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【連載小説】#4「クロス×クロス ―cross × clothes―」 イメチェン

前回のお話(#3)はこちら

前回のお話・・・

塁の兄カップルに連れて行かれた先は、二人がひいきにしているバーだった。そこで二人は、元デザイナーの店主とともに、性別に関係なく着られる服を作っているところだった。その服を着たミーナと塁のスタイルの良さに、兄カップルがモデルになって欲しいと依頼し、承諾するふたりであった。
・・・異装を楽しみ始めたミーナと塁、その後のお話は本編で(*^O^*)
※ 長文になったので、#4、#5連続投稿します。


ミーナ

隠れてやっていたつもりでも、やっぱり家族には感づかれるものだ。弟たちにはあっさりと、私が塁と衣服の交換をしたことがバレてしまった。二人とも小学生のくせに、こういう嗅覚だけは一人前だ。

「それ、前に見たことある! この間まで付き合ってた男のやつだろ? 仲直りしたの?」
「そうでもなけりゃ、彼氏の服がここにあるわけないじゃん。で、なんでそれを着てるの?」
「きっとあれだよ。彼氏のことが好きすぎて、着てた服の匂いがないと落ち着かないんだよ」
「マジかー。匂いがないと落ち着かないなんて、犬みたいだな!」

小学生の浅はかな想像を聞いて鼻で笑いたくなったが、実際にやっていることはどう言い訳しても「フツー」じゃないから、彼らを馬鹿にすることも出来ない。

「あんたたちだって、いっつもお気に入りのブランケットを引きずって歩いてるじゃないの。似たようなものよ」
 そう言ってやると、二人は妙に納得したらしかった。

「だけどさあ、その髪、長すぎるよ。似合ってない」
「帽子の中に押し込んだってダメだね。かえって不自然」

小四の双子は、今度は私の男装を見て批評を始めた。先日、バーで大絶賛だった男装にいちゃもんをつけるなんて……と思ったけれど、言われてみれば確かに……。いろいろ工夫して髪をまとめてみようとしたが、どう頑張っても塁から借りた服との釣り合いがとれない。

「じゃあ、あんたたちはどうしたら似合うと思ってんの?」
 思いきって尋ねると、二人は顔を見合わせて声をそろえる。

「つんつん頭!」

「はあっ?!」

「うっわー、アネキが怒った! 鬼だー!」

弟たちは私を散々からかって楽しんだのか、そのまま走って自室へ向かうと突然テレビゲームを始めた。やれやれ……。

静かになった部屋で一人、全身鏡に映った自分をまじまじと見つめる。

「つんつん頭……ねえ」
 一瞬、塁の短髪が思い浮かんだが、慌てて頭を振って追い出す。時計を見ると、夕方の五時を指している。

「まだ、間に合うかな……」
 明日から二学期が始まる。やるなら、今日しかない。

☆☆☆

「うわっ、ミーナ。どうしたの、その髪型! 思い切ったね!」

朝、登校するなり、クラスメイトで同じソフトボール部だったモネが、私の髪型に気づいた。ぐるぐると、あらゆる角度から私を眺めたかと思うと、すぐに周囲の人間にも私の変化を知らせ始める。

昨日、滑り込むように美容室に駆け込んだ私は、ずっと伸ばしてきたロングヘアをショートボブにしてもらったのだ。ためらいがなかったといえば嘘だけど、思いのほか似合っていたので後悔はしていない。

「イメチェンよ、イメチェン」
 周りに何人か集まり出す中、モネの問いに答える形で言った。

「……もしかして、里桜りおがコクったのと関係ある?」

里桜というのは、先日私に告白してきた後輩の女の子である。確かに、ことの始まりは彼女の一言だったかもしれないが、髪を切ったのは別の理由だ。なんて言おうか……。思案していると、モネが耳打ちをする。

「実は里桜、あの後から孤立してるらしいよ。まあ、レズだと分かったらみんな引くよね。ミーナだって振ったわけだし」

実際、あのときの私に彼女を受け容れるという選択肢は皆無だった。でも、今同じことを言われたらきっと違う返事をしていただろう。たったの数日で、私の考えはずいぶんと変わった。いや、変えさせられた。

責任を感じた私は、その日の放課後、久々に部活動に顔を出すことにした。

「えっ? ミーナ先輩?!」

後輩たちは私の登場に、あるいは髪型の変化に驚いたりはしゃいだりしている。が、私は構わず彼女らの中を進み入って里桜を探した。

里桜は部室の隅にいた。私を見つけるなり「あっ……」と一声発してうつむく。しかしすぐに上目遣いでこちらを見ると「ミーナ先輩、短い髪も素敵です」とつぶやいた。

「あ、でも先輩、あたしのこと嫌いなんですよね。あのとき、キモいって……」

「馬鹿ね。あなたをいじめるために顔を出したんじゃない。むしろ、謝りに来たのよ」

「え?」
 きょとんとする里桜の目を見てはっきりと言う。

「この前は傷つけてしまったわね。あの後いろいろあって、あんな風に言ってしまったことを心から反省してる。許してちょうだい。……残念ながら、この間の返事はやっぱりNOだけど、私が拒んだことが理由で里桜がみんなから遠ざけられてると聞いて、黙っていられなくってね」

「先輩……」

「というわけで……」
 今度は後輩たちに向き直って言う。

「次期部長の里桜をひとりぼっちにさせないようにね。部長を支えるのがメンバーの役目。そうでしょ? そんなことじゃ、一勝も出来やしないわ。それに、里桜が誰を好きになろうが、里桜は里桜じゃない。頼りになる、うちの四番バッターじゃない。みんなだって知ってるはずよ?」

