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最後の夏休み、私たちはきっと大丈夫だと思った

学部生最後の夏休み。
このご時世ゆえに久しぶりに仲間と宅飲みをした。

締まらない乾杯の音頭を取って、まずはそれぞれの進路について話す。
みな概ね順調で、うち一人はひとり暮らしをしている部屋をじきに引き払うそうだ。

ほろ酔いの勢いで、「今年はまだ一度もしていないから」と言って半ば強引に線香花火をした。
ぬるい夜風が強く吹くから、ろうそくに火が全然つかない。
仕方ないのでチャッカマンと花火で火を直接回しつける。
テンポが悪くてちょっと笑ってしまう。

そのままダラダラした時間の流れに身を任せ、テレビのない部屋で夜を語り明かす。
そこに小さく響くのは、絶えることのない自分たちの声だけ。
お酒はとうに無くなって、代わりにお茶を飲む。
もしかしたらお酒は必要なかったのかもしれない。

「もう体力が無いから徹夜なんて無理だよ」とぶつぶつ言いながら、結局は空も白んだ頃に帰路につく。
また遊ぼうと手を振り、三々五々に消えていく。

これは断言してもいいが、来年からはこの季節にこんな風に集まることは出来なくなるだろう。
それぞれ住む場所もすることも変わり、交わっていた日常は少しずつ違えていくのだ。

ただ、そうだと分かっていても、この夏の日の私たちは「次は外で美味しいお肉を食べよう」だとか、「俺が働き出しても遊びに来てよ」とか、「(小規模でもいいから)卒業旅行くらいは行こう」と口約束をした。
あまりにも儚いそれを、誰もが本気で口にしていた。

漠然と、しかし確実にある信頼を肌で感じる。
そんなことが言えるのならば、彼ら彼女らはこれからも大丈夫だし、私もきっと大丈夫。
会えない間に抱えていた、一個人の希望的観測に近い思いが、一転、確信に変わった。

きっと大丈夫。
何が、というのは言うだけ野暮だ。

私たちは出会った時よりいくらか大人になったけれど、友達だと自然に思えるのなら、今日も明日もその先も、子どもみたいに笑い合えるだろう。

これは在りし日の夏の記録。
青い夏が、こうしてまた過ぎていく。

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ロストデイアワー/JIN

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