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フルーツ蝿のトラウマ

妊娠中の母親の心理状態は、子供に影響を与えると、知られている。それに加えて、私は、長らく、親が妊娠以前に経験したことも、子供に影響があるのでは、と感じていた。

最近、こんな記事を読んだ。

フルーツ蝿を使ったアメリカの実験。

ざっと、説明すると、フルーツ蝿のメスは、ある種類の蜂(parasitoid wasps)に出会うと、蜂が幼虫を殺してしまうため、エタノール系の食べ物に卵を生むようになる。つまり、天敵との出会いというトラウマが、蝿の産卵時の行動を変えるのである。そして、実験から、このエタノール系の食べ物に、卵を産む特性は、母親蝿から子供、さらにその子供に、と受け継がれていくことがわかった。ある種の蜂を避けるため、特定の食べ物に卵を産むという情報は、メス蝿の脳に書き込まれいて、遺伝子の特徴として子供(雄雌とも)からさらに次の世代に、受け継がれる。なんと、実験によると、この特徴は、少しずつ薄れながら、5世代後まで引き継がれていたらしい。

もちろん、この実験から、人間もフルーツ蝿と同じように、(母)親の妊娠前の経験を、何世代も肉体の情報として、受け継ぐ可能性がある、とするのは、飛躍である。けれど、可能性として、あるかもしれない。この実験をした博士たちも、そのように考えている。

例えば、薬物やアルコール依存は、両親が、子供を持つ前に、薬物やアルコールをやめていても、子供や孫が依存症になるする傾向があり、『依存体質が遺伝する』と言ったりする。上記のフルーツ蝿の実験をした博士たちは、そういった依存症の研究などに、この実験を繋げて行けると思っているようである。

蝿の実験で、興味深いのは、雌蠅が卵の天敵に出会うのは、1回だけのようであるが、それが、数世代も、卵の産みつける場所の情報として共有されることである。これは、例えば、一度溺れた経験があり、『水際に行くと体がすくむ』人がいたとして、それが、子孫へと受け継がれる感じである(そう言うことが、あるかは、知らないけれど)。

前提として、人間のある種の経験が、肉体に刻まれて、親から子供に、情報として引き継がれているのかは、私には、わからない。

けれど、何世代も、虐待や依存症を、チェーンのように繰り返している家族が、実際に、かなりいるのも、周知の事実である。環境由来(家族環境由来)は、もちろんあるけれど、遺伝由来もあるかもしれない。

仮に、蝿の実験の5世代を、人間に当てはめれば、私は、江戸時代の祖先の経験を、いまだに処理してることになる。アメリカで言えば、南北戦争(1861年から)の経験が、今の世代の体に残っている感じである。

しかし、もし、トラウマの記憶の遺伝があったとしても、希望のない話かと言えば、そうでもない。蝿の実験について、微かではあっても、希望の源とすることが、出来る。トラウマが、引き継がれるとすれば、良い経験も、脳や体に刻まれ、子孫に残していけるはずだからだ。

肉体由来の遺伝であれ、環境由来であれ、親からトラウマの遺産をもらったとしても、少しずつ、良い方向に上書きして、薄めていくことは、私が、今日できることだ。子供は、いないけれど、私も、それを、ずっと、少しずつやっている。


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