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ガノン様帰還!プロダクトデザインの最高峰

ゼルダ・ティアキン(と略すのか?)でおなじみ、「ゼルダの伝説・ティアーズオブキングダム」の最終トレイラーが解禁になりました。やべえ。こんなにドキドキするトレイラーなかなか無いぞ。興奮が止まらん。ゲーム業界従事者の端くれとして、この歴史の一歩をしかと見届けねば。5月の発売まで指折り数えつつ、ひとまず「そもそもゲームって何」的なところからぼんやり考えて見ます。

ざっくりテレビゲーム史

さて、テレビゲームの歴史も今や半世紀。テレビに映して遊ぶコンピューターゲームの始まりは1950年代、ピンポンテニスとかオセロ的なゲームから始まったと言われています。それが開花し始めるのは1970年代。アタリ社の登場です。そして1980年代、我らが任天堂が登場。ファミコンが世界を席巻します。僕はまさに直撃世代で、マリオにドラクエに、小学校で大盛り上がりでした。映画「テトリス」とかで当時の雰囲気が描かれてますね。懐い。当時は個人開発レベルの様々なアイデアのゲームがあちこちから芽吹いてくる、ゴールドラッシュ的黎明期です。有象無象、信じられないようなクソゲーもたくさんあった中から、ゼルダも含めた今も続くような珠玉IPの原石達がいくつも生まれました。今で言うとYoutuber業界みたいな感じですかね。

90年代はCD-ROM系3Dゲームの登場。テレビゲームの可能性が一気に広がり、新しいジャンルが次々生まれます。00年代は次世代のハイポリ・ハイデフ化、オンライン、携帯ゲームやソシャゲなども爆発しつつ、2010年代以降の成熟期へ突入していきます。

僕は80-90年代をゲーマーとして過ごし、00年代からゲームクリエイター側になりました。新ハード、新IPが毎年のように押し寄せる。FFだのバイオだの、大ヒットゲーム達にはもちろん毎度ド肝抜かれてきた訳ですが、完全に想像を超えてきたゲームなんかも色々ありました。元祖音ゲー「パラッパラッパー」とか、元祖箱庭ゲー「アクアノートの休日」とか、現在主流のアクションアドベンチャーの原型とも言える「ICO」とか、未来系「Rez」とか、色んな天才達の「ゲームアイデア」につくづく感心感動させられてきました。オッサンになってしまった最近でも、「マイクラ」とか「イングレス」とか「ポケモンGO」みたいな新しいアイデアに大ハマりしたりしてます。

ゼルダの伝説の伝説

そして2017年に登場したゲーム「ゼルダの伝説・ブレスオブワイルド」(通称ブレワイ)。1986年の初代ゼルダの登場から36年、スピンオフを含めれば30作を超える長編シリーズの最新作が再び世界を驚愕させました。全ゼルダ史はおろか、半世紀の全ゲーム史の集大成たる奇跡の結晶。控えめに言って神ゲー

つかゲームってマジ面白いよね。そもそもゲームの魅力ってなんでしょうか。魅力的なキャラクターが、魅力的な世界で、魅力的なミッションをこなし、魅力的な報酬を得る脳汁エクスタシー。そのすべての要素を研ぎ澄まし洗練させてきた最先端がゼルダ・ブレワイです。様々なジャンルのゲーム、システムデザイン、演出、漫画アニメ文化などの影響も取り込みつつ、恐るべき絶妙なバランスで統合されています。初めは僅か数人の開発チームから始まったゼルダ、その後何百何千のクリエイター達の才能によって研磨され紡がれてきました。そして今もその中心にいる宮本茂。マリオだけでも化け物なのに、もう人類栄誉賞モノですわ。

そしてもうすぐ降臨するゼルダ最新作「ティアーズオブキングダム」。前々作「スカイウォードソード」でこれまでのゼルダの起源を描いた後、新生ゼルダとして登場した前作「ブレスオブワイルド」の正統続編。あの神ゲーが6年経って更に洗練されて登場するとか、ちょっともうウルトラ神ゲー確定済みじゃないっすか。世界中でまたエライ事になるのでわ。

