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SS【草刈り】#2000字のホラー


私はいつも帰宅すると、まっ先に家の中の間違い探しをします。

なぜなら夫は使ったものを元の場所に片付けないからです。

本人に言っても無駄だと分かっているので、私がルーティンのように定位置に戻します。


私が出かけている間に洗い物をしたのはいいけど、水を切ったまま放置され崩壊寸前のジェンガのように山積みになっている皿や鍋。

誰も入っていないトイレの前に乱雑に置かれたスリッパ。

トイレの中に放置されたトイレットペーパーの芯や包装紙。


気にしなくてもいいような、ちょっとしたことかもしれないけれど、私はそれらが視界に入ると、すぐに定位置に戻すか、処分しないと気がすまないのです。

それに処分するとなったら自分の目で見届けたいタイプです。

ゴミを捨てた後、ちゃんと業者が回収していったかも気になります。

たまにゴミを持ち去る人がいるからです。

だから私は収集の人が来る直前を狙ってゴミ出しをします。

私の出したゴミが収集車の後部に巻き込まれていくのを見ると安心します。


人に見られたくないようなものは実家に持ち帰ることもあります。

父が山を持っていて、そこで燃やすことができるのです。

私と父は缶コーヒーを飲みながら灰になる様子を見届けます。

父も私と「同じタイプ」の人間です。


ある日、父から家の片付けを手伝ってほしいと連絡があり、一週間くらいの予定で実家に帰省しました。

母が長い闘病生活の末亡くなり、遺品の整理や放置気味の庭や畑の手入れなど、やることは色々あります。

実家は父一人なので放ってはおけません。無駄に土地が広く、除草作業は特に大変です。

でも今回は秘密兵器があります。私はネットで充電式の草刈機と草刈り鎌を購入しました。

これで父の使っている古い草刈り機と二台で作業はかなり捗るはずです。

作業は思った以上に順調に進み、予定より三日早く帰省しました。


早めに帰ってきたのには理由があります。



夫に早く帰る連絡はせず、草刈り鎌を握りしめ泥棒のようにこっそりと家へ入る私。

玄関には知らない女の靴がありました。

予想通りです。

トイレの前にはスリッパが綺麗に並べて置いてあります。

この置き方は旦那のそれではありません。

私は出れないようにトイレの戸にモップでつっかえ棒をしたあと、寝室へ向かいました。

裸で油断しきった夫の首を草刈り鎌でかき切ると、白いシーツが真っ赤に染まりました。

返り血を浴びた私の顔や手も血だらけです。


部屋には夫の携帯しかありません。

私は女に電話しました。

トイレの中から聞こえてくる着信音。

間違いありません。

あの女です。


「もしもし? トイレの戸が開かないよ。何してるの?」


私は言いました。


「そうでしょうね。私が開かないようにしてるから」


「え? え?」


「よく聞いて。あなたには最初で最後のチャンスをあげるわ。私が戸を開けたら真っ直ぐ玄関から出て行き二度と戻らないで。そしてここで見たことはぜんぶ忘れること。そうすればあなたには危害を加えない。でももし、それができないなら、私はあなたを絶対に許さない」


「きやぁ ぁ ぁーー!!」


トイレから出たとたんに叫ぶ女を見て、情報が漏れると判断した私は女の喉を草刈り鎌でかき切りました。


「バカねえ。静かに出ていけば助かったかもしれないのに」


その日の夜、父が電車に乗ってやって来ました。

翌日、私は父と共にふたたび実家に帰りました。

車に大量の「草」を乗せて。



私たちは山の中の開けた場所で大きな石に腰掛け、缶コーヒーを飲みながらメラメラと燃える炎を見つめました。


父が言いました。


「あとは血のついた布団だけだな」


「骨はどうするの?」


「ハンマーで細かく砕いて山に撒くさ」


私は燃え尽き、灰になった「草たち」を見て安心しました。


「やっと心の平穏が戻ったわ」


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