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【連載小説】#4「あっとほーむ ~幸せに続く道~」30年後の私への手紙
前回のお話(#3)はこちら
前回のお話:
園での仕事で自信を付けた悠斗は、クリスマスにめぐをデートに誘う。ところがなぜか翼が一緒に着いてきて、三人でデートをすることに。はじめこそ順調な滑り出しだったものの、悠斗の『パパ』のような接し方に、急展開を望むめぐは怒ってしまう。それを見た翼が、悠斗と交代で恋人役を引き受けることになる。
四
――言わんこっちゃない。おれを黙らせたのが運の尽き。あのまま言うとおりにしていれば、今ごろめぐはお前の腕の中だったろうに。
「やんちゃなおれ」が愚痴をこぼした。おれはやり場のない怒りに、ただただ耐えるしかなかった。なにせ、相手は「おれ自身」なのだから。
めぐと翼が夜のデートを楽しむ姿を見せられるのはいい気分じゃなかった。だけど、先に帰ってしまうのも子供じみていて嫌だった。
人生最後の大恋愛、それも相手は娘ほどに年の離れためぐ。絶対に失敗したくないとの思いは強い。だが慎重になりすぎるあまり、接し方が「パパみたい」と言われてしまったおれは今後、どう振る舞えばいいのだろう……?
帰る道中、ふたりが乗るバイクの後ろを走りながら考える。
恋がしたいめぐと、家族になりたいおれとではかなりの温度差がある。それが、今回デートがうまくいかなかった原因だ。差を埋めるのは簡単。やんちゃで本能むき出しのおれを登場させるだけだ。しかしそれでは心が離れるのも一瞬。おれはもう、ジェットコースターみたいな人生を送りたくはない。
◇◇◇
結論が出ないまま野上家に着いた。別れ際に、翼がめぐを大事そうに抱きしめる姿を見て胸が苦しくなる。おれとは対照的に、翼はめぐとの距離を縮めたに違いなかった。
あれきりめぐは一言も口を利いてくれない。さっさと寝る支度を済ませ、おれにはおやすみの挨拶もせずに自室に行ってしまった。おれはため息をつき、リビングのソファに身体を沈めて瞼を閉じた。
少しして、瞼の上に影が落ちた。目を開けると、映璃がのぞき込んでいた。
「……となりに座ってもいい?」
「……ああ」
返事をすると、めぐより小さい身体の映璃がすぐ横に腰掛けてきた。映璃はおれの肩にもたれたまま黙っている。そっと肩を抱く。映璃は何も言わない。
「……相手が同年代ならどんなに楽だったことか」
気の知れた友人にはつい本音が漏れる。映璃が応じる。
「でも、めぐのことは好きなんでしょう?」
「好きだよ。好きだからこそ……大事にしたいと思ってる。なのに、めぐが急かすんだ」
「ふふ。まるで高校時代の悠みたいね」
「……ああ、嫌になる」
「……あのころの悠は、何を考えていたんだろう? どんな未来を思い描いていたのかなぁ? 私、知りたい」
「……どうした? 急にそんなことを言い出して」
「実はね……」
何かあると思ったら案の定、映璃は隠し持っていた封書をおれに手渡した。「30年後の私への手紙」と書かれている。それを見て高一の時、節目の暦だからと一人一通、自分宛の手紙を書くよう言われたのを思い出した。
「……あれからもう30年経ったのかよ? 嘘だろ?」
「嘘じゃないって。それだけ……年月が経ったのよ」
「そっか……。30年も……」
改めて手紙を見る。宛先が実家の住所になっているのを見て「おや?」と思う。
「この手紙、どこから取ってきた?」
「悠の家のポストから……。ごめんね、私たちのところに届いた手紙を見て、悠の家にも来てるんじゃないかと思って見てきちゃった。結構郵便物がたまってたよ? ついでだから他のも預かってきた」
そう言えば、野上家で厄介になり出してから、実家には一度も戻っていない。ほんのちょっと空けるだけのつもりだったから、水道も電気もそのまま。もちろん、郵便物の届け先も変えていなかった。
「サンキューな。そこまで頭が回ってなかった」
「ううん、大丈夫。悠が嫌じゃなけりゃ、私が時々見に行くよ」
「ありがとう。映璃は頼りになるな……」
「だって悠は私の大事な……」
そこまで言って映璃は口をつぐんだ。
「大事な……なんだよ……?」
「……ねえ、悠。私は悠がどんな答えを出そうとも、ずっと家族だと思って接するつもり。だから、そんなに気負わないでね。ちゃんと、自分に正直にね?」
「……ああ」
返事をしながら映璃の言葉を噛みしめる。
――家族。
彼女の口から発せられたその言葉が、疲れた身体にゆっくりと染み渡っていく。
(おれはやっぱり、こいつらと一緒にいたい。これからもずっと……。)
改めて、封書に目を落とす。30年前、おれは確かに何かを書き残した。けれど、内容は全く覚えていない。あの頃のおれのことだから大したことは書いていないだろうが、それでも中を見てみようと決意する。
のりづけされた封筒の端を破る。中には手紙の案内と、便せんが二枚入っていた。折りたたまれたそれをゆっくり開く。そして、おれが書いたであろう文面に目を落とす。
『鈴宮悠斗様
今から30年後のおれは46歳。全然想像出来ないけど、元気でやってるか? これを読んでいるってことは、元気なんだろうな。そういうことにしておく。
46歳なら結婚してるのかな。何人家族? 幸せに暮らしてる? おれのことだからきっと、いくつになっても脳天気でやってる気がするけど、実際はどうなの?
