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【連載小説】第三部 #4「あっとほーむ ~幸せに続く道~」別れ

前回のお話(#3)はこちら

前回のお話:

祖父母の家が解体されたのを見て心を痛めた翼。しかし、帰宅してみるとめぐは自分以上に悲しみに暮れ、一日中泣き通していたと知る。身近な人の命と引き換えに生を受けたいと願う、めぐの赤ちゃん候補のひとりの声が聞こえたのも、めぐを悲しませた理由の一つだった。

彼女の笑顔を取り戻すため、また翼自身もめぐと二人きりの時間を過ごすため、翼は花見に行くことを提案する。ところが予想外の雨に降られ、桜の名所から近所の神社の花見に変更する。

そこは二人の結婚式を取り持ってくれた宮司のいる神社だった。二人が訪れると、神の声に導かれたという宮司が現れる。宮司はめぐの悩みを知り、「目に見えない者の声に惑わされず、自分の行動は自分で決めなさい」と告げる。
宮司の助言を受けて心を軽くしためぐたちは、神社での花見を楽しみ帰宅した。落ち込むめぐを心配していた悠斗は彼女の笑顔を見て安心し、今度は家族全員で花見に行こうと提案する。

<悠斗>

 雲一つない快晴。「いい花見日和になりそうだ」と青空に向かって伸びをしながら呟く。

 今年の春はいつもと違う気がする。去年もその前も春はきちんと巡ってきてたし、桜の花が咲いているのだって見ているはずなのに、なぜだろう。

「あ、いたいた!」
 声がして振り返ると、玄関の奥から翼が現れた。
「悠斗もいくつか荷物を持ってくれよ。まさか、手ぶらで場所取りに行くつもり?」

 レジャーシートの入った袋を手渡される。おれたちが向かう先は花見会場。まずは二人で座る場所を確保しておき、後から家族が合流するという手筈てはずになっている。

 花見の場所取りで思い出すのは大学時代。水泳部の親睦会だ。それなりに楽しかったが、振り返ってみれば花見はただの口実で、酒を飲んだり騒いだりするのが主な目的だった。ひたすらに若くて自意識過剰で……。そんな年頃におれは子どもをもうけ、結婚したんだ。まさかその後、自分の不注意が一因で子どもを死なせ、離婚し、十年も後悔を引きずりながら生きることになるとは思ってもいなかった……。

 苦い思い出が引っ張り出される、桜の花を見ながらの宴会。しかし今回、それを提案したのはおれ自身だ。

 おれは変わった。いや、変えさせられた。めぐや翼、オジイやオバア、彰博あきひろ映璃えりたちと過ごす中で。今年の春は何かが違うと感じるのはきっとそのせいだ。

 バイクを走らせ、目的の花見会場に到着したおれたちは、満開の桜の木の下に大きなシートを広げた。まだ八時過ぎだというのに、気の早い人たちがどんどんやってきては場所取りをし、帰っていく。

「せわしねえな。静かなうちに花見を楽しんで行ったっていいと思うんだけど……」

 おれはレジャーシートの真ん中に寝転んだ。鳥の鳴き声、風の渡る音、花の隙間からこぼれ落ちる日の光……。

「ああ……。春って、こんなに美しい季節だったんだな……」
 思わず呟くと、翼も隣に寝転んできた。そして「悠斗も、春が嫌いだった人?」と言った。

「うん、まぁ……。色々あったからな……。お前も?」

「まぁね……。だけど、今は違うよ。アキ兄の家でめぐちゃんや悠斗と暮らすようになってからは、春も悪くないなって思えるようになった。春に咲き出す庭の花々を一緒に愛でられる家族がいるってのは素晴らしいことだ。なんていうか……共に生きてるって思えるから」

 庭の花がゆっくり生長するように、おれたちの愛もゆっくり育てていきたい――。

 翼の言葉を聞いて、過去に自分がめぐに言ったことを思いだした。

 結婚という形ではなかったが、その願いはたぶん、叶ってる。おれもめぐも家族として互いを思いやり、愛し合っている。それは年単位でゆっくり互いの気持ちを確かめ、育ててきたからこそ成し得たことだ。

