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【連載小説】「好きが言えない3 ~凸凹コンビの物語~」#13 お人好し

⚾【前回のお話 #12 騒動

ここまでのあらすじ

暴行犯容疑が晴れた大津は帰宅して兄のハヤトと会話する。
ハヤトから、祖母が自分のミットを磨いてくれている話を聞き、やはり自分は野球で活躍する姿を見せることで祖母を喜ばせることしか出来ないと気持ちを新たにする。

その矢先、三浦と口論になる。
三浦の陰湿な行為に激高した大津は三浦を暴行してしまう。

13

 結局野球部は二週間の活動停止処分を食らうことになった。
 それも、弟を殴った犯人が野球部にいたから、ではなく、野球部内での殴打事件が原因という不名誉で。

「謝れよ、三浦。全部、おまえのせいだ……!」

 解放され、真っ先に口を開いたのは大津だった。
 再び喧嘩が始まりそうな勢いだった。
 おれは最後の元気を振り絞って二人の間に割って入る。

「もうよせ。
 謝ったからって、起きたことを帳消しには出来ないんだ」

「だけど……こいつは……!」

「三浦のしたことはよくない。
 だけど、やられたらやり返していいってことにもならないんだよ」

 大津はうつむいて黙り込んだ。
 一方の三浦は空を仰ぎ、すました顔をしている。

 おれは深くため息をつき、三浦を小突いた。

「これだけは言っておく。
 三浦を駆り立てたのが何かは知らないが、これ以上人を傷つけるな。
 今回のことまでは許す。でも、次はないと思え」

「許す……?」

 二人は同時に言った。

「どこまでお人好しなんだ、このセンパイは。
 それとも馬鹿なんですか?
 部活停止に追い込まれたって言うのに、三浦にはおとがめなしだなんてあり得ないでしょう!」

 大津が思いきりおれを馬鹿にした。
 三浦でさえも、だ。

「そんなことを言っているから部長はなめられるんですよ。
 まだわからないんですかぁ?」

「……もう一度言う。次はねぇぞ。
 肝に銘じておけ」

 これ以上軽口とたたかれたら、ここまで保ってきた自分が壊れてしまう。
 もう限界だ。
 最後の一言を放ったおれは、急いで二人から離れ自分の教室に戻った。

 授業には全く集中できなかった。
 部活のこともそうだけど、目の前の席で並んで座る祐輔と春山が、何やら楽しげに耳打ちする姿にもうんざりした。

 大津の言う通りかもしれない。
 おれは単なるお人好し。
 それで格好つけているつもりになって人生、大損している。
 そんな気がし始めた。

 好意を寄せる春山には、決して敵わない祐輔という恋人がいる。
 なんとかして振り向かせようとしたこともあるが、今はもう、春山の幸せを願う方が紳士的と考え改め、つとめて「いい人」として振る舞っているほどだ。

 ――そんなことじゃ、手に入れられるものなんて一つもないぞ?
   もっとがめつくなれよ。

 もう一人の自分が言う。
 なのにおれときたら、その言葉に耳を貸したくないと思っている。

 おれにはたぶん、嫌われる勇気がないんだろうな。
 大津みたいに、思ったことをはっきり言える人間がうらやましかった。

 ごめんな、大津。味方になりきれなくて。
 ごめんな、彰博。三浦に謝らせるのは難しそうだ……。

 夕べ、せっかく考えてきた練習メニューも二週間はお蔵入り。
 自分は一体何をしているかと落ち込み、机に突っ伏す。
 目からこぼれ落ちたしずくが机を濡らした。

続きはこちら → #14 「強い人」


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