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メタバース入門Ⅷ(メタバースの課題と展望)

7.メタバースの課題と展望

 昨年10月のMeta Platforms(旧Facebook)のメタバース企業移行宣言以来、多くのマスコミがメタバースを取り上げ、「メタバースに乗り遅れるな!」という煽り文句がネット上にあふれるなど、メタバースブームとも言うべき状況が発生しています。

 一方で、「メタバースは、ファイナルファンタジーⅩⅣのようなオンラインゲームの後追いでしかなく、結局、ゲーム以上のものにはならない。」と主張する2ちゃんねる創設者のひろゆき氏などのように、メタバースが一過性のブームで終わると指摘する人たちもいます。

 メタバースは、一過性のブームにとどまらずに、本当に一般に普及し、インターネットやスマートフォンのように世界を変えていくサービスに成長するのでしょうか。

 また、メタ-バースが普及して、多くの人達に利用されるようになる鍵は何でしょうか。
 こうした疑問について解説します。

ソーシャルVRサービスのcluster

 メタバースが今後、一般に普及していくことができるかどうかを考える上で重要な要素として、以下の3つのポイントが挙げられます。
(1) 没入感 (Immersion)
(2) 日常使用 (Daily Use)
(3) ブロックチェーン技術 (Blockchain)

(1) 没入感 (Immersion)

 現在でも、ソーシャルVRサービスやバーチャル会議室など様々な「メタバースサービス」が稼働していますが、私たちがSF小説や漫画、アニメ、映画で馴染みのある現実との区別がつかなくなるようなリアルな仮想世界は、まだ実現していません

  新しい製品やサービスがユーザーに爆発的に受け入れられるためには、これまで体験したことがないような新鮮な驚きと感動が必要です。

 例えば、2007年に発表されたiPhoneは、1台の端末で様々な用途に使える利便性と感覚的に操作できるタッチパネルの使いやすさで、驚きを持ってユーザーに受け入れられました。
 それ以前にも、タッチパネルはありましたが、iPhoneのタッチパネルの操作性は他のものより格段に優れており、iPhoneを指で操作することが快感に感じられました。

 映画のマトリックスのような現実感のある仮想世界を実現するには、脳神経とコンピュータを直結するような特殊な技術が必要になりそうですが、そこまで行かなくても、まるで自分が仮想世界に入り込んでいるような圧倒的な没入感が得られないと、多くの人に驚きや感動を与えることはできないでしょう。 

 没入感という点では、やはり三人称視点のアバターの操作では十分ではなく、VRゴーグルによる一人称視点の映像が必要ではないかと考えています。

 また、Meta Platforms(旧Facebook)の開発したHorizon Workroomsは、仮想空間に臨場感を持たせるために、アバターの口や手の動き、表情をユーザーに同期させる技術を導入していますが、没入感を高めるには、更なる技術のブレイクスルーが必要だと思います。

 その点、Epic Gamesが開発した3Dゲーム用エンジンのアンリアル・エンジン5は、3D動画のきめ細かさと美しさ、スムーズな動きで将来性を感じさせます。

 視覚や聴覚だけでなく、触覚も没入感を高めるために重要な要素かもしれません。

 また、現在のVRゴーグルは、とても大きく重すぎて、長時間使用すると疲れてしまいますし、VR映像を長時間見続けると目も疲れます。
 VRゴーグルを小型軽量化し、長時間使用していても疲れないようにすることも必要です。

パナソニック子会社のShiftallが開発した超軽量VRゴーグル「MeganeX」

 現在、Meta PlatformsやMIcrosoftを含む巨大IT資本がメタバースの実現に向けた技術の開発に積極的に取り組んでおり、日本でもソニー、パナソニック、KDDIなどがメタバース関連の技術開発に力を入れています。

 こうして、すべての技術的パーツがそろい、これまでにない没入感を実現したときに、メタバースは一気にブレイクするでしょう。 

(2) 日常使用 (Daily Use)

 ゲームをプレイしたり、気の合った仲間とチャットしたりするなど、遊びだけのためにメタバースを使うのでは、普及に限界があります。
 やはり、仕事や学習などの真面目な用事でも普通に使えるようにならないと、メタバースの使用は一時的なものにとどまり、これ以上に普及することはないでしょう。

 仕事や学習でメタバースを使用してもらうためには、まるで仮想世界に入り込んでいるような高い没入感を実現することと併せて、仕事や勉強に使えるツールを揃える必要があります。

  例えば、学校の場合、先生の授業を聴いて、黒板を見るのと合わせて、ノートを取ったり、先生に質問したり、テストを採点してもらったりと、現実の学校生活で必要な作業をすべて仮想空間上でスムーズに実現できるようにならないといけません。

