見出し画像

枝雀師匠のソコに覚醒した話し


ナイツ塙さんの著書にこんな一節がありました。


「中川家はツッコミの礼二さんが引っ張って、ボケの剛さんが横で訳のわからないことをやっている。そのペースが最後まで変わりませんでした。途中、剛さんの絡みに業を煮やした礼二さんが足で床に線を引いて、『おまえ、こっから入ってくんな!』と叫ぶシーンがあるのですが、あれを最初に観たのはいつだったかな、M-1よりちょっと前でした。あれを観た瞬間、あ、新しい何かが生まれた、そんな思いがしました」

「言い訳 関東芸人はなぜM-1で勝てないか」


これを読んだ時、記憶の中に何かがチカッと光りました。
塙さんと似たような感覚が、私にもあった、気がする。
そう、あれは……桂枝雀師匠の高座だった。
当時、まだ落語を聴き始めた頃だったと思う。
それまでは落語という芸能は敷居が高すぎて
とうてい越えられる気がしなかったが
ひょんなことで枝雀師匠の落語を聴いて

「なんだこのおもしろいオジサンは」

と落語にパッチリ開眼した人があまたいると後に知り
そうやん そうやん そうやんな♪
私もその一人です♪
と皆さまの前に名乗り出て肩を叩き合いたかったあの日。

めでたく枝雀デビューをしてからどれぐらい経ったからかはハッキリしないが、ある日、師の高座を見てさらに

ナンコレ!!

とショックを受けた瞬間があったのです。

その記憶をもとに、以下の記事を書かせていただきました。

2024.6月収録の『NHK上方落語の会』パンフレット。

写真のせるね♪

当日のご出演はこちらの皆さま!!

記事本文がこちら!!


ちょっと読みにくいので文字貼ります。


第四五六回 上方落語の会 パンフレット
枕は楽し
 先日、若手の漫才ライブを見に行きました。ネタ時間が各三分という短い中だからこそ、楽しみなのが「ツカミ」。ツカミとは、演者が開口一番で笑いを取り観客の心を掴む、あの行為です。この日、私が掴まれたツカミをご紹介しましょう。
  A 「円形と、バーコードです」
  B 「僕ら二人の父親のハゲ方です」
  二人「よろしくお願いします」
 なるほど!と、一行目の意味を知って会場に笑いが起こります。演者のセンスが一撃で観客に伝わった瞬間でした。 
    同様に私は落語の「枕」が大好きです。枕は本ネタに入る前にお客さんの心を掴んで落語の世界へ誘う大切な時間。小噺や時事ネタ、日常の話など内容は十人十色ですが、そこには落語家さんのセンスが溢れています。
    枕の名手といえば、東では柳家小三治師匠が有名です。身の回りの出来事を巧みな描写でじっくりと語り込む枕は、それだけで上質な一席の落語のようでした。
   西でいうと、やはり桂枝雀師匠の枕が印象的です。当時、落語初心者だった私にも『緊張の緩和』や『天気予報が当たらない理由』などなど……師の独自の理論は驚きと刺激に溢れていました。
 さらに師の高座でもう一つハッとしたこと、それは枕から本ネタへの入り方です。
  「え~、今日はひとつ船場の商家を舞台にし たお話を聴いていただくのでございます」
   と、『崇徳院』に入ろうとする枝雀師匠。
  『えらい遅うなりまして』『おう、熊はんかいな。まぁこっち入っとくれ』
     始まった。と思った瞬間、
  「……というようなところが発端でございますね」
     え!入らへんの?とズッコケる私。思わず〝ズッコケ〟なんていう香ばしい言葉が出てしまうほど鮮やかなフェイントでした。
 「いつ噺が始まるか分かりませんのでご油断のないようにしていただきたいのです」
  と仰り、枝雀師匠は改めて、
 『遅うなりまして』『おう、熊はんかいな』
  あ、よかった。始まった。
 「……な~んていうようなところから始まるのでございます」
  また入らへんのかぁーい!!フェイント再び。一歩踏み出しては一歩戻り、また踏み出してはまた戻る。まるでマンボステップのような入り方を見て、私はいたく感動してしまったのです。落語に対する漠然とした私の固定概念が、この〝フォーマットを壊す〟という見せ方により確かに覆されたのでした。枝雀師匠がなぜこういう演り方をされたのか?本当の狙いは私には分かりません。これはいつか枝雀師匠をよく知るお方にお聞きしたいと思っております。
 たった一つの言葉や一瞬の演じ方に笑ったり感動したり。舞台は常に驚きに満ちています。さてさて今夜はどんな発見があるでしょうか。六席たっぷりお楽しみくださいませ。

お読みいただきありがとうございます。
                 

枝雀師匠については多くの方がいろんな思い出をお持ちやと思います。

その中で私と同じように
『枝雀師匠の、ソコ』にハッとされた方、
名乗り出ていただけたら肩を叩き合いたく候。

今回は文字数の関係で
エピソードのほんの一部のご紹介となりましたが
いろんな噺家さんの「枕の工夫」は、もっともっと掘り下げてみたいテーマであります。

この日の収録は、後日、『日本の話芸』他で放送となりますのでどうぞお楽しみに!!

【あとがき】
文中の枝雀師匠の演じ方が何のネタだったかがうろ覚えだったので、ワッハ上方の資料室で確認させていただき『崇徳院』だったことが判明しました。
(枝雀師匠は他のネタでもやっておられたかも分かりませんが……)

確認とは
「おまはんかいな。こっち入り」で始まるネタを片っ端からみていくという作業。

これね、演目まで出さずとも「あるネタで……」とフワッとさせてもいいところを、ちゃんと調べるってのが
さすが信頼と真心の石山商店でさーね!!

……て機嫌よぉアピッてるのはええけどさ。
運よく4本目で『崇徳院』が出てきてラッキーだったけど、出てこんかったらどないなったこっちゃらやでほんまにもうあんた。

最後になりましたが、その節は、こんなややこしいお願いに快くご協力くださったワッハ上方の学芸員さんとカウンター受付の方、ほんまにほんまにありがとうございました!!

 (了)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?