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エッセイ | 夜を歩く

夜の道を歩く。イヤホンを耳に付けて好きな曲を聴きながら前へ進む。最近のイヤホンはノイズキャンセリング機能が発達しているため、周囲の音を遮断し自分だけの世界に連れて行ってくれる。しかし、夜道でこの機能を使うのは危険だ。

後ろから自転車や自動車が来ているかもしれないし、もしかしたら不審者がつけてきているかもしれない。私はもしもの場合を考えて外音取り込み機能を使用して音楽を聴く。


歩いていると後ろから子どもの声が聞こえる。子どもと言っても中学生か高校生くらいだ。この時間まで出歩いているならば高校生かなと考える。3人か4人程度で帰っているのだろう。

声の近づき方からして自転車に乗っているのだと思うのだが、その子どもたちはなかなか私を追い越さなかった。後ろにいる人たちが何人いるのか分からないのは少しばかり苦手だ。

早く追い越してほしいなと思いながら歩くスピードを緩めるが、それでもなかなか追い越されない。


突然叫び声が聞こえたかと思うと、自転車が1台、2台と私を追い越していく。高校生とおぼしき男の子が自転車をこいでおり、2人とも笑いながらすぎていく。

その後ろから何かを叫びながら、もう1人の男の子が走っていく。この子は自転車に乗っていなかった。どうやら鬼ごっこをしているようだ。

自転車の2人が徒歩の彼にあわせてゆっくり自転車をこいだり、徒歩の彼が自転車の2人にあわせて走ったりしながら帰っているようだった。

そろそろ電車もなくなるくらい遅い時間に、ここまで元気に走り回る子を見たのは初めてかもしれない。みるみるうちに先を走る自転車に追いついていた。

昼の出来事であればそこまで気にしなかっただろうが、夜に見るこの光景は不思議なものだった。

男の子たちはあっという間に視界から消えていった。どんどん走っていって見えなくなったわけではなく、交差点を曲がったから見えなくなっただけだ。


そうなると辺りは静かになる。私が駅から離れていく方向へ歩いているためか、こちらに向かってくる人は少なかった。

10分ほど歩いたところで引き返すことにした。Uターンして来た道を戻る。そうすると今度はたくさんの人とすれ違った。駅から自宅へ帰る人たちだ。今の時間帯に駅方面に歩いている私は珍しいのか、すれ違う人みんなに見られた。

恥ずかしさから帰りたいと思い「走って帰ろうかな」なんて考えたが、今の私はあの子どもたちのように走ることはできない。足元を見ながらゆっくりと歩いていった。



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