SS【モンスター】
「ガタガタガタガタ」
近所の自販機にジュースを補充する音で目が覚めたぼく。
外からは奥さんらしき声も聞こえる。
暗い時間に音を立てると迷惑だと苦情を言っているようだ。
しかし、まだ寝るような時間ではない。
奥さんは以前から音に神経質な所がある。
過去に隣のおじさんの騒音に悩まされていたことがあった。
ぼくは一度だけ騒音おじさんに苦情を言いにいったものの効果が無く諦めたが、奥さんは諦めなかった。
夜中に窓を開けて大声で歌う変人なだけあって、何度言っても効果はなかったが、いつの間にか静かになった。
これで悩みの種が一つ減ったと喜んでいたら、ある日事件が起こった。
ぼくの家の近くには大きな川が流れている。
冬眠から目覚めた熊が、山から川沿いに下り、エサを求めてぼくの家の庭に侵入したのだ。
ぼくはすぐに通報したが熊が見つかることはなかった。
熊騒動が終わると、今度は近所のアパートに変質者が現れると噂になった。どうやらアパートの住人の女性にしつこくつきまとっていたようだ。
その人は以前、奥さんがこっちへ引越して来て間もない頃、町内の同じ役員をしていて、何も分からなかった奥さんに色々と世話を焼いてくれたようだ。
ぼくが何を言いたいかというと、自販機の業者は、奥さんが苦情を言った日から二度と姿を見せなくなり、自販機もいつの間にか撤去された。
騒音おじさんが静かになったのは、改心したわけではなく、行方不明になっているからだ。
冬眠明けの熊は、撃たれてもいないはずなのに庭に大量の血痕だけが残っていた。
奥さんに世話を焼いてくれた女性につきまとっていた変質者は、奥さんがそのことを知った翌日に土左衛門となって発見された。
だから身近にモンスターがいると言いたいわけではない。
モンスターがいるというなら、その牙がぼくに向かなければそれでいい。
それに薄々気づいているのに気づかないふりを続けるぼくも、モンスターに近いのかもしれない。
終
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