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続・アトピー地獄

前回の「アトピー地獄」では、私が体験したオトナアトピー(大人アトピー)の苦々しい日々を綴った。未読の方は是非「アトピー地獄」を先に読んでいただきたい。今回は、地獄の先にあったその後について書いておこう。


元には戻れない

 私のオトナアトピーは完治したわけではない。今も痒みがつらい日々は続いているが、地獄にいるわけではない。ここまで来るのに18年かかった。身体も完全には元に戻らないし、心に至っては以前の自分とはすっかり変わってしまった。違う人間になってしまったのだ。

苦しみを引きずるな

 そんな自分を認められないまま、毎日が過ぎてゆく。変わってしまった自分が受け入れられずに悩み続ける人もいるだろうが、今の自分は地獄を逃れた先にあるのだ。たとえまだつらい日々が続いていても、以前の苦しみまで引きずる必要はないはずなのだ。


変化の連続こそが人生

陸に上がる古代魚のように

 勉強でも仕事でも、出来なかったことが出来るようになるのと同様に、以前は出来ていたことが出来なくなってしまうことがある。人は一生の中でどんどん変化していく。その変化を喜ぶこともあれば嘆くこともある。

 良いことも悪いことも起こるのが人生だ。そして大抵は、予期しないことが突然降りかかる。それが地獄の苦しみでも天国の奇蹟でも、起こってしまうことは起こるのだ。

 「悩んでも仕方がない」そう考えることで少しは気が楽になる。あきらめではなく、何事も受けとめようとする感覚。そういえば昔、親父が口癖のように言っていた言葉を思い出した。

 「死にゃぁしねぇよ」

 どんなことが起きたとしても、そのほとんどは大した問題ではない。深刻な事態に直面する時ほど、そう考えるだけで肩の力が抜けて、心は強くいられるものだ。


心に従え

 アトピー地獄に突き落とされた会社を離れた後、私は某技術開発会社に数年間勤務した。その会社では執行役員兼社内デザイナーを務め、関連する財団法人の理事職も兼務した。小さな組織だったけれど社員の入れ替わりは早かった。それぞれの社員はそれぞれの理由で入社し、去っていった。

 ここでも私は度々、カポジ水痘様発疹や帯状疱疹に苦しめられたが、勤務した数年間で誰にも誇れる実績は残すことが出来たと自負している。結局は会社を去ることになったのだが、迷いはなかった。自分の心向きに素直に従ったのだ。社長と専務と秘書だけが残った会社のその後は知らないし、興味もない。

 同じ頃、私は個人事業でいくつかの会社から製品デザインを請け負っていた。ひとつひとつ明確なゴールに向かって自分の能力を発揮できる仕事を繰り返したことで、私はデザイナーとして事業に貢献する喜びを少しずつ取り戻すことが出来た。

ものづくりは楽しい

 心が正しく働きさえすれば、自分自身がどうしたいのかはわかるものなのだ。


自分を認める

 私はオトナアトピーになって生き地獄の日々を過ごしたけれど、今では少しはまともな毎日を送れるようになった。そして、以前の自分とは違う身体と心で生きている。かつて夢に描いた自分自身の姿ではないけれど、この自分を認めない限り苦しみは続いていく。

 幸せに生きる唯一の方法は自分を認めることだ。そこからあらためて次の一歩を踏み出せばいいし、必ずしも前向きに踏み出すこともない。

 私は、かつて友人が放った「人生横向き」という言葉にならって、何ごとも「思い詰めないこと」が幸せに生きる極意だと辿り着いた。自分を追い込まずストレスを溜めないことは、オトナアトピーから逃れる最善の方法でもある。

 周りの雑音に惑わされずに、自らの思い、心の声に忠実に生きる。多少は他人に迷惑をかけても周りを頼っても、頭を下げて済む程度であればそれでいいじゃないか。やりたいことに素直であれ。そして今の自分にできることを静かに受けとめながら進むのだ。

(了)


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