 めぐとのことに限らない。男と女。若者と年寄り。血縁のあり、なし……。加えて、考え方も好みも異なる彼らと同じ家に住み、同じ飯を食い、同じ景色を見、年を取っていきたいと思うのは、感動を分かち合いたいからだ。一人では決して味わうことの出来ない感情を、他でもない彼らと共有したいからだ。

 奇しくも翼が同じ考えだと知り、だからやっぱり家族でいられるんだと思う。

「季節の移ろいとか、天候の変化に敏感な人は、今起きていることにちゃんと目を向けられる人だ。物事を冷静に見つめられる人だ。少なくとも、野上家の人はみんなそう。だから一緒に生きていきたいって思うんだよ」

「なるほど。だけど、悠斗だって同じだぜ?」

「サンキューな。まぁ、おれの方は最初からそうだったわけじゃなくて、今の穏やかな暮らしの中で、少しずつ感じられるようになったって言うのが正しいけどな」

「穏やかな暮らし、か……」
 翼は起き上がると周囲を見回した。

「……せわしなく生きてると、人間も自然の一部だってことを忘れちゃうよな。せめて、こうやって自然の中に身を置いている間くらいは全身の感覚を研ぎ澄ましたいものだ。写真や動画では絶対に残せないからな」

「そうだな」

 おれも起き上がって深呼吸をする。春の匂い――そこには土や新緑、花など、この季節に目覚めたあらゆる自然物が含まれる――が鼻腔を刺激し、満開の桜が目を楽しませてくれる。同時に様々な過去の記憶もよみがえるけれど、今日だけは胸の奥に押し戻そう。野上家の人たちと過ごす楽しい時間を存分に味わいたいから。

 一度帰宅する予定だったが、話の流れからここで家族の到着を待つことに決めた。

 よく考えてみれば、物心ついたときからこの地で暮らしてきたというのに、桜の名所でさえこうしてゆっくり散策したことはなかった。ときどき立ち止まりながら歩いてみると、今まで見えていなかった景色が見えてくる。

「こんなところにヒナゲシが咲いてらぁ。おっ、木の陰には地蔵さんもいる」

「本当だ。……よく見たらアキ兄にそっくりじゃん! 面白いから写真撮っとこーっと」

 見たままを素直に伝えても、翼はちゃんと受け答えしてくれる。そういう家族がいるってだけでおれは幸せを感じ、今、生きてここにいられることに感謝するのだった。

 昼頃になって映璃えり彰博あきひろ、翼の母親が飲食物を持ってやってきた。その後、オジイやオバアを連れためぐとニイニイも到着し、ようやく顔ぶれが揃う。

「んじゃ、とりあえずカンパーイ!」
 待ちきれないと言った様子で乾杯の音頭を取ったのはニイニイだ。車で来たというのに、彼は誰よりも先に缶ビールに口をつけた。彰博がすかさず指摘する。

「待って、兄貴。それ、ビールじゃないの?」

「そうだけど? あ、もう飲んじゃったわー。ってことで、帰りはお前が運転な。今日はバスで来てるんだろ?」

「……聞いてないんだけど」

 いきなり兄弟げんかが始まりそうな空気に包まれる。が、慣れているのか彰博はため息をついただけで、自分が飲むつもりで開けたアルコール飲料をおれによこし、そのままノンアルコールビールに手を伸ばした。二人を見て笑っているのはオジイとオバアだ。

「わっはっは! 喧嘩するほど仲がいいとは路教みちたかたちのことを言うんだろうな!」

「本当にねぇ。あなたたちを見てると飽きなくていいわ」

「……やれやれ。この親にしてこの兄あり、って気がしてきたよ」
 彰博が再びため息をついたところで、ニイニイがおれたち隣に腰を下ろす。

「まぁ、いいじゃねえか。酒くらい、いつでも飲めるだろ?」
 
「それ、そっくりそのまま言い返してあげるよ」

「馬鹿言え。今日は、ユウユウと飲むって決めてんだ。先日の実家飲みではあんまりしゃべれなかったからな」

「は? ユウユウって、悠のこと? いつからそんなに親しい間柄になったのさ?」

「これからに決まってるじゃねえか。なぁ、ユウユウ?」

 肩を組まれたおれは苦笑いする。こっちがニイニイと呼ぶのに合わせて、彼の方もおれを愛称で呼ぼうとしていたのだが、なかなかしっくりくる呼び名が思いつかず保留になっていたのだった。それにしても、ユウユウ、か……。ちょっと可愛すぎるような気もするけど、まぁ、いっか……。

