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【連載小説】「好きが言えない3 ~凸凹コンビの物語~」#12 騒動

⚾【前回のお話 #11  ハヤト

ここまでのあらすじ

暴行犯容疑が晴れた大津は帰宅して兄のハヤトと会話する。
ハヤトから、祖母が自分のミットを磨いてくれている話を聞き、やはり自分は野球で活躍する姿を見せることで祖母を喜ばせることしか出来ないと気持ちを新たにする。

12

 早く部活に出たい、そんな気持ちになったのは実に久しぶりのことだ。
 野上センパイはどんなメニューを考えてくるのだろう。
 どうせならできるだけ厳しい内容がいい。
 休みなしで毎日消灯まで、走ったりバットを振ったり投げたりしたっていい。
 そのくらい気合いに満ち満ちている。

 今は朝練習もないから、センパイにそれを確認したかったらメールか、直接会って聞くしかない。
 午前の授業の間ずっと悩んでいたが、やっぱり直接聞きに行こうと決め、昼休みを利用して三年生の教室がある三階に足を向けることにした。
 そのとき、遅れて登校してきた三浦と鉢合わせた。

「昼から来るとは、ずいぶんなご身分だな、三浦」
 皮肉たっぷりに言ってやる。
 すると向こうも負けじと返してくる。

「そりゃあそうさ。大津と部長がツルヤ書房でどんな会話をしたか想像してたら眠れなくもなる」
   
 こいつ、やっぱりはじめからおれたち二人をはめるつもりだったな……?
 にわかに怒りがこみ上げる。
 センパイのところに行くのは後回しだ、こいつにぎゃふんと言わせなけりゃ気が済まない。

「ああ、会ったとも。
 部長さまはひどくお怒りだったぜ? おまえに対してな」

「はぁ? 何でオレに?」

「わかんねえのかよ?
 呼び出した人間が待ち合わせ場所に来ないってだけで誰でも腹が立つ。
 そいつが自分の弟を殴った犯人とわかればなおさらだろう?」

「……大津を犯人に仕立てるつもりだったんだけどなぁ」

 三浦が本心をあらわにした。
 おれは思わず舌打ちをする。

「今時、小学生でももうちょっとましな計画立てるだろうよ。
 やるならもっと頭を使え、頭を!」

「頭を使え、だとぉ?」

 突然、三浦の表情が変わった。
 どんと押され、おれは壁際に追い立てられる。

「どいつもこいつもオレを馬鹿にしやがって!
 頭なら割れそうなくらい毎日使ってる!
 それでももっと頭を使えって言うならこうしてやるよ!」

 そういうなり、三浦は激しく頭突きをしてきた。

「いってえなぁ、この石頭が!」

 反論しても三浦はやめない。
 何だ、こいつ……。
 まるで頭がおかしくなっちまってるみたいだ。

「なんだよっ。おれに何か恨みでもあるのかよっ!」

「あるからこうしてるんだろう!」

 半分冗談で言ったつもりが「ある」と返され混乱する。

「お、おい、石川! ぼさっと見てねぇでこいつを止めるの、手伝ってくれ!」
 とっさに、机に頬杖をついてこちらを見ている石川を呼ぶ。
 しかし石川は動かない。

「オレが手を貸したら三浦に何されるかわかんないからさ……」

「ちっ、そういうことかよ……」

 三浦と石川はいつもつるんでいる。
 てっきり仲がいいもんだと思っていたが、そうじゃなかったんだ。

 石川は三浦を恐れて言いなりになってただけ。
 部活をサボっていたのだってきっと、石川の意思ではなく三浦の目を気にしてのことだったに違いない。

 ちょっと意識が考え事に向いた瞬間に三浦が攻撃の手を緩めた。
 ほっとしたのもつかの間、やつはなぜかおれのスポーツバッグをひっつかんで廊下に走り出ていった。

「おい、何のまねだっ?!」

 すぐに追いかけるが三浦はすでに階段を降りている。
 あっという間にその姿が小さくなっていく。

 あのバッグの中にはおれの「すべて」が入っているんだ。
 なんとしても取り返さないと……!


 三浦はついに学校の外へ飛び出していった。
 どこまで逃げるつもりだ?
 
