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SS【方向音痴な人々】


女が携帯の画面と睨めっこしながら信号待ちしている。

一人の若い男が声をかけてきた。


「あの、すいません。ちょっと道をお尋ねしたいのですけど」


「あ、はい」


「ここから冥府駅へ行くにはどう行けばいいですか?」


女は道を説明している内に、まるで自分が迷子になって困っているような顔になった。

女はしばしの沈黙の後、遠くに見える市役所の方を指差して言った。


「あそこに見える市役所に展望塔があって市内を見渡せるようになっています。そこから駅を探してみて下さい」


「はあ・・・・・・」


男が唖然としていると、歩いて去っていく女の携帯から音声が聞こえてきた。


「二百メートル先を右方向です」


男は市役所に向かって歩き出したが、しばらくして今度はお爺さんに道を聞いた。

「すいません。ちょっと道をお尋ねしたいのですけど、展望塔のある市役所へ行くにはどう行けばいいですか?」

「展望塔のある市役所? ほら、あそこに城が見えるじゃろ。あの城へ行って天守閣のてっぺんまで登れば見えるはずじゃ」

お爺さんの指差す先には、金のシャチホコが陽の光を反射して輝いていた。


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