 彰博と翼、女性陣がオジイやオバアと穏やかに食事やおしゃべりを楽しんでいる横で、おれは管を巻くニイニイに付き合わされている。普段のおれは聞き役じゃあないけど、今日ばかりはその役に徹するしかなさそうだ。

 しかし、聞けば聞くほどニイニイの人柄が分かってくる。彼は彰博や翼から聞いていたような分からず屋でもなければ、威張り散らすような人でもない。彼なりの信念に基づいての行動が端からはそう見えるだけなのだ。

 酒の量が増えるにつれ、彼は真剣に自身の考えを訴える。

「おれは長男だから、親の面倒は絶対に見なきゃいけないと思っていたんだ。だけど実際そういう立場になってみると、親相手では衝突することも多くてな。親は親の、おれはおれの考えを譲らないせい。ああ、分かってるさ。それが『鈴宮家で面倒を見てもらう』って結果にも繋がってるわけだし。だけどさ、おれがこういう性格なのは親だって分かってるはずじゃん? 息子より、弟の友人と暮らす方がいいって言われるこっちの身にもなって欲しいもんだぜ」

「いいじゃないですか、衝突できるなんて。わかり合おうって気持ちがなければ、そもそもぶつかり合おうとさえしないと思います。おれなんて、親から逃げちゃいましたからね……。そうこうしてるうちに旅立っちゃったんで、当時は後悔してもしきれませんでしたよ」

「……苦労してきたんだなぁ、ユウユウは」

「まぁ、その時の後悔があるから、野上家の人たちかぞくと過ごす時間を大切にしたいと思ってますし、一緒にいたいと言ってもらえるのは本当に有り難いなぁと思ってます」

「そうだよなぁ……。いつか言おうと思ってることがあるなら、言えなくなる前に言った方が……、今、言った方がいいよなぁ」

 そう言うとニイニイは缶ビールを片手に立ち上がり、オジイとオバアに歩み寄る。そして椅子に座る二人に目線を合わせた。

「親父、母さん。おれの親でいてくれてありがとう。おれは決していい息子じゃないけど、迷惑も一杯かけてきたけど、おれなりに親孝行しようと頑張ってきたつもりだ。あとどのくらい一緒にいられるか分からないけど、顔を合わせられるうちは何度でも喧嘩して、何度でも笑い合おう」

 ニイニイがビールを差し出すと、オジイとオバアも手に持っていた飲み物を掲げた。

路教みちたかは自慢の息子だよ。路教だけじゃない。ばあちゃんもそうだし、彰博あきひろや孫たち、野上家に関わる全員がじいちゃんの自慢だ。もちろん、悠斗さんもな」

「おいおい、褒めても何もでないぜ?」

「いいじゃないか、人生の最終盤くらい素直になったって。……ありがとう、路教。甲子園に連れて行ってもらったり、孫育てが出来るくらい近所に家を買ってくれたりと、たくさんいい思いをさせてもらった。こんなにも親孝行の息子が、悪い息子であるはずがない。本当にありがとう」

「よせよせ、そういうのは得意じゃねえんだ……」
 ニイニイは缶ビールを飲み干すと、手近にあった缶チューハイを開けてあおった。
「だけどまぁ……親父がそう思ってくれたんなら良かった」

「わっはっは! 言いたいことは言わないと。お互い、後悔したくないだろう?」

「そうだな……」

「それじゃあ、気を取り直してもう一度乾杯と行こうか」

「おうっ!」

 二人は笑顔で乾杯した。その乾杯がおれたちにも回ってきて一同が再び一つになる。そして笑顔の輪が桜並木の下で広がっていく……。

(この時間が永遠に続けばいいのにな……)

 しかしそう思うのは、この瞬間が永遠には続かないと分かっているからだ。満開の桜の花が数日後には散ってしまうように、時は刻々と過ぎ去り、一秒たりとも止めることが出来ない……。そう思ったら、おれも黙っていられなくなった。

