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レリジエンス・オブ・ゼルダ

いきなりネタバレのイラストでごめんなさい。ティアキン未プレイの人は飛ばしてください。という訳でまたゼルダです。以前、ゲームデザインとか設計とかの話はしましたが、今回はストーリーです。

いやーしかしまじイイハナシダナー。ゼルダ史上最高のストーリー、というか自分的にはゲーム史上オールタイムベストの最高傑作です。定番王道を全て押さえつつ、ゲームならではの仕掛けで計算された、本当に良くできたシナリオでした。「私を探して」とか意味深にネタ振りしつつ、まさかずっとそこにいたなんて。しかもそんな理由だったなんて。ビジュアルも合わせて、ジブリ見て育った僕と同世代のクリエイター達が、しっかり文化継承してる感。胸熱。


レリジエントな人たち

さて、「ゼルダの伝説」ってむしろ「リンクの伝説」じゃね?つーかこの緑の少年がゼルダだと思ってた、みたいに揶揄され続けて云十年。ブレワイでも終始心折れ気味だったゼルダ姫ですが、百年間厄災を封じて自信がついたのか、ティアキンでは考古学とテックに熱心なリケジョとして、かなりクレバーで活発な自立したキャラになってポリコレ時代にも適応しました。挙句今度は万年を超えるタイムリープ帰還プランで、ハイリア建国の壁画にまでなっちゃって、とうとう名実共にゼルダの伝説となる事に成功したのです。

しかし百年封印プランだけでも相当だと思うのに、それが終わった直後に万年超え命懸けの長期プランって、ゼルダさんちょっと尋常じゃない神経です。タイムリープものは色々収集つかなくなりがちで扱いが難しいですが、今作では動機付けや整合性も含めて、実にロマンチックにドラマチックに美しくまとめられています。「結局封印戦争っていつやったんや」みたいなツッコミも無くはないですが、そんな細かい事すっ飛ばす感動がエンディングのセリフにはありました。ゼルダさんのレリジエンスに脱帽。

さてこの「レリジエンス」という言葉。「耐久性・弾性・回復力・ストレス耐性・しなやかさ」みたいな意味で、脳科学とか心理学で使われたりします。ものごとを我慢強く深くじっくり考えられる、俯瞰思考や発想転換でフレキシブル対応できる、みたいな人をレリジエントな人と呼びます。鬱になりにくいタイプ。また考え事や深掘りが好きな学者タイプとも言えるかもしれません。「竹はしなって折れない」感じのイメージでしょうか。

僕自身で例えると、僕は考え事は好きな方だし、何時間も絵を描く事に関しても苦にならないのでレリジエントだと言えるかもしれませんが、数字関係とか事務マネージメント関係の作業に関してはすぐ耐久ゲージが無くなって、5分で「あ゛ーーーッ」となって投げ出したくなるので、レリジエンス超低いです。

とかくレリジエンスの低い人は脊髄反射しがち、短絡思考しがち、結論急ぎがち、投げ出しがち、パニクリがちです。全体的にストレス耐性激低で、ドツボると鬱発症コース直行です。しかしそれは個人の能力のせいではなく、脳の構造的問題であるようです。脳は高負荷の作業が嫌いなので、負荷を下げるため情報処理を単純化して最適化しようとします。ルーチン化してしまえば、その後の処理も自動化できて楽になります。効率化といえば聞こえはいいですが、それによって生まれるのが「知ったかぶり」や「偏見・ステレオタイプ」であり、それを補強正当化しようとする行為が「マウンティング」だったりします。結果、ドヤ顔でトンチキ情報を上から言ってくるオッサンみたいのが誕生します。笑い事に聞こえますが、それが悪化するとレイシストとか陰謀論者に進化するので、もはや笑えなくなります。

SDGsで例えてみましょう。レリジエントな人達がデータを集めてじっくり考えた結果「このままだと詰むわ」となった「持続不可能案件のリスト」がSDGsです。つまり「解決しなきゃ人類滅亡」案件です。レリジエントな人たちは内容をじっくり検証理解して「なるほどやばいわ」となる訳ですが、レリジエンスの低い人たちは、よく理解もしないまま「知ってる知ってる、なんか流行ってる意識高いアレでしょ」とルーチン処理します。ポリコレとかも根本はSDGsに通じてたりするんですが、「邪魔くさい、ウザい」と短絡的に排除してしまいます。で「そんな事より今日の晩飯」となる訳です。

「今日の晩飯・明日の昼飯」は生命の本能的部分なので、このプライオリティを覆すのは本当に至難です。でも短期合理性とか経済合理性では優れているように見える事柄が、長期メタ視点では超絶非合理で自らの首を絞めている、といった事はあらゆる分野で往々にして起こりがちです。俯瞰視点とか多角視点とかを持たず、目先の餌に飛びつくコスパ・タイパ民がはまる罠です。そしてこれはそのままレリジエンス度の違いだとも言えます。ゼルダのように数万年プランを実行する人はきっと、もう超弩級レリジエントなんでしょうね。僕だったら古代に飛ばされた時点でもう絶望で心折れます。

