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人生横向きについて考えた

 「人生横向き」とは、かつて友人が放った言葉である。世代を越えて生きづらさを感じる現代社会では、前向きでも後ろ向きでもない、横向きの思考こそが人々を救ってくれる。

 件の友人とは、かつて同じ会社の同期だったエンジニアで、突然会社を辞めて北海道へ渡って行った。大学院を出て業界最大手の東証一部上場企業に入社し、制御プログラムの設計を担当していた。同じプロジェクトになることはなかったが、独身寮では毎日顔を合わせていた。週末にはひとりエンデューロバイクで林道を数十キロ、時には日帰りツーリングで300kmも走ってくるような男だった。

 その彼が北海道へ渡ってしばらくした頃、送ってきたハガキに一言「人生横向き」と書いていたのだ。彼はその後、家庭を持ち、家具職人になった。


人生は一本の道、ではない


 人は、たとえつらくても前向きに歩まなければならない、後ろ向きだと批判される。怖い、不安だ、苦しくても進むしかない、そう思い悩む人は少なくない。人生は一本の道であり、生きていく限り前を向いて進み続けるしかない、そう思い込んでいないだろうか。

どこへ向かってもかまわない

 道を外れるのは怖い。しかし、目の前の道にこだわるあまり、我慢し、疲弊する毎日で心や身体を壊して、自分を失ってしまう人生を送ってはダメだ。

 私は何度目かの転職のとき選択を迫られ、周りの声に促されて厳しくても同じ道でがんばることにこだわってしまった。結果、心も身体も壊れてしまった。退職後も十数年間苦しみ続け、今でも完治はしていない。あのとき素直に「ここは自分の場所じゃない」という感覚に従っていれば、苦しまずに済んだかもしれない。自分の横には別の道が見えていたのに。

自分の意思を優先する

 人生は選択の連続だ。それは新入社員だろうが、定年退職後の第二の人生だろうが変わらない。どの道を選んでも、何が災いするか、何が幸いするかなどわからない。明日のことなんて、結局は誰にもわからないのだ。


 友人が言い放った「人生横向き」の極意は「思い詰めるな」ということである。人は思い詰めると視野が狭くなり、思考が硬直化して、ろくな結果を産まない。

「たかだか人生だ、なんとかなるさ」そう思うくらいがちょうどいい。

(了)

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