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ふたたびの

日がどんどん短くなる。
いつもと同じ時刻の帰り道が、今日はもう車のライトが眩しいほどに暗い。
かつてあった秋という季節の出来事が、向かい風に乗って、これでもかと迫ってくる。


9月公演と11月公演の間には秋巡業があって、地方都市や、都内でも郊外と呼ばれる地域の劇場や文化センターがその舞台になる。
本公演とは違った気楽さと軽やかさがあり、終演後の寂しさもまた独特だ。
すっかり暮れた郊外の町を、やたらと歩いた記憶。
アオマツムシの音が高らかに響く。風の音。踏切の音。


しばらく離れていた劇場というところへ、この9月久しぶりに出かけた。
入り口にはお決まりの消毒液とサーモグラフィーがあり、切符の半券は自ら切り取って用意された箱に入れる。
座席は一つおきに指定されている。床周りは大きく刈り取ったように覆いがなされ、ぽつぽつと人の姿が浮かぶ客席はいやに見通しが効いて、清々しいような、落ち着かないような。
場内整備の係員も、発声せず看板を掲げるだけ。いつもならざわついている開演前の客席も、しんとしている。まあ、良いのだ、再開したのだから。


本公演の帰り道は、さみしくはない。
舞台から床から注がれたエネルギーを、体内に感じて歩く。
お堀添いの風、すれ違うランナーたち。頭上のユリノキがざわりと揺れる。
ことしも、秋がきた。




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