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【読書感想】あなたは忘れられない「恋」をしたことがありますか?

あらすじ

4月、精神科医の藤代のものに、初めての恋人・ハルから手紙が届いた。だが藤代は1年後に結婚を決めていた。愛しているのかわからない恋人・弥生と。失った恋に翻弄される12か月がはじまる——
なぜ、恋も愛も、やがては過ぎ去ってしまうのか。川村元気が挑む、恋愛なき時代における異形の恋愛小説。

感想

新海誠や星野源・あさのあつこなどの多くの著名人が絶賛し、川村元気の全てが詰め込まれた傑作恋愛小説です。

なぜ人は「愛する」のか
なぜ「愛した」人を忘れられないのか
そもそも「愛」とはなんなのか

を強く訴えかけるこの作品は、メッセージ性が高く、色々なことを考えさせてくれました。

大学時代の甘酸っぱい恋、2人で見た花火、彼女が撮った色素の薄い写真、全てに透明感があり、自分の心が浄化されるようでした。

また文章は上品なように感じますが、そこには確実に熱が纏ってあり、ラストの展開などはほんとに素晴らしかったです。。。

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※ここからネタバレ注意

「四月になれば彼女は」

本作の題名は、1960年代アメリカで活躍した、サイモン&ガーファンクルの「April Come She Will」(1966)という曲が由来となっています。

短い曲なので日本語訳だけ紹介します。

4月に、彼女は現れる
雨で小川の勢いが増す頃に

5月に彼女は居てくれる
再び、僕の腕で休んでいる

6月に、彼女の様子が変わる
休むことなく、歩き回り、夜に出掛けていく

7月に、彼女は飛び出していく
なんの前触れも無く

8月に、彼女はいなくなる
秋風が、ひんやりと冷たく吹き付ける

9月に、僕は思い出す
かつて新鮮だった愛情も、古びてしまうという事を

読んでもらった通り、4月に出会った彼女に恋をしたが、いつの間にか自分の前からいなくなってしまい、愛情とは元々儚いものだったということを思い出すという内容で、川村元気の本作も大方このような物語展開になっています。

流れと構成

4月に、今はもう別れてしまったかつての初恋相手のハルから手紙が届いた。手紙を受け取った主人公の藤代は一方で、結婚を控えている恋人がいた。しかし、藤代は恋人とセックスレスで、ハルのことはずっと気になっていた存在だった。

このような導入で始まり、「ハルの手紙」「藤代の現在」「2人の過去」という3つの時間軸を中心に描かれています。

忘れられない恋

大学の写真部で出会った2人、藤代は彼女の空気感や色素の薄い写真が大好きだった。電車の中でたまたま2人で見た花火。彼らは互いに想いあっていた。初恋だった。

こういう甘酸っぱい恋愛いいですよね〜
とても憧れます。

初恋のときってみなさん覚えていますか?
私は幼稚園のときなのであんまりですが、初恋が高校や大学のときとなると忘れられないものになるのは当然ですよね。

消去法の愛

藤代と現在の彼女・弥生は2年間セックスレス。
完全に愛し合っていた訳ではなかった。
嫌い「じゃない」から、一緒にいて苦痛「じゃない」から一緒にいる。

これは「愛」とは言えないと断言できます。セックスをすることで愛が成立するということでは無いですが、自分がほんとに一緒にいたい人、一緒にいて自由を感じられる人、自分の全てを受け止めてくれる人に本当の「愛」を感じるのだと私は思います。

永遠の愛

愛を終わらせない方法はひとつしかない。それは手に入れないことだ。決して自分のものにならないものしか、永遠に愛することはできない。 
                                                       本文p198

作中のこの文はなんかちょっと嫌ですよね。
永遠の愛なんか無いって言ってるようなものですから、どことなく諦めているように感じます。
ですが、解釈を変えてみればどうでしょうか。
2人を繋ぐものが愛なのではなくて、2人を繋ぐ「ため」のものが愛だとしたら、失ったとしても2人はずっと繋がったままですよね。でもこれにはやはり時間や相性が影響しますが、そう解釈することで少しだけ希望が見えるような気もします。

生と死と愛

本作では生と死の対比も美しく描かれています。
「生とは」「死とは」などの哲学的なことを考え始めるとキリがないのであまり語りませんが、「人を愛する」ということは生死の価値観にも大きく影響すると思います。「人を愛する」ことで生の喜びや、死の悲しみが実感として生まれることで、「愛する」ということの価値があると言えるのではないでしょうか。

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上記のように川村元気の「四月になれば彼女は」を通して「愛」について考えてきたんですが、まずそもそも愛する人を見つけなきゃいけないことを忘れないでください笑

最近は「恋愛なき時代」といって、1人でも幸せに生きていける社会に変化しつつあります。生き方は人それぞれですが、「愛」というものは人生を豊かに色付けしてくれるものだと思います。本作を読んで再確認することが出来ました。

みなさんもぜひ本作を通じて、色々な思いをめぐらせてみるのもいいんじゃないでしょうか。


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