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サイコロの決心

 ゆうこちゃんが持っているサイコロはとても心が優しいです。そして、ゆうこちゃんのことが大好きです。サイコロは、ゆうこちゃんが小学校三年生の時のクリスマスプレゼントでもらったゲームと一緒に、ゆうこちゃんの家にきました。その時から、ゆうこちゃんはサイコロをお守りのように、いつも持ち歩いています。
 小学校からの帰り道、ゆうこちゃんのお部屋では、いつも何人かの友だちが集まってゲームをします。その時にサイコロは大活躍です。みんなに振られて、あっちへコロコロ、こっちへコロコロ。子どもたちは、自分でサイコロを転がしていると思っているけれど、本当はサイコロが自分の力で転がっているのです。ゲームをもっともっと楽しくしてあげようと思って、楽しく転がっているのです。
 ある日、いつものようにみんなでゲームをしているところに、いつもゆうこちゃんをいじめる子が遊びにきました。呼んでないのに、むりやり遊びにきてしまったのです。優しいゆうこちゃんは、少し困ったけれど、家に入れてあげました。
 ゲームがまた始まりました。サイコロの数ずつ進んでいって、早くゴールした子が勝ちです。サイコロは、今日は特にゆうこちゃんに勝たせてあげたいと思いました。ゆうこちゃんが、サイコロを学校につれていってくれた時、ゆうこちゃんがいじめられるのを見てしまっていたからです。
 サイコロは、いじめっ子にいじわるして、あまり進めなくしました。いじめっ子はだんだんつまらなくなってきて、ゆうこちゃんにいじわるなことを言い始めました。
 ゆうこちゃんの目に涙がにじんできました。それを見たサイコロは気が付きました。自分はそのいじめっ子に同じことをしているんだと。いじめをいじめで返しているだけなんだと思ったのです。
 それからのサイコロは、みんなのなすがままに転がりました。あちこち転がってとても痛かったりしたけれど、頑張りました。
 結果は、ゆうこちゃんが勝って、いじめっ子は二番でした。でも、みんな楽しそうでした。いじめっ子も笑っていました。
 ゆうこちゃんは、いじめっ子も淋しかったんだなと思いました。楽しそうにしているみんなを見て、サイコロも嬉しくなりました。これからはもっともっと楽しい転がり方をしようと心に決めたサイコロは、とっても幸せな気持ちになってきました。笑っているいじめっ子を見て、ゆうこちゃんがもういじめられなければいいなと、いじめっ子に向かって、「お願いね」とつぶやいてみました。