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SS【変わらぬ声】


目覚めると大量に汗をかいていた。


悪夢にうなされていたのだ。

あの日、公園に誘った女の子の夢。


そういえば最近、家の固定電話に若い女性の声で、「小学六年生のお子さんおられますか?」と何度もかかってくるらしい。

娘が電話に出て、居ませんと言っているのに、しばらくするとまたかかってくるという。

ネットで番号検索すると、どうやら教材を売る会社のセールス電話らしい。以前やっていた子どもの通信講座から情報が漏れたのかもしれないとぼくは思った。

ただ妙なことにその会社はもう潰れているようだ。

今度かかってきたら、迷惑しているからもうかけてくるなと言ってやろう。

そう思っていた所に、また電話が鳴った。

電話に出ようとする娘を静止し、ぼくが受話器を取った。


「はい」


「こんばんは。お宅に小学六年生のお子さんはおられますか?」


どこかで聞き覚えのある声だが思い出せない。

ぼくは居ないと言っているのに何度もかかってきて迷惑していることを少し不機嫌そうに伝えた。

すると電話の向こうの女性はこう言った。


「いまいくつ?」


「はい?」


「あなた」


ぼくは呆れて電話を切った。

そして「あれ? そういえば今いくつだっけ?」と思った。「そうそう四十五だ」と呟くぼく。

するとすぐにまた電話がかかってきた。


「はい」


「あれから三十三年も経つのね。やっと見つけた」



ぼくはやっと電話の相手が誰か分かった。

それと同時に背筋に冷たいものが走った。

あの頃と変わらない子どものままのあの子。


ぼくたちは六年生のあの日、初めてその子を公園に誘った。彼女は転校してきたばかりであまり喋ったことがなく、ただ仲良くなりたかった。

少し遅れて待ち合わせ場所の公園へやってきた彼女は、ぼくたちがドッキリと称して掘った深い穴に落ちた。


しかし落ち方が悪かった。

彼女は頭から落ちた。

下にはクッション代わりの大量の落ち葉が敷いてあったが、彼女は穴の壁から出ていた尖った石で首を切った。

いくら声をかけても彼女はピクリともしない。


その後のことは、もう・・・・・・


受話器の向こうから彼女の声がする。


「ねえ、そろそろ出してくれない?」


数日後、ぼくは当時のメンバーに連絡を取った。しかしぼく以外の三人は事故で亡くなっていた。


その夜、また電話がかかってきた。


「ねえ・・・・・・もう逃げられないよ」


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