任天堂という特異点

それにしても任天堂という会社は独特です。実は創業130年、明治時代から続く京都老舗中の老舗。花札かるたトランプという、賭博系アングラ玩具を作る会社でした。まさにインテリヤクザを地で行く。そして山内組3代目組長が近代化に成功。今で言えばDX対応で化けた感じでしょうか。工学系天才・横井氏とデザイン系天才・宮本氏を迎え(つまりハードとソフトの天才を置く布陣で)、任天堂最初の全盛期を迎えます。その後の次世代機戦争の凋落から、天才プログラマー・岩田新社長で完全復活、再びの全盛期と、その伝説にはいとまがありません。

電子産業の勃興と共に、あらゆる業界の会社が電子分野に参入しました。その中で任天堂は「おもちゃメーカーである」という立場から全くブレる事なく、「独創的娯楽に徹する」「そのための挑戦をやめない」というスタイルを続けています。任天堂にも数々の失敗事業がある事は誰もが知っています。それでも致命傷をかわし、日和らず腐らず挑戦を続け、諦めずに巻き返す。信念を曲げない。フレンドリーなIPキャラとは真逆のハードボイルドっぷりです。やっぱなんだかんだ言って、組長の哲学が優秀過ぎる。良くも悪くも、伝説を作るような人って攻めまくってますよね。ただひたすら人事を尽くし、結果は天に任せる、任・天・堂。

僕は東京にいた頃、幸運にも幾つかの任天堂タイトルに関わる機会がありました。ゲーム業界王者の任天堂、社員は東大卒ばっか、さぞやガッチガチだろうと思いきや、プロジェクト進行はかなりフレキシブルで驚いた思い出。むしろ若干馬鹿げた企画提案ほど好反応だった気がします。ただ、その企画検証は見た事ないレベルの綿密さでした。任天堂にはインハウスでゲーム審査評価するセクション、通称「マリオクラブ」がありますが、そこで及第点に達しないゲームは発売されません。また、QAチームも恐ろしい精度と深度でチェックしてくるプロフェッショナル集団で、エンジニア達はバージョンロム提出の度に震え上がってました。しかし開発側としては、それは同時に頼もしくもありました。

当時若造デザイナーだった自分は、流行神絵師様の尖った最新デザインを追い求めていました。しかしプロジェクト過程で、マリオやピカチュウなどのマーケティングを含めたデザインがいかに完成されているかを思い知らされる事になります。「時代を問わず、誰でも理解できる、誰にも嫌われない」ユニバーサルデザインが商品としていかに強力か。ディズニーやジブリにも通じる間口の広さ、それでいて一切手抜きのない緻密な設計。コントロールされた情報量。「ゲームとはプロダクトデザインである」という当たり前の事実をようやく理解学習した訳です。そしてIPビジネスの強さ前回書いたスターウォーズとかもそうですが、ファンと一緒になってIP世界をどんどん広げていく。ちゃんと大切に育てれば軽く30年以上のビジネスとして続きます。だから絶対にブランドを無下に扱わない。「続編ばっかり」という不満もありますが、それはIP成長のプロセスとも言えます。

日本人が見るゼルダは、西洋騎士とかアーサー王とかをモチーフにしてるように見えますが、欧米から見るゼルダは、(特に最近は)縄文とか土偶とか着物とか龍神とか、かなり日本的なモチーフが強く出ているエキゾチックなゲームです。むしろ日本らしさしかないと言ってもいい。時代に合った自然なポリコレ配慮も完璧。多文化の尊重と協調、ジェンダー偏向排除、ルッキズム排除。スクエニあたり1ミリでも学んで欲しいわ。任天堂は80年代から既にプラットフォーマーとしてグローバルマーケットで戦ってきました。そのノウハウや国際バランス感覚を持ってる日本企業は、もはやソニー・トヨタくらいしか無いのでは。モノづくり輸出産業で現在も世界で戦えているのは今や任天堂だけになってしまった感ありますね。

