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歌舞伎の思い出

ユーはカブキを見たことがあるか?

上野の立ち飲み屋で隣り合った赤ら顔のガイジンがいささか酔って座った目で聞いてきた。
(立ち飲みなのに目が座ってるって面白いな、今考えると)

カブキ?緑の毒霧の?
2代目タイガーマスクが、自らのマスクを川田に外させ、素顔の三沢光晴に戻った時に、「何してるんだ?何してるんだ?」などと臭い演技で放送席でモゴモゴ言ってた、あのカブキではなく、本当の歌舞伎ですか。

もちろんあるよ、と答えると、Oh!とかWAO!とかamazing!とか言ってホッピーを外だけ何本も飲んでいた。




北海道で大学生をしてたとき、ひょんなことから札幌教育文化会館での歌舞伎公演のチケットを入手したので、授業をサボって見に行こうと思ったのだけれど、その日がちょうど第二外国語であるドイツ語のテストの日で、どうしても見に行きたいのでなんとかなりませんせんか?と、北大から週二回来ていた非常勤のドイツ語講師の先生に掛け合った思い出がある。 

結局、恩情というかお情けというか、割と話のわかる先生で、その歌舞伎の感想と、何かドイツ文学を1冊選んで読んで次週までにドイツ語でレポートを書く、ということで手打ちというか特別に試験はパスさせてもらったけど、あの時は何を書いたんだっけかなぁ?

先生は確かノヴァーリス『青い花』を読んだら宜しい、とかそういうような事を言っていたんだと思うけど、同じ教養小説でも当時のワタシはトーマス・マンとかヘルマン・ヘッセが好きだったので逆らってそっちの方で書いた気もするが今となっては欠片も覚えていない。

申し訳ない。

その教育文化会館での舞台は、当然当時の中村勘九郎(のちの18代目中村勘三郎)が座長の公演だったと思うけれど、個人的に中村富十郎さんが世話物を演じるというのをすごく楽しみに出かけていった。

生まれて初めて本物の「幕の内弁当」というものを、まさに文字通り幕内に食べてその豪華さに驚いた。

当時日本の伝統芸能に惹かれて、自分なりにかなり予備知識を詰め込んでいったのだけれど、やはり生で直接目の前で見ることに勝る経験は無いな、と確信した貴重な経験だった。

良い思い出。

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