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SS【砂漠の再会】後編1655文字


遠ざかっていった砂嵐がまるで意思をもったように進路を変え、ピラミッドの方へ戻ってくる。

ぼくは階段を駆け降りると、砂嵐の迫るピラミッドに向かって全力疾走した。

なぜなら、もしあの中に彼女がいたら、砂嵐でピラミッドが再び砂に埋まり、再会のチャンスを失う可能性があると思ったからだ。最初見た時は完全に砂に隠れていたことを考えると、ピラミッドは風の力で姿を現したり消えたりしているようだ。

だがもし中に彼女がいなければ、ぼくは一人ピラミッドの中に閉じ込められることになる。

次に脱出できるのはいつになるのかも分からない。


賭けだった。


ぼくは砂嵐にのまれながらもなんとかピラミッドに侵入することができた。

ライトで前方を照らしながら狭くて急な階段を昇ると、広い部屋に出た。


「いらっしゃい!! よく来たね」


部屋の真ん中辺りから若い男の声がする。

ライトを照らすと、パイプイスに座り、眩しそうに目を手でおおいながら、もう片方の手で虫でも払うような仕草を見せた。

ライトを向けるなということらしい。

ぼくが来ても驚かず、ピラミッドには似合わないパイプイスに座っていたことから、運営側のスタッフであることは間違いなさそうだ。

男はイスの下に隠し持っていた何かを手に取り立ち上がった。

長い鎖の先にトゲのついた鉄球がついている。

遠い間合いからの攻撃もできる危険な武器だ。


「どうかな? 闇に目は慣れたかね? 砂漠エリアの挑戦者は数百人といたが、ここへたどり着いた人間は君を含めて三人しかいない。そのうちの二人はぼくが殺したよ。君は三人目の犠牲者になる。そうそう、逃げようなんて思わないことだ。今このピラミッドは砂で埋まっていてしばらくは脱出できない。ピラミッドは砂嵐によって姿を現し、しばらくすると戻ってきてピラミッドを隠すように砂を戻す。まるで意志があるようにね。このことに気づかなかった挑戦者はみんな死んでいったよ。おっと、気づいてもぼくに殺されてしまったけどな、ハッハッハッ」


ぼくはポーチから水のペットボトルを取り出して一口飲むと、さらにもう一度口に運んだ。


「武器も無いのに余裕だな。悪いが死んでもらうぞ」


鉄球の付いた鎖をブンブンと振り回し、少しずつ間合いを詰めてくる男。

ぼくは思った。

奴は素手のぼくより自分の方が遥かに遠い間合いから攻撃できると思っている。

だがそれは間違いだ。

ぼくはポーチからライトを取り出し、しっかりと握った。

男が仕掛けようと一歩踏み込んだ瞬間、ぼくは口に含んでいた水を鉄砲魚のように発射した。

水鉄砲は男の眼球に命中し、男がひるんだ隙にライトでひたいを殴りつけた。

ライトは車内に閉じ込められた非常時に、車のサイドガラスを割って脱出できるように頭部分が凹凸に加工されているものだ。

ひたいから出血した男は血が目に入り視界が悪くなった。

ぼくはパイプ椅子で男の頭を何度も何度も殴りつけた。

男がグッタリとしたところでぼくはイスを投げ捨てた。


広い部屋の中をライトで照らしながら探索していると、上に続く狭い階段を見つけた。

階段を昇るとピラミッドの外へ出た。

ちょうど砂嵐がピラミッドの砂を巻き上げながら離れていくところだった。

真ん中より少し上くらいの高さだろうか。

ピラミッドの外を昇っていくと、頂上付近に入り口を発見した。下から眺めても見えないようになっている。石の扉もついているが、なぜか開けっぱなしになっていた。

彼女かもしれない。

中に入ると下へと続く急な階段があり、ぼくはどこまでも降りていった。

その先には棺の並ぶ狭い部屋があった。

誰もいない。


「ここじゃなかったのか?」


ぼくは落胆を隠せない様子で呟いた。

その時、ガタッという物音がして棺のフタが動いた。

彼女だった。

ぼくがここへたどり着くことを信じて待ち続けたのだ。


ぼくたちは再会した。


それから一週間後、ぼくたちは難病の娘とともに手術のためにアメリカへ飛んだ。

結果がどうなるかなんて考えない。

ぼくたちはやれるだけのことをしてきた。

こうして命も張った。

あとはすべてうまくいくと信じるだけだ。



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