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SS【小さな一歩】


ぼくは風呂から上がると、冷凍室から凍る一歩手前まで冷やしたビールを取り出し部屋まで運んだ。

テレビからは近所の用水から大量の一万円札が発見されたというニュースが流れている。


ぼくはキンキンに冷えたビールで喉をうるおした。


「あーーうまい!!」


最高の気分になったぼくの脳内に、誰もが一度は聞いたことのある名言が再生され始めた。


「これは一人の人間にとっては小さな一歩だが、人類にとっては偉大な飛躍である」


ぼくはパンイチでビールを飲みながら、五十年ほど前に人類で最初に月に降り立った人の言葉に思いを寄せた。


本当に月に降り立ったかどうかは置いといて、何事も最初の一歩を踏み出すには勇気がいるものだ。


ぼくも何か最初の一歩を踏み出したい。


そう思ったぼくは居ても立っても居られなくなり、家を飛び出した。

路地裏をすり抜け、公園を駆け抜けた。

目的地にやってくると人だかりができていた。


「くっ、遅かったか!!」


近くで「おお!!」っという歓声が上がる。


用水にはまだ一万円札が残っていたらしい。

でもその後、ぼくらがいくら探しても一枚たりとも見つけることはできなかった。

もう流されてしまったのだろうか?


辺りは暗くなり始め、みんな諦めて帰っていく。


代わりに自転車に乗ったお巡りさんが二人やってきた。


「何かお探しですか?」


そう問いかけるお巡りさんに対し、ぼくはウエストポーチから大きなライトを取り出して言った。


「これは多くの人間にとっては小さな事件の一つにすぎないが、ぼくにとっては偉大な希望である」


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