「オジイ、オバア。おれからもお礼を言わせて下さい。……野上家の一員として受け容れて下さってありがとうございます。自分の親に出来なかった親孝行をさせて下さってありがとうございます。……おれも今、最高に幸せです。生きてて、良かったです」

 二人は何度も何度もうなずいた。
「じいちゃんも長生きできて良かったよ」

「私もよ。この年になってもう一人息子が増えただけでも嬉しいのに、毎日笑顔を分けてもらえるんだもの。こんなに素晴らしいことはないわ。ありがとうね」

 年のせいか、酒のせいか、気づけば二人の言葉に涙していた。一瞬、隠そうとしたが、気づいためぐがそっとハンカチを差し出す。その顔を見て、おれが母親を亡くして肩を落としていたときに慰めてくれた、八歳のめぐを思い出した。奇しくも彼女はその時と同じようにおれをぎゅっと包み込んでくれた。

「悠くんは言ったよね? わたしたちと喜怒哀楽を感じたいって……。なら、うれし泣きしたっていいじゃん? 泣くほど笑ったっていいじゃん? そういう顔を見せられるのが家族、でしょ?」

「ああ、そうだ。その通りだ……」
 呟いたおれの肩に翼が手を置く。

「もっと泣けばいいさ。声を上げたっていいぜ? 俺が歌って泣き声をかき消してやるから」
 彼は肩からギターを提げると本当に弾き語り始めた。

胸いっぱい、深呼吸
新しい季節のにおい
柔らかな日差し
空は青く
からだの中に感じる春

色とりどりの花
草木の新緑みどり
目にまぶしくて

今日も 生きてる 
ありがたさを知る

今年も家族と
春を過ごせますように
願いながら 今はただ
あなたといられる幸せをかみしめる

 彼の、透き通るような歌声に涙腺を刺激され、静かに涙した。そして歌詞にあるとおり、今家族といられる幸せを強く強く噛みしめたのだった。


◇◇◇

 新緑が勢いよく伸びるのと真反対に、元気そうに見えていたオジイはゆっくりと衰え、花見から二ヶ月が経ったある日に旅立った。穏やかな最期だった。

 梅雨の始まりを告げるかのように、朝から雨が降っていた。彰博やニイニイが慌ただしく死後の手続きをする様子を端で見守る。悲しみに暮れる暇もないまま、二人は淡々と手を動かしていた。

 喪主であるオバアの負担を考えて通夜はせず、葬儀も家族だけで済ませることになった。

 斎場につくと、長く暮らした野上家の庭を模した花に囲まれたオジイが額縁の中で嬉しそうに笑っていた。

 そんな遺影を前に、彰博は立ち尽くしている。唇を噛み、涙を堪えているようだった。それを見たニイニイが背中を叩く。

「泣いてんのかよ? そんなことでどうする? 親父は涙じゃなくて笑顔で送り出してやらないと」

「父さん……! そんな言い方って……!」
 そばで聞いていた翼が突っかかる。

「待て、ニイニイにはおれから話す」

「悠斗……」

「任せろ」
 渋々引き下がる翼と入れ替わるように、ニイニイの前に立つ。そして不満げな彼に向かって言い放つ。

「彰博を、泣かせてやって下さい」

「ユウユウまで……」

「ニイニイの気持ちは分かります。でも、涙って身体の反応だから止めようがないじゃないですか。母親を亡くしたときのおれも、笑って送り出してくれと言われたのに涙が止まらなくて戸惑いました。そんなとき、彰博が言ったんです。泣き尽くせばいいって。涸れるまで泣いたらまた笑えるようになるって。その言葉がおれを救ってくれた……。だから今度はおれが彼を救いたいんです」

「……わかったよ。おれからはもう、何も言うまい」
 そう言った彼の目が涙でにじんでいるのを、おれは見逃さなかった。

 涙を見せないこと。悲しみに耐えること。それが男らしさ、強さであると教えられてきたおれたちは、いつしか声を上げて泣く方法を、悲しみの表現の仕方を忘れてしまった。しかしおれは思いだした。心の動くままに、全身を使って感情を表に出すのが自然な姿であり、それが人間らしく生きることなんだって。だから家族にも、感情を押し殺さずありのままの感情を出して欲しいと思う。