 また、仕事の場合は、複数メンバーでの打ち合わせがストレスなくできるとともに、パソコンで資料を作成したり、資料を用いてプレゼンを行ったり、上司の決裁を仰いだりすることがスムーズにできないといけません。

Meta Platformsが発表したHorizon Workrooms

 そして、実際に職場や学校に通うよりも、メタバースの方が便利で使い勝手がよいとなったときに、メタバースの普及が爆発的に進むのでしょう。

(3) ブロックチェーン技術 (Blockchain)

 ブロックチェーン技術を基にした仮想通貨やNFTがメタバースに導入されれば、メタバース内のデジタル資産の売買が可能となり、メタバース内での経済活動が活発になって、多くの企業や個人の参加を呼び込むことができます。

 また、メタバースの運営者もメタバース内の土地を売ることなどによって、継続的な収益を得ることができ、より安定したメタバースの運営・管理が可能となります。

 しかし、仮想通貨やNFTを取り扱う仮想通貨取引関係者が「メタバースにはブロックチェーン技術が不可欠。」と主張することについては、危険性も感じています。

 かつて、セカンドライフは、仮想空間内で流通する仮想通貨のリンデンドルや土地の価格が高騰して、値上がりによる利益を狙った企業や個人投資家たちが集まり、その後のリンデンドルや土地価格の暴落とともにブームが過ぎ去ってしまいました。

 また、ビットコインなどの仮想通貨も、値上がりを期待した投資家が集まることによって価格が高騰し、価格の乱高下が激しくなって、本来の目的である通貨としての役割を果たすことができなくなっています。

 今回のメタバースブームでも、ブロックチェーンゲームやブロックチェーンベースのプラットフォームで使われている仮想通貨や仮想空間内の土地の価格が高騰しており、危険な兆候が見られます。
 デジタルの土地はいくらでも追加することができ買い占めによって価格が高騰するのはナンセンスです。
 販売する土地の量を制限しているメタバースもありますが、そもそもメタバースは一つではありません。

 マネーゲームによるデジタル資産の高騰が始まると、あまりコンテンツの方に関心が向かなくなって、セカンドライフのように廃れていく可能性があり、注意が必要です。

 コンテンツやサービスの内容を評価して、価格が上がるのであれば、構わないのですが、その内容に不相応なほど価格が吊り上がっているのであれば、それはバブルに過ぎません

 メタバースについては、投資の対象と見るよりも、実際に提供されるコンテンツやサービスの内容を見て、利用するかどうかを決めてもらいたいと願っています。

【結論】

 メタバースの将来性には期待していますが、現在のメタバースの技術は、没入感や日常使用できるかどうかの観点からみると、まだひよこの状態で、これからまだまだ技術のブレイクスルーが必要です。

 そして、その技術がある一定のレベルに到達すれば、メタバースは爆発的に普及していき、インターネット革命が起きた時のように、メタバース革命として世の中を変えていくことでしょう。

 また、NFTなどのブロックチェーン技術は、メタバースの発展に役立つものですが、あまりNFTを通じたデジタル資産の取引の方ばかりに注目が集まると、今回のメタバースブームを短命なものに終わらせてしまう恐れがあります。

 これまで仮想世界に興味のなかった人でも、「メタバース」について話を聞くようなブームが始まっていますが、意味を理解しないままでブームに乗るのは危険です。

 例えば、現在のAIブームを牽引しているのは、プロ棋士に勝ったAlphaGoや画像認識などで有名なディープラーニング技術ですが、最近、予備校などが大々的に宣伝しているAIを利用した学習システムには、一世代前のAIであるエキスパートシステム(ルールベースAI)が使われており、ディープラーニング技術は基本的に使われていません。

 このように、「メタバース」の名前に値しないサービスが便乗して、「メタバース」として売り込まれることに注意する必要があります。

 目先の利益を求めてメタバースに手を出すのではなく、いずれ将来的には、メタバースが爆発的に普及する時代がやって来ると考えて、長い目で見守っていくことが重要だと思います。


〇全体構成

【メタバース入門Ⅰ】
 1. メタバースとは何か
 2. メタバースを支える技術
 3. メタバースの分類
【メタバース入門Ⅱ】
 4. メタバースの歴史
【メタバース入門Ⅲ】
 5.メタバース実現に向けた企業の取組
メタバース入門Ⅳ
 6. 代表的なメタバースサービスと始め方
【メタバース入門Ⅷ】
 
7. メタバースの課題と展望

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