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共同通信の記事の全文は新聞紙面を読まなきゃ分からない

共同通信の記事が批判的に話題になってますね。

共同通信とは日本一の通信社で、通信社とは新聞社や企業向けにニュースを配信する企業のことです。たとえば新聞社といえども全世界に取材網を持っているわけではありません。そういう時、新聞社は通信社からニュースを買って記事にします。日本全国に取材網を持たない地方新聞の全国ニュースの記事は、ほぼ共同通信と時事通信の配信記事で成り立っています。海外通信社だとロイター通信やAFP通信が有名です。

その共同通信社によって2020年6月8日に配信された記事が、ちょっと炎上しています。

共同通信は、日本政府が米国や英国から中国批判の共同声明参加を打診されたが断った、と報じました。

中国批判の共同声明とは何かというと、5月28日、中国は「香港国家安全法」と呼ばれる法律を、中国の国会である全人代で採択しました。この法律には、「香港の」反体制運動を「中国の」治安機関が取り締まれるようにできる規定が盛り込まれています。なので、これでは香港返還時に取り交わした「一国二制度」の条件に違反するじゃないかっ、と香港市民は怒り、西側諸国の面々は懸念を示し、国家安全法が採択された同日に、英国、カナダ、米国、オーストラリアの4カ国が、中国を批判する共同声明を出したのです。

で、共同通信の記事は、この共同声明に日本も誘われたけど断ったよ、という2パラグラフで構成される短い内容なんですが、そこに関係国当局者の談話として「失望」と書いていたり、記者の憶測として「国家主席の国賓訪日実現に向け、中国を過度に刺激するのを回避する狙い」と書いていたりと、政権批判の中身になっているため、炎上気味にSNSで拡散されているわけです。

左派ユーザーはこの記事をそのまま受け取り「香港を守れ」「なぜ参加しなかった」と政府批判をしています。

右派ユーザーは逆に記事を一切信用せずに「政府がこんなことするはずないから誤報記事だ」「捏造だ」と共同通信批判をしています。

この状況に、私、モヤモヤとした感情が湧いています。記事に対する受け取り方は、それぞれの読者の立場で好きにすればいいと思うのですが、それでもそれぞれのユーザーに伝えたいことがあります。それは、「あなたたちが読んでいる共同通信配信のネット配信記事は一部でしかなく全文じゃないよ」という点なのです。

そうです。この47newsのURLページに載っている文章は、記事全体のリード文でしかないのです。実際に共同通信が各新聞社に配信している記事はもっと長いのです。これは実際の新聞の紙面を見てもらえればわかります。

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赤線で囲んだ部分が、共同通信が今回47news.jpでネット配信した部分です。どうです? 記事全文は全部で7段落の記事なんです。実際は、倍以上の長さの内容だとわかりましたか?

新聞記事にも著作権があるので、ネットに公開されていない部分は、主語を除きモザイクをかけましたが、ネット配信されていない後半の内容を読むと、前半を読んで湧いていた疑問や怒りの一部は確実に解消されると思うんですよね。

例えば、単純に中国を批判しなくていいのか?という疑問には、菅官房長官が会見で「深く憂慮」と述べたということや、日本政府関係者の「日本も中国に問題提起はしている」というコメントを記事に入れて、記事内で答えているんですね。

また、欧米諸国に追随しなくていいのか?という疑問もあるかと思いますが、紙面を読むと「米英両国とオーストラリア、カナダの4カ国」しか声明に参加していないんですね。これ全部イギリスと仲の良い英語圏の国です。イギリスがいるから「欧米諸国との亀裂」とか「欧米」とリード文で書いてますけど、EU諸国が参加していない声明ですから国際協調されたものとはまた違うだろうと読めますし、記事内でも日本政府関係者の発言を引いて、香港問題に対して欧米の対応と大きな違いはないという認識だと書かれています。英米の提案は断ったけど香港問題に関して日本政府は国際社会に追随していないわけじゃないと、記事を読めばわかるんです。

あと、見逃しがちで重要な記事のファクターの「いつ」も記事後半で書かれています。28日の声明発表前に水面下で参加を打診されていたが断った、と。その28日に菅官房長官が会見で「憂慮」を発表したのだから、断ったけど配慮は示せて外交的にトントンではないですかね? 日本は香港問題で欧米と連帯してませんか?。また、あくまで「水面下」の外交提案だったというのもちゃんと抑えたいです。