群雄割拠の新興産業戦乱期を制覇し、大将軍に君臨した任天堂。日本の「失われた30年」をも生き延び、新鋭GAFAM相手にも堂々と渡り合う。意表を突いて、今年はマリオ映画も日本映画界をすっ飛ばして全世界を席巻中。ディズニーにも勝負を挑む。日本企業としても、世界的ゲーム会社としても、任天堂はかなりの特異点です。こういう会社がもっと出てくれば面白いのに。ゲーム史恒例行事「次世代の群雄割拠」が待ち遠しいものです。

ゲームの未来

昨今のゲーム開発はUnrealとかUnityなどのゲームエンジンが浸透しており、開発側でもプラットフォーム化が進んでいます。またパブリッッシングもオンラインに移行し、ダウンロードやSteam、AppStoreなどでの配信が一般化しつつあって、これまたプラットフォーム化です。囲い込みとか統一化は合理的ではありますが、それはそれで問題も出てきそう。いずれにせよ、これまでのゲームハード・プラットフォームという形態は今後は縮小していくのかもしれません。Switch2の噂はありますが、任天堂は次にどんな手を打ってくるんでしょうかね。

じゃあこれからのゲームはどうなっていくんでしょうか。テクノロジー的にはハードウェアデバイスとインフラの進化が待たれます。VRやARがゆっくり進化中。それらが安価になり普及すれば、いよいよメタヴァース的コンテンツが増えて行くでしょう。昨今話題のChatGPTなどによって、村人Aとリアルタイム会話ができるようになるとか言われてますね。また、これらすべての技術を統合して、更にドローンやロボット技術などと繋がれば、ゲームはリアル世界に侵食し始めます。家にいながらドローン・ガンダム・VRバトル・Twitch生実況、みたいな。

これまでのゲームはハードウェアのスペックアップで、よりリアルなバーチャルシミュレーションを目指していましたが、未来のゲームはいよいよバーチャルを脱出し始めます。プラットフォーム化と自動化で、開発速度は上がりコストは下がる。α世代とかβ世代とかの新世代の天才が、今と全く違った形で色んな新アイデアを具現化していくんでしょうね。そこにゼルダIPも続いてるといいな。その頃は僕ももうおじいちゃんでボケちゃってるかもしれんけど、ボケ老人も幸せにしてくれるユニバーサルデザインをお願いします。

人類のデザイン史

テレビゲームというのは「デザイン」の総合デパートです。コンセプトデザイン、ゲームデザイン、レベルデザイン、グラフィックデザイン、UIデザイン、UXデザイン、サウンドデザイン、パッケージデザイン、ブランドデザイン、マーケティングデザイン、、、無数のデザイナーが携わり、協力してモノづくりの高みを目指します。それはデザイン史の最先端でもある訳です。

例えば革命的プロダクトだったiPhoneは、NintendoDSのタッチパネルUI、ドコモiモードやJ-Phoneの写メなどにインスパイアされて生まれた製品です。そしてそのデザイン思想がまたゲームなどに還元されていく。そんな今世紀の電子産業革命以降の様々な発明群も、100年とか200年の視野で見れば、人類の歴史として刻まれるはずです。前世紀、産業革命後に起こった「アート&クラフト運動」とか「バウハウス哲学」みたく、機能+美を兼ね備えた工業製品、技術とデザインの結節点として、いずれゲームだって語られるようになります。というか既に、デザイン博物館ゲーム展とかチラホラ見かけますね。

どんな文化圏の人でも、低リテラシーの人でも理解・使用できるユーザビリティ。全年齢・全人類対応の映像・音楽美とストーリー。好奇心刺激とカタルシス。プログラムとハードウェアと総合芸術がすべて詰まった、現在時点での電子工業デザインの最高峰。それがテレビゲームであり、その中の最高峰がゼルダです。せっかくこの時代に生まれたんだから、絶対体験しておくべき。Switch持ってるのにプレイした事ない人は、何やってんですかって感じです。ゲーム興味無いとかSwitch持ってないとかって人も、実況系Youtuberとかで見てみるといいんじゃないでしょうか。日本が誇るクラフト文化、プロダクトデザインの結晶、そのひとつの最先端がどういうものか、触りだけでも知っとく価値はあると思いますよ。

控えめに言ってもマジ神ゲーです。





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