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多様な政治家が必要!若い政治家を育てる非営利エージェンシー「NEWWAYS」

社会イノベーションの試みが持続的な変化をつくり、社会に定着するためには、社会的システムが革新を受け入れ、制度の中で革新が定着する過程が必要である。だとすれば、社会システムの様々な部分を決定し制度をつくる人々が、今の時代を代弁する価値に共感し、多様な態度、経験、優先順位を尊重し包摂する意思決定を行うことは、必須的である。これを「政治」と呼ぶ。

韓国で、社会の意思決定権者たちが多様な顔を持って意思決定の場に臨めるように変化をつくり、その過程に有権者が積極的に介入し、影響力を広げるシステムをつくっている「NEWWAYS」(以下・ニューウェイズ)の代表・朴惠珉(パク・ヘミン)さんにお話を伺ってきた。

*この記事は、韓国語記事からの翻訳記事です。(韓国語は、こちらから。)

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(ニューウェイズの朴惠珉代表 / Copyright ©이로운넷 eroun.net)

世の中、もっと多様な政治家が必要じゃないですか?

ー こんにちは!簡単にニューウェイズについて紹介をお願いします!

ニューウェイズは有権者と共に、地域の政治家を育てる非営利エージェンシーです。政治家たちの実力と勢力が成長できるようにサポートし、機会と資源が結びつくように、可能性を広げる役割をしています。

ー なんと!「一つの団体でできることなの?すごい!」と思ってしまいました。具体的に、どんな社会問題を解決する団体ですか?

私たちは、基礎議会(*1)の多様性が十分に確保されていない、という点に問題意識を持っています。

基礎議会は、地域内で私たちの日常生活と密接に関連のある本当に多くのことが決定される場所です。 むしろ、中央政治よりも日常に大きな影響を及ぼす部分であるため、基礎議会の意思決定権者が誰なのか、どれほど私たちの暮らしのことを考えているかは非常に重要な問題です。

私たちの暮らしに影響を及ぼす意思決定権者の顔を更に多様にするために、「キャスティングマネージャー」と呼んでいる有権者と共に、若い政治家候補者を探すことに取り組んでいます。

来年2022年に行われる地方選挙で、全体の約20%の地域に、若い政治家を登場させることを目標としています。

*1 韓国における「市・郡・区」の重要事項を決める議会。日本で言うところの地方公共団体に置かれる議会「市議会」「町議会」などを意味する。

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(左:SNSで「国会議事堂」のスポットタグを利用し、オンライン占拠したニューウェイズのキャンペーン「야눕자(ヤヌッジャ)」、右:新しく登場する政治家の支持基盤は、2030世代の有権者たち。2030世代が興味関心を持てるようにSNSを積極的に活用。写真:ニューウェイズ・Instagramより)

眺めるだけじゃない、共に走る有権者の姿を描く

ー 有権者を「キャスティングマネージャー」と名付けたんですね。キャスティングマネージャーはどんなことをする人々ですか?名付けの理由は?

キャスティングマネージャーは、地域政治の場で活躍する若い政治家をキャスティングし、育て上げる有権者を意味します。

私たちは、自分たちのプロジェクトを「スポーツエージェンシー」に例えて説明したりします。「 政治という競技場に、もっと若い選手たちが走る機会をたくさん作るためにはどうすればいいですか。」 という質問に対し、試合を見ている観衆が観客席から降りてきて、直接選手を探し、迎え入れ、育ててる、共に進むビジョンを描いてみました。

難しい点もあります。 スタートして現在6ヵ月目、2000人のキャスティングマネージャーに出会い、着実に増加していますが、元々政治に関心がなかった方々にまで声が届くべきだと考えると、これからが始まりですね。

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(ニューウェイズでは、政治システムを競技場に例えて説明している。写真:ニューウェイズ・ホームページ)

ー これまで、多くの若い政治家と会われましたか?ニューウェイズでは、どのように若い政治家を見つけ、成長サポートをしているのですか?

今年の7月に1ヶ月間、自己推薦・他推薦方式で、全国から若い政治家候補たちを推薦してもらいました。500件以上の推薦があり、今後本格的にニューウェイズのコミュニティーを稼働していこうというところです。

少し抽象的で概念的に感じるかも知れませんが、「私たちは互恵性を基盤としたコミュニティ」というのをすべての参加者たちと共有しています。 私たちが一方的にコンサルティングをしたり教えたりするのではなく、お互いの経験、ノウハウ、資源を活発に分かち合い、自ら成長し、お互いを成長させるコミュニティです。 若い政治家候補者として参加する方々、キャスティングマネージャーとして参加する方々だけでなく、すでに基礎議会の議員として活動している若い政治家たちもコーチ団として一緒に活動しています。

活動にあたって、もちろん私たちが最低限のガイドラインとツールキットを提供していますが、それを遂行しながら成長することは自らが成し遂げるなければならないことです。 悩みがあれば、キャスティングマネージャーとコーチ団に分けて質問し、答えを見つけ、現場を経験します。 この過程を通して、準備が整った若い政治家候補者を政党と結ぶ役割も果たすことになります。

ー 既存の政党からの反応は如何ですか?協力的ですか?

とても協力的です。現在、7つの政党と公式的な協約を結び、その他にも現在話を進めている政党があります。ニューウェイズを通して、どのような人材(人材と書いて同僚と読む)に会えるのかという点に大きな期待があるようですし、各政党自身もこのような動きが、危機ではなく機会だと考えているように思います。

若い候補者たちの中では、出馬したい気持ちはとても強いけれど、政党を選べないというケースも多いんです。ですから政党は、そのような人々に選んでもらうために、「能力もあり、開放的でシステムを備えた政党」という認識を持ってもらう必要も生まれましたね。

個人の影響力をつなぎ、社会変化のシステムを模索する、ニューウェイズ

ー つまりニューウェイズは、「政治」に取り組もうとする団体ではないんですよね?

