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エッセイ | 大丈夫? ってきかないで

「『大丈夫?』って聞くとみんな『大丈夫です』って答えるから、こう聞くのはダメだな」そう言った人は、それ以降「大丈夫?」と聞いてくることはなかった。そう尋ねられると「大丈夫です」と答えていた私にとっては非常に助かった。

世間には自分が陥っている状況を隠してしまう人が少なからずいる。本人たちからすれば伝えられないだけで、隠しているつもりなどないのだが。

ただ、「大丈夫?」という聞き方は非常に危険だ。「大丈夫です」と答えるか、「大丈夫じゃないです」と答えるかのどちらかしかない。「大丈夫じゃないです」と返ってきた場合、聞いた本人は『大丈夫じゃない人』に深く立ち入る覚悟はあるのだろうか。「おいおい、元気を出せよ」みたいに適当にあしらってしまうのが常だろう。

そもそも「大丈夫?」と聞くのはコミュニケーションの1つと考えられているのだろう。「天気がいいね」、「あのコンビニ閉店したね」みたいな何気ない雑談のタネである。「大丈夫じゃないよ、恋人にフラれてさ〜」と自分の悩みを言える人は「大丈夫?」と聞かれなくても相談するだろうし。そこで「大丈夫です」とだけ答えてしまう人は、雑談もできないほど追い詰められているのかもしれない。タネに水をあげないため会話に花も咲かない。もらったタネにも気付けないのだ。

もちろん本当に大丈夫なこともあるだろう。「何も問題はありません、大丈夫です」そういう人だっている。だから怖いのだ。大丈夫な人と、大丈夫ではない人の区別がつかない。

会話するのは非常に難しい。自分の考えていることが相手に正しく伝わっているかなんて分からない。「大丈夫」には前後に消された言葉があるはずだ。単体では意味が通じないと考えておいた方がいい。この言葉は慎重に使わなければ、人を見失い、自分を失うことになってしまう。

「大丈夫」は万能な言葉ではないから、もっと他の言葉と一緒に使ってほしい。



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