 三浦は学校脇の河原でようやく足を止めた。
 そしてバッグを下ろすと、中からおれのミットを引っ張り出した。

「こんなもの、こうしてやらぁ……!」

「おいっ!」

 おれが止めるまもなく、三浦の手から離れたミットは大きな音を立てて川の中程に落ちた。

「てめぇ!!
 おれに恨みって、一体何だよ! はっきり言えよっ!」
 つかみかかると三浦はヘラヘラと笑いながら答える。

「……気にいらねえんだよぉ。一年の時から先輩に取り入ってる大津のことが。
 永江部長にキャッチャーの素質を認められていい気になってるおまえが心底嫌いなんだよぉ……。

 何がキャッチャーだ、何が野球だ。
 どんなに夢中になったって、そんなものはこの先何の役にも立たないんだ。
 誰もオレの努力を認めちゃくれないんだ。
 野球なんかなくなっちまえ、おまえだって消えちまえばいいんだ……!」

「……何言ってるかわっかんねぇな!
 逆恨みにもほどがあるだろう!」

 三浦は勘違いしている。
 おれはただ、センパイたちとあんなふうにしか話せないだけ。
 そのせいでこれまで何人ものセンパイに嫌われてきたし、いじめられても来た。
 それでもやってきたのはハヤトに負けたくなかったからだし、年下ってだけで馬鹿にしてくるセンパイたちを見返したかったからだ。

「……ほら、探さなくていいのかぁ?
 大事なものなんだろう? へへへ……」

 三浦が気持ち悪く笑った。

「ちっ……!」
 おれは三浦を突き飛ばし、川の中へザブザブと入っていく。

 決して浅くはない川。
 大小の石が転がっていて、油断すればすぐに足を取られてしまいそうだ。 

「ハッハッハ……! 滑稽だぜ、大津! いい気味だっ!」

 三浦に馬鹿にされてもおれはかまわず川の中程へ歩みを進める。

「くうっ……!」

 目と喉の奥が痛み出す。

 泣くな、おれ……。
 今までだって散々いじめられてきたじゃないか。
 泣いたって何も解決しないって、十分知ってるじゃないか……。


 長い間、ミットが落下したあたりを探したが結局見つけることは出来なかった。

 川から上がるとずぶ濡れだった。
 三浦はとうにいない。
 サイアクだ。

 このまま家に帰ってしまうのは癪だった。
 負けを認めるみたいで。

 こうなったらこっちも意地だ。
 おれはバッグを手に持つと、濡れた体のまま教室へ引き返した。

   *

 午後の授業はすでに始まっていた。

 何だ?
 どうしたんだ……?

 ずぶ濡れのおれを見たクラスメイト(おそらくは全員)が目を丸くした。
 こんなに注目を集めたのは、昨年の夏の大会決勝戦以来だろう。

「……どうしたんですか、大津さん。
 ……雨にでも打たれたんですか?」

 国語の女性教師がつまらない冗談を言ったが、笑ったのは三浦だけだった。

「暑かったんで、そこの川でちょっと泳いできたんです。
 あの、着替えがこれしかないんですけど、着替えてきていいっすか?」

 おれは体操服を指さして言った。

「早く着替えていらっしゃい。
 そんな格好でいたら風邪を引きますよ?」

「はーい、それじゃ、着替えに行ってきまーす」

 できるだけ平静を装う。
 おれはいつもこんな感じだから、誰も何も気がつかないだろう。

 ところが、だ。

 教室に戻り授業を受けていると、どこからともなくクスクスと笑う声が聞こえてきた。
 不審に思っていると、隣のやつがこっそりスマホを差し出してきた。

「これ、マジな写真?」

 みるとそれは、川でミットを探し回るおれの姿を写したものだった。
 しかもその写真に、
「魚を手づかみで捕ろうとしている大津理人(笑)」
 と文章が添えてある。

 一瞬にして目の前が真っ白になった。
 息苦しくなる。

「うわあああっ……!」

 その後のことはよく思い出せない……。

   *

 ……我に返ったときにはなぜか野上センパイがいて、何もかもが終わった後だった。

 おれも三浦も、そしてセンパイもあちこち怪我をしていた。
 教室は机や椅子がめちゃくちゃになっていたし、何人もの先生がおれたちを取り囲んでいた。

「セ、センパイ……。おれが、やったの……?」

 正気に戻るにつれ、また周りが見えてくるにつれ、おれは自分が怖くなっててわなわなと震えた。

「三人とも、このまま生徒指導室に移動するように」
 騒ぎを聞いて駆けつけたのだろう、野球部の顧問がそう言った。
 
「おれたち、どうなるの……?」
 恐る恐るセンパイに尋ねる。
 センパイは「大丈夫、大丈夫だからな」と言って小さくうなずいた。

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