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ゲゲゲの日本寓話

え、待って、ゲゲ郎イケメンすぎん?

ゲゲゲの鬼太郎6期スピンオフ「鬼太郎誕生・ゲゲゲの謎」絶賛公開中!て毎度ながらイギリスでは見れないんだが!目玉になる前の親父と水木を主人公に据えたプリクエル前日譚。「鬼太郎誕生」は見てるけど、更にその前、親父が包帯男になる前の話とか見たすぎるー。6期で、目玉の親父が一瞬だけイケメン化する驚愕エピソードがあったけど、あれをガッツリやるのか。しかも大正昭和バディものとか彼女達の大好物のやつじゃないですかー。と思ったら既に「父水」として非公式認定されてた。さすが…。


不死身の鬼太郎

始まりは1950年代、戦後直後の紙芝居。からの漫画。そして60年代以降、10年おきにアニメシリーズが作られ、各世代が鬼太郎を通っています。何度でも蘇る不死身の幽霊族末裔・鬼太郎。日本史上最もリバイバルされてるアニメらしいですよ。僕は3期にどハマりした世代。近代化版ヒーロー鬼太郎、バブルJrなユメコちゃんと妖怪オカリナ。そこから30年経って作られた6期は更なる近代化版。ネットとスマホ社会になってます。ねずみ男も「仮想通貨」とか「Youtuber」とかで悪さしてる。ねこ姉さんの新デザインも話題になりました。マナちゃんとか、プリキュアみたいなキャラが水木キャラと絡んでるシュールさ。コロナ前だったので、もう若干懐いですね。

6期の鬼太郎は、キッズアニメとしてのヒーロー感は残しつつも、若干「墓場鬼太郎」に戻って喪黒福造的低血圧キャラに。これが今の時代感なのか。原作エピソードをしっかり踏襲しつつ、現代社会にフィットさせてます。妖怪達も全く違和感なくネット社会に適応できてるのがすごい。世代論にも目配せしつつ、現実の時事ネタや社会問題をガンガン盛り込んでいて、かなりエグいトピックにも切り込むので、普通に呪術廻戦より怖い。そしてそれを日曜朝に子供に見せるとか、攻めまくりです。稀に鬼太郎が若干説教臭いセリフを言いますが、その思想も現代風になってる。まあ原作からして「多様性」とか「共存」「反資本主義」みたいなSDGs的テーマを持った作品だったので、経済成長期を終えた今、実は時代の方が追いつきつつあるのかも。元々が民話を題材にした風刺的な漫画として生まれた鬼太郎、むしろ本来あるべき姿として正しく継承されているとも言えます。

アナーキスト鬼太郎

だいぶ前にもちょろっと書いた事ありますが、アニメ鬼太郎と漫画鬼太郎はかなりキャラが違います。アニメと違って漫画鬼太郎はヒーロー感低めです。常に人間の客観視点として存在し、ねずみ男と一緒にしがらみの外から人間を眺めてる。学校も仕事もないし病気もなんにもない。何かをどうこうする気もない。ただひたすら現象を観察してるメタ観測者です。だからその生活を描くだけで、自動的に人間社会の風刺になってしまう。それどころか若干人間をバカにしてる感じが最高。ココガヘンダヨニホンジン。バトルアクション娯楽パートもいいですが、本質は現象観測によるフェルミ推定的な社会考察な訳です。こういう独特のメタ視点は、戦争経験者の作者ならではの死生観や価値観なのかもしれません。

境港鬼太郎

その原作者、水木しげる宮崎駿と並ぶ僕の心の師匠です。その駿の師匠格、戦中世代の作家。この人もかなりの強キャラで、インタビューとかドキュメンタリーとか超絶面白いのでおすすめです。僕は「のんのんばあとオレ」や「ゲゲゲの女房」は見れてないんですが、やはり作家人生そのものが魅力的な人物だったんだろうと思います。

生まれは境港、典型的ASD丸出しのお絵描き大好き幼少期。青年期は大阪に出たものの勤めが合わず、そうこうしてる間に終戦間際の徴兵にギリ引っかかって、ニューギニアへ。死線をくぐり左腕を失って終戦、帰国。戦後復興の東京で、漫画家として身を立てます。高度成長期の日本を、水木プロで浮き沈みしつつ妖怪話を描き続け、2015年、アニメ6期が始まる前に93歳で亡くなりました。もし生きてたら今年100歳、ワンセンチュリー。

同世代ながら若干若くて徴兵を免れたボンボン手塚治虫と比べると、ガチャ外しまくりの人生にも見えますが、水木曰く「働き過ぎ」の60歳で亡くなった手塚とどっちがどうかは微妙ですね。キラキラ系の手塚一門とは違い、つげ義春とかガロ系の一派を束ねた、もう一方のレジェンド親分でした。

僕は父方の地元が鳥取なので、境港も何度か行った事があります。のんびり山陰、大山と日本海。その風土と民間伝承が水木ワールドの礎となっています。

民俗学的鬼太郎

そもそも「妖怪」って元々は民俗学用語だったらしいです。鬼太郎1期の妖怪ブームとともに一般定着した単語だとか。水木しげるは、幼少期にのんのん婆から聞いた妖怪話に魅了されて虜になったといいます。地域に伝わる民話、民間伝承。土着のアニミズムやスピリチュアリズムの系譜、もののけ世界。それは代々継承されてきた集合知です。それらが体系化されて天皇と合流したのが日本神道、更に地獄の閻魔や西洋悪魔も出てくるので、仏教やキリスト教の世界観も入ってる。日本人の歴史宗教感そのまんまです。

子供でも理解できるキャラ立てやストーリーで、教訓や戒めの知識を受け継いでいく。細胞がDNAに情報を書き足し、次の世代へ託していくように。その自然選択を生き残った情報は普遍性を持ち、寓話となっていきます。DNAに刻まれた僕らのルーツ、日本昔話から得られる情報価値はバカにできません。「蟲師」なんかも民族伝承現代版みたいな趣がありますよね。

ゲゲゲの日本寓話鬼太郎

しかし鬼太郎6期、本当に良くできたシリーズです。制作スタッフがノリノリで作ってる感。清々しい程欲望に忠実なねずみ男が、散々やらかした後で言う「人間ってやつぁ愚かだねえ」的セリフの破壊力たるや。富と名誉と承認欲求。性懲りも無く毎度お馴染みの欲望に振り回され続ける人間に対し、妖怪側も普通にSNS炎上とか利用しながら暗躍してきます。そりゃそうだ、だって妖怪は人間の影なんだから。50年前の原作世界から、技術進歩とともに取り巻く環境が激変したとしても、人間が抱える諸問題の根本は全く変わってなくて、昭和と全く同じ話が今もそのまま通用する。半世紀経って、AIだ新世代だ老害だ言ってても、結局僕らちっとも進歩してないんですねえ。

それだけ普遍的だからこそ、鬼太郎は日本の寓話たり得る。更に50年経てば、もう古事記的ポジションで日本寓話殿堂入りですよ。


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