それとリード文の「関係国の間では日本の対応に失望の声が出ている」という部分も、記事後半で具体的な「声」の中身が出ているんですが、話しているのは「関係国当局者の一人」だけです。「日本政府は中国との関係を重視したのではないか」という記事の憶測も、この人の発言を受けてのものです。この声の主以外に他にもまだ同じ「失望」した当局者がいたのか、共同通信記者が取材したのがこの一人だけなのか分かりませんが、声明参加を断ったことにそこまで大きな批判が出ている状況ではなく、一部で批判を言う人がいる、くらいの内容ではないですかね。少なくとも紙面記事全文を読んだ私の感想はこうです。

このように、共同通信が47newsで配信する記事って一部しか載ってないことが多いんですよ。たまに配信を受けた地方紙サイトのほうで、47newsより長い文面の記事が出ている時もありますが、その記事もまた全文ではなく、一部削られたものだったり。今回の記事でいえば、産経新聞や中日新聞が47newsより長いバージョンを一時的に掲載していたみたいですね(私は確認できませんでしたが)。

ここで記事写真を載せた静岡新聞のサイト版はこれですよ。47newsと同様に2パラグラフしか掲載していません。実際は7段落あるのに。

もう一度言いますが、別に共同通信のネット記事が短いのは、今回の記事に限ったことではなく、こういう記事が他にもたくさんあるんですよ。政治的な記事だから短くなったとか誤報だから短くなったとか関係ないと思います。

ネットで記事の一部しか配信されないのは、単に契約の問題ではないでしょうか。想像だけで書きますけど、地方新聞社は配信記事の紙面掲載の編集権は持っていても、自分のサイトに共同通信の記事を掲載する時は、最初の数段落までしかできないような契約になってるんではないですかね? 仮に共同配信記事を全文掲載してしまったら紙面の売上げに影響して新聞社はカツカツになってしまいますし。全国の地方紙で同じ記事を使ってますから、どこかの地方紙一社だけが長いバージョンを載せるわけにもいかないでしょう。東京新聞とかたまに共同配信記事で47newsバージョンよりも長文を載せたりしてますが、ああいうことをする場合、より高額な契約料がかかったりするのではないでしょうか。

ただこういう裏事情はネットで記事を読むユーザーには関係ありません。ネットユーザーはどうしてもネットの情報だけで判断しがちです。共同通信や、その配信を受けてサイトに記事掲載している新聞社に言いたいのは、続きがある記事には「続きがある」と書いておいてほしい、ということです。

大手新聞社サイトみたいに一記事ごとに「残り●文字。続きは有料で」という構成が理想ですが、弱小地方新聞社にそうした細かいケアまで求めていません。しかし、せめて「続きは紙面で」くらいは書いておいてほしいです。

そうすればネットユーザーも、続きが気になる記事を読みに図書館に行ったり、コンビニに新聞を買いに行ったりすることに繋がり、新聞の売上げも少しは上がることになるのではないかと。

一番いいのは地方紙の紙面電子版を契約することですね。残念ながら静岡新聞にはニュースサイトがあるだけで紙面をデジタル化した電子版はありませんが、東京新聞は電子版あります。

この電子版は紙面をそのまま読めるようになっているようなので、今回話題となった記事も全文が読めるかと思います。

アメリカだと、市民がフェイクニュースに危機を抱くようになって従来のマスメディアの電子版契約が急増した、という話が数年前にありましたが、日本では全然同じ話を聞かないですね。今回、本田圭佑さんが共同通信の2パラグラフのWebニュースを取り上げて「本当だったら政府は問題、嘘だったら共同通信が問題」などとツイートしているのを読みましたが、本田さんには共同通信が記事を配信している地方紙を購入してもらって記事全文を読んでほしいです。電子版記事なら海外にいても購読できますし、過去記事もさかのぼって読めるみたいですし。本田さんのような著名な方が「今回のネット配信記事は記事の一部でしかなかった。地方新聞購読して記事の全文を確認してみた。やっぱり問題だと思った(思わなかった)」などとツイートしてくれれば、皆が自分も新聞を読んで確認してみようとなり、情報のリテラシーも身につくというものです。



まとめです。

新聞は、ネット記事で満足せずに、紙面を読もう!

共同通信やその配信を受ける新聞社サイトは、「続きは紙面で」の言葉を入れよう!

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