文字を読めない人たち

と、ここ最近ホリエモンがしつこく言ってます。これについても科学的検証がなされていて、どうやらレリジエンスが関わっているようです。

「読む」という行為は、特定の場所に注目→視覚情報→言語情報に変換→意味情報に変換という、集中力、視力、認識力、語彙力などを要する複雑なプロセスを経る作業で、脳処理負荷が高いとされています。プロセスのどこかが処理不十分だと、エラーを起こして情報を正しく理解できない訳です。

本来人間という動物は「聴覚」で情報伝達を行なっていたそうです。遠吠えみたいな原始音声から、歌のような意味体系に変化。更に「単語」の発明による認識の発達と、その単語群の組み合わせによる言語の発達。そしてその言語を音声伝達する「口伝」で、人間は何万年もの間情報共有を行なってきました(で、たまにイミフな壁画描いたり、ブサイクな石像作ったりする)。「ゆる学ラジオ」の言語学とか民俗学とか聞いてると、そういうのが色々知れて面白いです。

更にそこに「文字の発明」が起きます。口伝というライブ音声情報を「記録・運搬・継承」する事ができるようになった訳です。ついに情報が時空を超え始める。ただ、文字を読むためには先ず文字を習う必要があって、だんだん要求リテラシーも高くなっていきます。単語が増え、言語が複雑化していくと、それを読める人たちも限られてきて、知識は識者たちだけのものになっていきます。聖書読める人が超絶偉い「啓典の民」の時代到来です。

以前に書いた「先に言葉あり」とか「人間は言語によって高度思考を行う」にも通じる話ですが、日本でも昭和頃までは読み書きできない人がまだちらほらいた気がします。現在僕らは戦後義務教育制度のおかげで一応なんとか読み書きできてますが、やっぱり読書は高負荷に感じる人が多い印象。しかも言語はリアルタイムで変化を続けていて、「バチクソエモみが草」みたいな謎新単語や外来語も毎日生まれてくるので、適度にキャッチアップしないとZ世代と意思疎通できなくなります。

書物から漫画・ラジオ・テレビの時代を経て、ネットによる「情報の民主化」が起き、文字情報は爆発的に解放されました。が、依然「読む」という行為自体は高負荷のままでした。しかし現在、映像音声データによって本来の口伝による聴覚情報伝達が戻ってきつつあります。要求リテラシーもレリジエンスも下がってきており、間口も広がっています。名著解説系チャンネルや識者雑談系チャンネルのように、現代口語で分かり易く面白おかしく解説してくれるYoutubeやPodcastが人気を博し「知の共有」を加速させています。たとえ貧乏でADHD難読症だったとしても、賢い人は勝手にどんどん学習してより賢くなっていく。すげえ時代だ。

その一方でTwitterのように、発言権を得たと勘違いしたバカがノイジーマイノリティと化し、ゴシップに脊髄反応して毎日あちこち燃やしまくり、結果ホリエモンがキレる、みたいな泥沼サイクルもある訳ですが、そういう社会的利益の低い現象は、いずれ過渡期の終焉と共に淘汰されていく気がします。AIとかがガンガンフィルタリングして有益な情報だけを残していく流れ。かつて2chとかでも、つまんない荒らしは自然淘汰されていきました。成熟期では、荒らしだって面白くなきゃ自然選択を生き残れないのです。

神を信じる人たち

「アナタハカミヲシンジマスカ?」と聞かれたら、僕は「科学を信じる」と答えます。宇宙の大いなる力は信じるけど、それは白髭のお爺ちゃんの姿ではないし、説明のつかない謎パワーは説明つくまで判断保留です。

そもそも科学以前、「啓典の民」以前は、人類みんなスピリチュアリズムとかアニミズムでした。自然崇拝、祖先崇拝で、精霊達と一緒に暮らす「もののけ姫」的世界だった訳です。テレビもネットも無え時代、生と死と自然に隣接し、自らもその一部として生きながら、経験則による集合知を口伝で代々継承していました。その中にも、やっぱりレリジエンスの高い人たちがいて、古代ギリシャやインドの時代ですら、無知なりにも物事をロジカルに考えようとしました。「神とか精霊とかもういいから、ちゃんと考えようよ」っていう人たちが生み出したのが「哲学」です。しかしその後の啓典ブームは凄まじく、「神の言葉が絶対である」のがコスパ最高って事で聖書バブルのパリピ時代に突入、小難しい事ばっかり言ってる面倒くさいロジカル連中は隅に追いやられてしまいます。