 おれの隣で目を伏せる彰博の肩にそっと手を置く。

「泣けよ、彰博。今日だけは思い切り泣け。おれの前でも、だ。今日泣かないで、いつ泣くんだよ? 大丈夫、お前が泣いてたってオジイはきっと気にしないさ。むしろ、笑い飛ばしてくれるだろうよ」

「くぅっ……!」
 それでも涙を堪えようとする彰博に、妻である映璃が寄り添う。

「アキ、悠の言うとおりだよ。ほら、お義父さんがいい笑顔でこっちを見てる。私には、泣くほどじいちゃんが好きだったのかって言いながら笑ってるように見えるよ」

 彰博は写真を見つめた後で部屋の隅の椅子に座り、うつむいた。そして声を上げて泣いた。

 葬儀はしめやかに行われた。おれたちは最後の別れを惜しむように何度も何度も礼を言った。しかし本当にその時がやってくると、一同はようやく覚悟を決めて口をつぐんだ。

 数時間後、煙と共に旅立つオジイを見送るため、外に出る。その時、雨の止み間に日が差して大きな虹が架かった。オジイはきっとあの虹を渡って天国に向かっているのだろうとみんなで話しながら、七色の橋が消えるまで空を見上げていた。

「悠斗君、お疲れさま。今日はありがとうね」

 すべてが終わり、タクシーを待っているとオバアに声をかけられた。その瞬間、肩の力が抜け、急に涙が溢れ出てきた。葬儀の間は一粒も落ちてこなかったというのに。オバアがおれの手を握った。

「おじいさんはいつでもそばにいてくれる。わたしには分かる。だから、ちっとも寂しくなんかないのよ?」

「……そうですね」
 お骨は、納骨日まで鈴宮家で預かることになっている。オバアの近くに置いておくのが一番だというニイニイの発言を受け、皆で決めた。

 骨壺を、孫である翼が自宅まで運んでくれる。

「じいちゃんがこの中に入っちゃったなんて、まだ信じられないな……」
 タクシーで帰宅する最中に翼が呟く。
「家に帰ったらいたりして。……んなわけないか」
 おれとめぐ、オバアは笑った。

 程なくしてタクシーが家に到着した。オバアに肩を貸しながらゆっくりと室内に入る。オジイの骨壺が居間に安置されたのを見届け、その前にオバアを座らせる。オバアは「帰ってきましたよ」と言いながら手を合わせた。

「お疲れさん。悠斗はもう休んだ方がいいよ。後のことは俺とめぐちゃんでやっとくから」
 早々に喪服から私服に着替えた翼に声をかけられた。少々のことでへたばるおれじゃないが、今日ばかりは疲れを感じている。

「それじゃ、お言葉に甘えようかな」
 彼の優しさを素直に受け取り、まずは自室で楽な格好に着替える。一人きりになり、布団に寝転ぶと一気に身体が重くなった。

「あーっ、疲れたー! オジイ、肩でも揉んでくれよ……」
 冗談めかして呟く。

 ――よし、分かった。言っとくが、じいちゃんの肩もみは痛いぞ?――

 どこからともなくオジイの声が聞こえた気がしてハッとする。亡くなってすぐだからまだ生きているように錯覚しただけだろうか。それにしてははっきり聞こえた……。もしや、と思って誰もいない空間に問いかける。

「……オジイ? この部屋にいるんですか?」
 すると案の定、身体の透けたオジイの姿が見えた。思わず起き上がって姿勢を正す。オジイは笑った。

 ――わっはっは。楽にしてていいよ。いや実は、ばあちゃんのことが心配でな。もうしばらくはこの家にいさせてもらうつもりで戻ってきたんだよ。構わないかな?――

「そ、それは構いませんが……。おれの前に現れたってことは、やっぱり見えるのはおれだけなんですか?」

 ――そのようだな。ま、じいちゃんがいる間は通訳を頼むよ――

「通訳って……」

「悠斗……? 誰としゃべってんの? 入っていい?」
 ドアの向こうから翼の声がした。独り言を言うなんて、疲れすぎておかしくなったと思われたのかもしれない。おれは自分からドアを開けた。

「誰ってそりゃあ……オジイだよ、オジイ。魂になって帰ってきてるんだ」

「……は? マジで?」

「ほら、そこに……」
 振り返って指し示したが、オジイの姿は見えなくなっていた。


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