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《大空》

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今日のテーマ《大空》にまつわる思い出を、
飾らない想いで、浮かんだままに綴ってみた。



眩しいくらい笑っているように見える空がある。雲がひとつもなくて、それはまるで一番最初のピースをこれから嵌めていく、まっさらなパズルのような空だ。そんな真っ青な大空を見ると、ぐっと手を伸ばしてみたくなる。いや実際、伸ばしているのだけれども。


10年前の2013年2月14日に、私はブルガタ症候群という心臓疾患で左胸にペースメーカーに似たようなICD(埋込み型除細動器)なるものを植え込む手術を新潟市民病院で受けた。執刀医だった保坂先生とは今もずっと定期的なICD外来で長いお付き合いになっているのだけれども。
その心臓疾患のせいで心臓機能障害1級という最も重たい障害認定を受けた。正直、それからの7か月間は生きているという実感も気力もなく荒んだ生活を送っていて、好きだった空を見上げるなんてことをした記憶すらなかった。
この世には笑うという事象が存在しえないかの如く絶望しかなくて……線香が腐ったような黴にも似た匂い、そんな体に染みついてきそうな《闇》の匂いに心が支配されて、息をすることが苦しくて激しい吐き気さえ感じることもあった。
それまで契約で働いていた職場も辞めて、私に優しく寄り添って懇意にしてくれていた職場の女性に対しても、自分から遠ざけて距離を置いてしまった。

それにもかかわらず、その元職場の女性…真由子は諦めもせずに、時間のあるときはいつも私の隣にいて心を支えてくれた。その彼女の惜しむことなく降らせ与えてくれるたくさんの優しさに私は救われていく。
「辛いよね、怖いよね。でも弱音吐いたっていいんだよ。そんな自分を認めてあげて。今までお嬢さんのこともご両親の介護も全部一人で頑張ってきたんだから、あなたの場合はめげることを許してあげてもいいの。心臓の病気はあなたに休んで欲しくて起きたことであって、絶望させるためじゃないの。わたしはそう信じたいの」

真由子のその言葉に何かを許されたかのような、寒々と凍てついていた心が春のように温かさを感じ始めた。目の前にかかっていた深い靄が晴れていくようだった。
彼女は私が欲しいと求めているものを与えてくれる。温かくて、優しく輝くような笑顔を見せてくれる。全てを覆いつくして、あらゆる苦しみを優しい光で晴らしてくれる。彼女はそういう人だった。それなのに……2018年6月17日、子宮頸がん末期(ステージ4-B)で逝去。享年35歳だった。


彼女も私も空が好きだ。そして私は晴れた日には必ず空を見上げる。この空の遥か彼方の何処かに真由子の魂は住んでいて、今も笑ってくれいる、優しさを降りそそいでくれている……そんなふうに思うと、いつもより空は少しばかり優しく美しく見えてくる。そこには眩しいくらいに笑っている彼女の笑顔が浮かんで見える。雲ひとつない真っ青な空ならば、パズルが完成したときの彼女の微笑みが見られるようにと、そして願うように私は心の中で山盛りになっているピース《彼女とのかけがえない思い出》をその大空に嵌めていくように、ぐっと手を伸ばす。

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