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SS【恨み屋】
ぼくは猫のように狭い所が大好きだ。
猫のように身体が柔軟だし、猫のように自由気ままだ。
どこか幼稚な子どものようでもある。
だからぼくの行動を予測するのは難しいかもしれない。
先日、会社のロッカールームで窃盗事件があった。
ロッカーに入れてあった財布からお金が抜き取られたのだ。
被害は数人。
その事件のあった日から会社に来なくなった若い子がいて、その子が疑われた。その子がロッカー室に入っていくところを目撃した人もいた。
最近入った目立たない子で、彼に関してぼくが唯一知っているのは、足が小さくて彼と同じサイズの靴を履いているのは一人しかいないということ。
他にも怪しいと疑われた人はいたが、決定的な証拠になるものもなく、会社側も問題を大きくしたくないといって、貴重品用の、もちろん鍵付きの新しいロッカーを人目につく場所に設置することと、盗まれた分のお金を会社がもつことで事件は一応収まった。
しかしぼくの中では事件は収まることはない。
なぜならぼくは犯行時間だろうとされる時間にその場にいたからだ。
その日は出番ではなかったが、ロッカーに忘れ物を取りに来たぼく。
ロッカー室は十段にも満たない階段を登った先にある。
ぼくのロッカーはロッカー室の一番奥の窓際。
誰かが階段を昇ってくる音を聞いて、ぼくは仲良しの後輩が来たのかと思った。
悪ふざけで驚かしてやろうと自分のロッカーに入り、隙間から外の様子をうかがっていた。
しかし入ってきたのは例の若い子。
しかし彼は困った表情で何かを探すように見渡すだけで何も盗らなかった。
そして二度と会社に姿を見せることはなかった。
数日後、ぼくはある人のロッカーの上を確認した。
会社から支給された安全靴の入った箱が置いてある。
中身は新品だが箱は去年のものだ。
箱には名前が記されているので処分したのだろう。
あの日の帰り際、ぼくが忘れ物を持って帰ろうとすると、その人が声をかけてきた。
「あいつ、お昼に帰っていったわ」
あいつとは例の若い子のことだ。
若い子には罪はない。
むしろ犠牲者だ。
奴は未来ある若い子の靴を盗んだばかりではなく窃盗を働き、その犯行の疑いをその子へ向くようにした。
若い子が辞めていった所をみると、おそらく以前から嫌がらせはあったのだろう。
助けてあげれなかったお詫びというわけでもないが、君の恨みはぼくが勝手に無料で引き受けよう。
誰にも言っていなかったけど、ぼくはその手の副業をしている。
君は未来だけを見ていればいい。
奴がこれから見るのは地獄。
ぼくは何倍にもして返すのが得意なんだ。
終
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