユーザーも現れ、各種のメディアに取り上げられたことで、セカンドライフは注目を集め、最終的に2,000万以上のアカウント数を達成しました。

 また、日本企業を含む世界中の企業が経済的効果を求めてセカンドライフの土地を購入し、仮想空間内のバーチャル拠点の運営を開始しました。

 しかし、爆発的な人気を博したセカンドライフは、わずか1年でユーザー数の激減に見舞われました。
 参加者の増加にサーバー環境の整備などが追い付かずに、免許制にして接続人数を絞ったことによりサービスが低下したこと、参加者の大量流入によるリンデンドルの供給過剰でインフレが続き、その後バブルが崩壊したことから経済的利益を狙ってセカンドライフに参入してきたユーザーや企業が一気に離脱したことなどが原因と言われています。

 こうして2009年頃には、第1次メタバースブームは沈静化し、セカンドライフは現在もサービスを提供しているものの、アクティブユーザーは激減し、影響力は失われました。

 セカンドライフの失敗は、多くの人達の記憶にトラウマとして残り、現在でも、当時のことを思い出して、メタバースのブームに一抹の不安を覚える人達がいます。

(4) 第2次メタバースブーム

 2021年10月にフェイスブックが社名をメタに突如変更し、メタバース事業を中核とする企業へ移行するとマーク・ザッカーバーグCEOが宣言したことなどから、IT業界において、メタバースが再び注目を集めています。

 メタは、2014年にVRデバイスを開発するオキュラス社を買収し、2019年にはメタバースのプラットフォームとして「ホライズン・ワールド」(当時の名前は「フェイスブック・ホライズン」)を発表しました。

 また、2021年8月には、同社製VRヘッドセットの「メタクエスト2」を装着して、仮想空間上の部屋にアバターで集まり、会議や打合せを行える会議用VRソフトの「ホライズン・ワークルーム」を公開しました。


  2022年1月に米国ラスベガスで開催された世界最大規模の電子機器見本市CES2022でも、メタバース関連技術が最大の注目を集めました。

CES2022

 この中でマイクロソフトは、複合現実プラットフォーム技術の「マイクロソフト・メッシュ」を紹介し、ARメガネ用チップの開発で米国半導体メーカーのクアルコムと提携すると発表しました。
 また、同じく米国半導体メーカー大手のエヌビディアや韓国の現代自動車も自社のメタバース関連技術を紹介しました。

 日本企業では、パナソニックがメタバース事業に本格参入すると表明し、超軽量VRメガネの「メガーヌX」や背中に取り付けることで仮想空間の場面に応じた寒暖の変化を感じられるメタバース用端末を発表しました。
 また、ソニーグループやキャノンもメタバース実現に向けた製品の開発を進めていることを明らかにしました。

 このように、世界中の企業がメタバースの実現に向けた技術の開発にしのぎを削っており、第2次メタバースブームとも言うべき活況を見せています。

メガーヌX

 10年もの歳月を経て、現在再びメタバースが盛り上がりを見せている理由は、2つあります。

 一つは、メタバースを支える技術が進歩し、成熟化してきたことです。10年前と比べてパソコンや通信技術が格段の進歩を遂げ、AR、VR等のイマーシブテクノロジー(没入型技術)も成熟化して、より現実に近い精緻なデジタル世界を構築できるようになってきました。

 また、仮想空間上にユーザー自体が制作したコンテンツを構築するというUGC(User Generated Contents)の文化も根付いてきました。

 もう一つは、2020年から世界中で感染拡大した新型コロナウイルス感染症の影響です。
 この未曾有のパンデミックによって世界各地でロックダウンが実施されたことが仮想空間への関心を高めることに繋ったと言えるでしょう。

 人々はロックダウンや外出自粛によって在宅での勤務や学習を余儀なくされ、テレワークや遠隔教育、オンラインでの人との交流のニーズが高まりました。
 こうしたことから、Zoom、Microsoft Teams、Google Meetなどのウェブ会議システムを利用したオンラインのコミュニケーションが急速に広がりました。

 さらに、オンラインゲームのアバターを利用して、直接会えない人達との交流を図ろうとする動きも見られるようになってきました。例えば、2020年に世界中で大ヒットした任天堂の「あつまれ どうぶつの森」では、ゲーム空間上に自分の町を建設したり、友人を招待してパーティーを開いたり、ファッション展覧会や各種の会議を開催したりするなど、人々が隔離生活を強いられる中で、仮想世界を通したソーシャルアクティビティが活発に行われました。


〇全体構成

【メタバース入門Ⅰ】
 1. メタバースとは何か
 2. メタバースを支える技術
 3. メタバースの分類 
【メタバース入門Ⅱ】
 4. メタバースの歴史 
【メタバース入門Ⅲ】
 5.メタバース実現に向けた企業の取組
 メタバース入門Ⅳ
 6. 代表的なメタバースサービスと始め方
【メタバース入門Ⅷ】
 
7. メタバースの課題と展望

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