見出し画像

都会のカエルはモテるらしい

異性の好みは、ヒトによってそれぞれです。

身長の高い人が好きな人もいるし、性格やお金を重視している人もいるでしょう。しかし、カエルは都会で生活するシティボーイがモテるということが、2019年に科学雑誌Nature ecology & evolutionに発表された論文から明らかになりました。

Halfwerk(ハーフワーク)たちの研究グループは、都会と森林の両方に生息するトゥンガラガエルというカエルの1種を対象として、都会のオスと森林のオスのどちらがモテるのかという疑問を調べました。

モテるかモテないかを決める1番の要因は、メスの好みにあります。メスのカエルは、オスの鳴き声を基準として交配相手を選びます。トゥンガラガエルも同様で、オスは「ガガッ」というシンプルな鳴き声でメスを誘惑します。

メスたちは、このシンプルな鳴き声のわずかな個体間の差から、オスを選別していきます。ハーフワークらの研究グループは、鳴き声が都会に住むオスと、森林に住むオスとで異なるのではないか、さらに、都会に住むオスの方がメスにとって魅力的に映るのではないかと仮説をたてて、研究を開始しました。

まず初めにハーフワークたちは、パナマの都市部11か所と森林11か所でトゥンガラガエルの鳴き声を記録しました。すると都会に生息する雄は、森林の雄と比べて鳴く回数が多く、さらに鳴き声が複雑であることがわかりました。

では、この都会のオスの鳴き声の複雑さは、メスにとって魅力的なのでしょうか?

その疑問を検証するために、ハーフワークたちが実験室で飼育しているトゥンガラガエルの雌に向けて、都会の雄の鳴き声と森林の雄の鳴き声を再生する実験をおこないました。すると、雌の4分の3はより複雑な鳴き声をしている都会の雄に引き付けられることがわかりました。都会のオスのほうがモテることがわかったのです。

続いてハーフワークたちは、都会と森林のあいだでみられたカエルの鳴き声の違いが、それぞれの場所で固定されたものなのか、都会に進出した個体が都会の環境に対してうまく鳴き声を調整しているのかを調べる実験を行いました。

その方法は、都会のトゥンガラガエルを森林の生息地へ、森林のトゥンガラガエルを都会の生息地へそれぞれ移し、鳴き声を調べるという実験です。結果、都会のカエルを森林へ移すと、驚くことに都会でないていたような複雑な鳴き声は出さず、単純な鳴き声に変えました。その一方で、森林のカエルを都会へ移しても、鳴き声が複雑になることはありませんでした。

なぜ、都会のカエル達は森林で鳴き声の複雑さを抑えたのでしょうか?

論文を発表したハーフワークたちは、捕食者の影響を指摘しています。森林には、声を頼りにカエルの居場所を突き止めて食べてしまうフクロウやコウモリなどの生き物が多くいます。トゥンガラガエルの大きな声や複雑な声は、それらの捕食者に自身の居場所を伝えることに一役かっていたということです。特に、静かな森林の夜にその影響は顕著で、トゥンガラガエルの鳴き声に向かって夜の捕食者たちは集まってくるのです。

一方で、都会の夜は状況が違ってきます。都会の夜は鉄道や自動車、町の雑音が大きいため、音を頼りにカエルたちを探す捕食者は、なかなかカエルの居場所を特定することができないのです。そうした危険の少ない状況を把握したトゥンガラガエルたちは、積極的に大きな声で鳴き、複雑な歌でメスの気をひいているようです。つまり言い換えれば、シティボーイたちは、状況に応じて自身の鳴き声を調整する能力を手に入れ、メスたちを誘惑していたのです。

この研究は、都市という環境によって生物の進化が起きたことを示す最新の知見の1つです。今回トゥンガラガエルの進化を引き起こした要因は都会の騒音でしたが、夜間の照明や風力発電のプロペラ、ヒートアイランド現象など、動物の進化を引き起こす原因はさまざま知られています。

私たちの身の回りに目を向ければ、駅前ではハトやカラスが生活しており、足元にはコケや雑草が生えていることでしょう。それらの生き物はどのような進化をして、都市という生き物にとって生きていくのが難しい環境に適応したのでしょうか。それぞれに焦点を当てて研究をすることで、面白い発見が得られるかもしれません。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
以下、引用文献

Halfwerk, Wouter, et al. "Adaptive changes in sexual signalling in response to urbanization." Nature ecology & evolution 3.3 (2019): 374-380.


この記事が参加している募集

生物がすき

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?