後輩たちはしばらくうつむいていたが、「確かにそうだよね」と何人かが言い出してからはチームに笑顔が戻る。

「ミーナ先輩、髪型変わったらますます素敵!」
「憧れちゃうよね!」
「実はあんたもミーナ先輩のこと、好きでしょ!」
「あ、あたしはレズじゃないってば!」

いつもの雰囲気が戻ったのを見届けた私は、里桜に今後の部の指揮を任せ、帰宅しようと校門に足を向けた。するとすぐ近くでモネが待っていた。

「あれ? 一緒に帰る約束してたっけ?」

「ミーナが部活に向かったのを見て、心配になって様子をうかがってたのよ。暴れなくて安心した」

「そんなことしないって」

「……なんか、急に変わったね、ミーナ。いったい何があったの? 新しい彼氏でも出来た?」

モネも私と同じソフトボール部に所属していたので、私のことはよく知っている。彼女の中の私のイメージはきっと、言いたいことはズバッと言っちゃう口の悪い女、なのだろう。事実、ほんの少し前まではそうだった。その私が、暴れるどころか、傷つけた本人に謝ったのだから不審に思うのも当然だ。

「新しい彼氏? それはないけど……」

言おうか言うまいか悩みながら歩き出す。モネは、私の発言を聞き漏らすまいと、ぴったり並んで歩く。迷い迷って告げる。

「……親への反抗心からよ」

嘘ではなかった。むしろ、それが根底にある思いだった。親のことはモネに話したことはなかったが、衝動的に、女らしくするようしつけられてきたことへの不満をぶちまけてしまう。

「親の意に沿うよう生きてきた私だけど、ある人たちと出会ってそれが間違ってたことを教わったのよ。髪が長くないと女じゃないわけ? スカートじゃないとダメなわけ? 男だから女を、女だから男を好きにならなきゃいけないって言うのも思い込み。いろんな人がいるのよ、世の中には」

「へえ! なんかミーナらしくない! ……ってこれもあたしの思い込み、なのかな」

「そーゆーこと」
 私が言うと、モネは腕を組んでうなった。

「なるほどねえ。髪の毛をバッサリ切ったのもそういう理由だったわけだ。それにしても、あの、、ミーナを、あっという間に改心させちゃう人たちっていったい何者? めっちゃ興味湧くわー」

「まあ、モネには理解できないような人たちよ、きっと」

「えー? あのミーナには理解できたのに?」

「……さっきから『あの』って付けるのやめてくれない? そりゃあ、これまでの口の悪さは認めるけど」

「あたしも会ってみたいなあ」
 モネが祈るように指を絡め、目をキラキラさせて訴えてきた。

「……あんたはただ彼氏が欲しいだけでしょ? 私を変えた人たちは、一癖も二癖もあるような変人ばっかり。モネが求めているような人たちじゃないよ」

「えー、そうなの? がっかりだわー。そういえば、ミーナが前に付き合ってた人は今どうしてるの? 実はこっそりいいなーって思ってたんだよね。今、フリーだったら紹介してよ」

どうやらモネは、部活を引退したのを機に彼氏を作って恋愛を楽しみたいらしい。しかし、よりによって塁、か……。

「あいつは……やめといた方がいいよ。うん、やっぱり変人だもん」

「そうなのー?」

会いたいと言って呼び出したら女装して待ってるようなやつを、変人と呼ばずになんと呼ぶ? モネにはきっと、塁の冗談は通じないだろう。

やめときなさい、と念を押すと、
「あ~っ、さてはまだ好きなんでしょー、元カレ君のこと」
 と、モネが意地悪そうに言った。私は鼻で笑う。

「とっくに別れたやつよ? あいつも口が悪いから、そのせいでモネが傷つくのを見たくないの。それがオススメしない理由」

口ではそう言ったものの、内心、モネが塁と付き合っている姿を想像して苛立っている自分がいた。

自意識過剰で、先のことなんか何も考えてない、お馬鹿な塁のことなんか大嫌い――。

別れを切り出されたとき、そう反論してサヨナラしたはずだった。なのに今、モネに紹介してほしいと頼まれて拒んでる……。

(私は塁のこと、どう思ってるの……?)

急に塁の顔を思い出す。だけどその顔は今や、女装したときの顔だ。思わず身震いする。

「……ねえ、モネ。そんなにイケメンが見たいなら、今日の夕方、都内の球場で野球観戦しない? 平日の試合なら、当日行ってもチケットは買えるだろうし」

いつだったか、野球選手の格好良さを語っていたのを思い出し、思いつきで提案する。私もそうだけど、モネも根っからの野球好きだし、イケメン好きなのだ。

「あ、それ、いいね!」
 案の定、モネは誘いに乗ってくる。
「確か今日は、東京ブルースカイと阪神スターキャッツの対決でしょう? 先発はあの人だったはず! うん、絶対行く!」

「じゃあ、それまで都内でぶらぶらしてようよ。街にもいい男、居るかもしれないし」

「賛成ー!」

モネの扱いには慣れているので、なんとか塁を紹介せずに済んで一安心する。それはいいのだが、自分で言っておきながら、いい男ってどんな男だろう? と考える。

顔立ちが整っている人? 優しい人? 高学歴の人? 高収入の人……?

少し前なら、今あげたどれかに該当する人だと答えただろう。けれど、今は少し違う。

純さんとかおりさんの付き合い方を見てからというもの、あんな恋愛がしたいと思い始めている私がいる。外側の条件ではなく、内面や精神を認め合える関係性に憧れ始めているのだ。

今日はモネに合わせるけれど、私はイケメン探しではなく、純粋に野球の試合を楽しもう。そう心に決め、モネと歩き続ける。


続きは#5から読めます


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