……先生が書けって言うから書くけど、もし、これを読んでいるおれが人生に行き詰まっていて、メチャクチャ落ち込んでるとしたら、今のおれから言いたいことがある。考えすぎるなって。
おれはバカだからな。考えたって何もいい発想は生まれない。だったら、何も考えずに突っ走れ。そうやって開き直れ。
……といっても、バカ丸出しでいいってわけじゃないぜ? あれこれ言われて悩むんじゃなくて、元々のおれを大事に、ありのままで生きていけって言いたいんだ。
水泳部が強い高校の推薦状がもらえるって話になった時、どうしても自宅から通いたくて、推薦を蹴ってまで自転車圏内の城南高校を選んだのを覚えてるか? (受験勉強は辛かったけど、受かって良かったな……。)
お陰で朝はのんびり出来るし、満員電車に揺られることもない。今でも、あのときは自分の気持ちに正直になって良かったなぁと心から思ってる。自分を大事にするって、そういうこと。もし忘れてたなら、思い出してくれ。
格好つけたがりのおれ。情けないおれ。頑張り屋のおれ。どれも全部、おれ。なんだかんだ言って気に入ってるから、大事にしてくれよな。
人のことはどうでもいい。誰に何を言われようが、構うことはない。おれ全開で行けば必ず道は開ける。そうやって16年生きてきたおれが言うんだ、間違いない!
最後に改めて、46歳のおれへ。色々あると思うけど、これからも頑張って。この手紙が役に立たない未来を願って。16歳のおれより』
まさか、過去の自分からエールをもらうことになるとは。当時のおれが今の状況を予期していたとは思えないが、このタイミングでこの手紙を読んだのにはきっと意味がある。過去から未来へ、すべての時が繋がっている……。そしておれは生かされている……。そう思わずにはいられなかった。
「ありがとう、映璃。手紙を届けてくれて。おれ、頑張れそうな気がする」
「お礼を言うのは私じゃなくて、悠自身にでしょ?」
「……そうかもしれないな」
最悪のクリスマスだと思っていたが、最後の最後におれ自身からクリスマスプレゼントが届いた。思いがけない、最高のプレゼントだ。
◇◇◇
寝る支度をし、あてがわれた部屋で一人になる。
(おれはめぐとどうなりたい……?)
自問自答する。
今回の話は――家族になって欲しいと持ちかけられたことは――唐突だった。だけど、めぐのことは話をもらう以前から好きだったし、あわよくば恋仲になれたらと密かに思い描いてもいた。
それを押しとどめているのは年齢差。そして過去の恋愛や結婚の苦い経験だ。そのせいで今日のデートは大失敗。自分でも情けない終わり方だったと思う。
(めぐとどうなりたいんだ……? 見栄も建前もいらない。おれは、おれ自身の気持ちが知りたいんだ……。)
おれの問いに「素のおれ」が答える。
(本音を言おう。おれはめぐと愛し合いたい。もう一度、いや、今度こそちゃんと自分の家族を持ちたい。だけど、時間をかけてゆっくりと愛を育んでもいきたい。これが、今のおれの気持ちだ。)
おれの中にいる、何人もの「おれ」が一斉に騒ぎ出す。おれはそいつらに話を聞いてもらうため号令をかける。
(いいか「お前ら」、良く聞け。おれは決めたよ。16歳のおれが教えてくれたように、おれの中にいるすべての「お前ら」を……「おれ」を信じると。だから、一人ひとり出しゃばるんじゃなくて、全員で協力してほしいんだ。「お前ら」にはちゃんと、おれをここまで生かしてきた実績がある。目的のために力を合わせれば、今回のことだってきっとうまくいくはずだ。)
――協力……? どうやって……?
わずかに残っていた「臆病者のおれ」が消え入りそうな声で言った。
(めぐが16歳なら、おれだって16歳に戻ったつもりでめぐと付き合うよ。だから、「お前ら」は、あの頃のおれみたいに振る舞ってくれりゃあいい。大丈夫、「お前ら」は16歳でも、おれは46歳だ。ちゃんと計画は立てるし、万が一無謀な行動に出ようとしたら、その時はちゃんとブレーキをかけてやる。)
――おお、なんて頼もしいんだ。これでこそ男、鈴宮悠斗。よっしゃ! いっちょ、やったろうじゃん!
真っ先に「生に貪欲なおれ」がエンジンをかけ始める。他の「おれ」も負けてなるものかと続く。すると、さっきまで落ち込んでいたのが嘘みたいに、気持ちが高揚し始める。まるで16歳の頃に戻ったかのようだ。
恋は駆け引きだ、と翼は言った。これまで行き当たりばったりの恋愛しかしてこなかったおれだけど、演技なんて出来るかも分からないけど、それが効果的だというのなら一か八か、今からでもやってみる価値は充分にあるはずだ。
(なあ、翼。おじさん、おじさんってバカにするけどなぁ。おれには46年分の経験があるんだよ。頭はあんまり良くないけど、失敗から学ぶ能力くらいはあるんだよ。……おじさんを、舐めるなよ……!)
脳裏に浮かんだ翼の顔に向かってそう言い放った。
(続きはこちら(#5)から読めます)
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