一緒にパンを食べる人たち
会社という仕組みはイタリアでうまれ、カンパニーという英語の語源は一緒にパンをわかちあう人を意味する「コンパーニャ」から来ているそうです。カシミアを中心としたハイエンドな洋服店ブルネロ・クチネリ創業者が自分の生い立ちや、経営哲学を語る、この一冊。最高の服をつくるために、人を育て、さらにはその人たちが暮らす街までつくってしまったイタリアの会社です。
アダム・スミスは「神の見えざる手」という表現で、経済が成功するとその富が社会に還元されて国が豊かになるという話を『国富論』にあらわしています。ただ、それは放っておいても勝手に自動調整されるわけではなく、人の強い意志とある種の信仰によってこそ成しえることをクチネリ氏の言葉の端々から感じられます。自分ひとりがパンを独り占めせずに、家族のような関係者達と分かち合うことでより美味しく味わえる。洋服という点ではなくライフスタイル・人生という面での上質感がブランドとしてヒシヒシと伝わってくる、そんな本でした。
祖父が経営していた餅屋も小さな会社でしたが、まさに社員やアルバイトがみな自分の叔父や叔母や年の離れた兄弟姉妹のような環境で僕は育ちました。イタリアの職人を大切にし、社員と家族的な関係で経営するブランドについて読んでいると、たしかにそれによる柵(しがらみ)もあったかもしれませんが、日本の会社経営は妙な個人主義意識の下で大切なものを無くしつつあるような気もします。
人間主義的経営(2021年、クロスメディアパブリッシング、ブルネロ・クチネリ)
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