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SS【インベストお父さん】
私のお父さんは投資にハマっています。
投資といっても世間の人たちがする投資とは少し違います。
お父さんは未来に品薄になるものを予想して買ったり、または無料で手に入れておいて、その時がきたら優越感と安心感に包まれたいのです。
お父さんが最近よく買っているのは金や銀です。
一昔前からみたらかなり高騰しているので、普通なら売るタイミングです。
でもお父さんは「本当に価値が上がるのはこれからさ」と言います。
そのことをお母さんに言うと、「当たるといいわね」と言いました。
「お父さんの話は信用できるの?」と聞くと、お母さんはこう言いました。
「ノストラダムスの大予言みたいなものね」
お父さんは私に金や銀よりもっと価値の上がるものも手に入れていると言いました。
でもいくら聞いても「いずれ分かる」とだけ言って教えてくれません。
それから私たち一家は空き家バンクを利用して田舎に引っ越してきました。
ー 数年後 ー
ついにその時がやってきました。
水不足と食糧危機がやってきたのです。
お父さんが買っていた金や銀なんて何の役にも立ちません。
みんなが求めているのは安心して飲める水と、お腹を満たす食糧です。
外では水や食糧を求めて暴動や略奪が起きています。
でも大丈夫です。
私の家の中庭には井戸が掘ってあります。飲料用としても利用できる水質です。
さすがお父さん。たまには役に立ちます。
家の裏には小さな畑があり、ジャガイモやタマネギが育っています。
お父さんがどこかでもらってきたチャボたちは、毎日のように卵を産んでくれます。
近くの小川ではアユも泳いでいます。
これがお父さんの言っていた金や銀より価値の上がるものに違いありません。
しかし略奪の波は、ついに私たちの住んでいる村にもやってきました。
鈍器や刃物で武装した三十人はいようかというならず者たちが、私たちの家を取り囲みました。まだお母さんは気づいていません。
お父さんは私に言いました。
「絶対に家から出るなよ。すぐに終わるから」
そう言うとお父さんは叫びました。
「お母さん!! お客さん!!」
玄関を開けたお母さんはたちまちならず者たちに取り囲まれました。
しばらくすると、どこかで聞き覚えのあるようなうるさい音が聞こえてきます。
道路工事の時に地面をハツっている音です。
「ドドドドド!! ドドドドド!!」
「うわーー!!」とか「逃げろーー!!」とかいう叫び声も聞こえてきます。
それからしばらく経って、お父さんが「そろそろいいかな」と言って外に出て行ったので、私も恐る恐る後をついていきました。
ライオンかホッキョクグマにでも襲われたのでしょうか? 武装した三十人のならず者たちが血を流して倒れています。
お父さんは呆気にとられる私に言いました。
「言ってなかったけどお母さんは狼女、つまり獣人なんだ。こんなこともあろうかと思って結婚しておいたんだよ。これもぼくの投資の一つさ」
それを聞いていたお母さんが、ガルルッ!!(投資?)と言って鋭い牙をむいてお父さんを威嚇したので、お父さんは矢のような速さで逃げていきました。
終
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