更にその後、技術発展とともに「神って色々辻褄合わなくね?」というロジカル民が復活。哲学ブーム再到来で「神は死んだ」と言い「俺たちは理性でどこまでも発展できる!」「ウォー!意識高いー!」みたいになってるところに、「いやお前ら何調子に乗ってんの?」「構造的にそうなっただけで、別にお前らの理性とか関係ねーから」「自意識過剰イタイわー」となって、「はい哲学終了〜」「これからは科学とか物理学の時代っしょ」という流れで現在に至る訳です。なんか西野中田の熱血系から、ひろゆき成田の冷笑系への移行みたいな。

じゃあそもそも神の言葉・ゴッドスペルって本来は何なのか。神学的には、神は常に全ての答えを提示していて、何も隠していないのだと。ただ我々人間が無知過ぎて、それを認識できないだけであると。だから人間はそれを理解しようと、必死に世界を観察してきました。例によってレリジエントな人たちが、毎日毎日木々や水や星の動きを眺めて、その自然の中にあるパターンや構造などの「」を見つけていきます。その数万年分の蓄積を組み合わせながら、更なる理を探求していく。それが摂理定理となり、知識となって口伝で継承されていきます。神の御技を再現しようと、知識を合理的に駆使した錬金学が生まれ、それが現代科学の礎となっていきます。「神の意志を知りたい」「宇宙の理を理解したい」科学者や哲学者に神学者が多いのは一見矛盾に思えますが、「神=真理」と捉えれば、基本的に目指している場所は同じなのです。ということは、「神を信じる」も「理性を信じる」も「科学を信じる」も実は大差ないのかもしれません。

科学を信じない人たち

そして現在は科学時代。観察・検証・仮説・実証を経て辿り着いた結果が、識者の精査認証を受けて最新科学として承認される訳ですが、それらの過程を全部すっ飛ばして「結果だけちょうだい」というのが現代宗教とかスピリチュアルの信者システムです。なんなら現実無視でいいから「感情的に納得感のある答えだけちょうだい」というレリジエンス最底辺の人たちが、変な占いやらカルトにコロッと騙される訳です。「どうして自分は苦しいのか」「それは前世の行い、神様が決めたから」「信じる者は救われる」とかいう、言ってみればまさに「子供騙し」でしかないんですが、知識も情報も無い人たちにとっては納得感ある「世界の説明」な訳ですね。「フラットアース」とか「イルミナティ」とか。そして現在も、考えない・調べない・結果だけ欲しがる低レリジエンスのタイパ民が痛い目に会い続けるのです。人間って古代からなんも進歩してねーな。

もちろん科学で未解明なものもたくさんあります。というか人間はまだ何も知りません。例えば「重力」みたいに、誰もが知っていて現象として目視できるのに、未だ観測すらできずそれが何なのかも解らない謎パワーや、「暗黒物質」みたいな「理論上存在するはず」的なものはいくらでもあります。「オーラや霊が見える」とか言い出すアレな人も、それがその人の脳神経内なのか、実現象として起こっているのか未解明なだけです。科学はそれをそのまま「謎パワー(仮)」と言うだけで「神パワー(断定)」とは言いません。未解明は未解明であり、勝手にオリジナルストーリーを付け加えるのはNGです。解明するまで根気強くPDCAサイクルを回し続けるのが科学です。証拠と再現性。データドリヴン。レリジエンス。。。


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という訳で、アニミズムが数万年、三大宗教が二千年、科学には数百年の集合知の蓄積があって、それらはアプローチが違うだけで同じところを目指している。そしてそれらに優劣は無いのだと、レヴィ=ストロースさんも言うてはります。ちなみに神道はアニミズムベースだし、仏教はインド哲学ベースで、それらを混合信仰しながら科学大国になった日本はやっぱりなかなか特殊な国だよなあと思います。

まあ全人類が学者や科学者になる必要はないし、それぞれの得意分野で多様性補完すればいいんだと思います。しかしどんな時代や分野であれ、ブレイクスルーの鍵になるのはレリジエンスだったりするので、ドヤ顔トンチキおじさんにならないように、ゼルダに倣ってレリジエンスを強化していきたいと思います。 



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※追記

トレーラーの時点で泣いてるハードコアファンはいましたけど、本編クリア後、世界中でゼルダ姫のレリジエンスに脱帽、感動、号泣してて、こっちももっかい貰い泣き。だから言ったじゃん、世界でエライ事になる神ゲー確定って!全人類を感動させる任天堂マジすげー。マジ日本の誇り。

なんか飲み込んで「未来で見つけて」はハウルだな。ガノン龍化からの龍対決はもののけ(つーかゴジラ)?龍騎とかゼルダ復活は千と千尋?自由落下はラピュタで、水中ダイブはカリオストロだっけ?コナンかな。最後にジブリ全部盛りでこれでもかと畳み掛けてくる。音楽パワーもやばい。マジで完成度が高過ぎる。

英語バージョンだと、「良かった、本当に良かった」が「You did it, Oh Link you really did it」になってて、よりクるものがあります。

スペイン語バージョンもイイ。ラテン人はエモみが強いのでリアクションも激しい。

だから言ったじゃん!日本のモノづくりの最高峰だって!(しつこい)



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