いいえ!(笑)政治に取り組もうとする団体です。直接、出馬を目的としていないだけです。この観点を説明しても、理解してくださる方がまだまだ少ないんです。私自身は、「デザイン産業」、「公演産業」のように「政治産業」と表現しています。デザイン産業にはデザイナーだけ、公演産業にはミュージシャンだけ、が存在する訳でないように、政治産業にも政治家だけが存在する訳ではないですよね。本当に多様な専門性と役割が必要だと思うんです。

「意思決定権者の顔をもっと多様に変える」という目標を、一人ひとりが持つ影響力をつなげることで達成する「システム」を作りたかったですし、それが一番フィットする領域が「政治」だと思い、政治産業の問題を解決しているとお話しています。

ー 問題解決の観点がとても印象的ですね。問題を見つけ、ニューウェイズを始めるまでのお話を少し教えて下さい。

「私は多様な個々人の影響力を通じて、私たちが好む方式で権力と資本を創出するモデルを創るんだ!」

昨年、私が呪文のように唱えていた言葉です。 とても抽象的ですが、この言葉が当時の私には最も具体的に私がしたいことを表現した言葉でした。 幸いなことに、実現可能性を自ら確認できる何度かの機会を得ました。 そしたら、本当にちゃんと何かをやってみたくなったんですよ。

「個人」の影響力を集め、一人ひとりを結びつけるためには、「とても具体的で明確な目標」と「成功体験を生み出せること」が大事だと考えました。そこで考えた最大のイベントが、「選挙」です。 ニューウェイズは、ここから始まりました。

まず大統領選挙を調べましたが、満40歳未満は出馬できないのです。そこで、すぐに地方選挙の資料を確認したところ、満39歳以下が議員全体の6%だったんです。思ったよりも少なすぎました。その時、ショックを受けて「これだ!」と思ったんです。そして3ヶ月後、ニューウェイズを始めました。現在、6ヶ月目です。(*2)

*2:本インタビューは、21年7月に取材。

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(満40歳未満の有権者は有権者全体の40%。それに比べ、40歳未満の候補者は7%、当選者は6%と著しく低い数値である若い政治家。その比率を高めるという明確な目標を持っている。写真:ニューウェイズ・ホームページ)

ー とてもありきたりな質問ですが、大変だった点についても気になります。

本当に難しいことは… 一つの問題を完璧に解決したからといって達成される目標がないということです。 候補者がいても支持勢力がいなくてはなりませんし、支持勢力がいても候補者がいなくてはならず、候補者がいて支持勢力がいても政党で「公薦」(公認)を受けられなければ骨折り損のくたびれ儲けです。すべて一度に達成しなければならない複雑な問題なので、緊張を緩める暇がありません。

また、時々私たちも政治に飽き飽きしうんざりする時があります。 そういう時はコントロールできないことに関して、ストレスを受けないように自分の心に気を配る方です。 でも、ニューウェイズが作り出している変化が見えるんですよ。 そういうのを見るとすぐに回復する方ですね。

システムの動力は、参加者たちが感じる変化への期待や信念

ー 実際にニューウェイズの活動を始めてから、政治についての考えが変化しましたか?

本当に沢山変化しましたし、沢山学んでいます。 基礎議員の方々が、実際に地域でどのような努力をしているのかを見ると、実は私たちが政治と政党に対して持っている先入観が基礎議会の現場では大きく働かない場合が多いです。政治と政党に対する先入観を取り除く方法がなければ、事実上、変化はますます鈍くなると考えています。

ー それでも、既に若い政治家候補たちも集まり、キャスティングマネージャーも集まりましたね。今後、彼ら/彼女らはどのように変化を創っていくのでしょうか?長期的なイメージがありますか?

今後は、候補者たちが自ら努力し成長することと共に、キャスティングマネージャーは積極的に支持し応援するグループとして、より多くの役割を果たさなければなりません。「私達の街にはどんな問題があり、どのように解決すればよいのか、どのような政治家になってほしいのか」に積極的に介入し、「可視的な」勢力として、政党内で若い世代の政治家の潜在力を高める「影響力」にならなければいけません。キャスティングマネージャーは、各自の専門分野も持っています。そのような個々人の能力を積極的につなげることも大事です。どのように一人ひとりの積極性を引き出すかは悩みの種です。

将来的には、ローカル(地域)基盤の問題解決プラットフォームを構想しています。地域の社会イノベーターと行政、そして地域の基礎議員の接点となるプラットフォームです。この3つの主体がパートナーとして一緒に問題解決に取り組めば、地方政治が可能になるでしょう。このような経験が若い政治家にとっての力となり、社会イノベーターにとっては問題解決のパイプラインにもなります。キャスティングマネージャーにとっても、地域政治への参加契機や変化への期待となるのであれば、プラットフォーム構築をしてみたいと思うようになりました。

ただ、ここには条件があります。ニューウェイズの持続可能性をまず検討しなければなりません(笑)そして個人的には、今現在長期的な観点を持つ暇がありません。やることがあまりにも多くて、来年の選挙を見ながら走っている状況です。

最も適した方法。絶えず悩み、模索する試みを止めないこと。

ー このインタビューは、アジアの社会イノベーターたちとも共有する予定です。朴惠珉代表にとって、社会イノベーション(Social Innovation)とは何でしょうか。

個人ではできない役割であり公共でもできない役割が、社会イノベーションに存在すると考えています。「既存」の方式ではなく「最適」の方式を適応することこそ、社会イノベーションだと思います。

私は、非営利セクターでも仕事をしましたし、営利セクターでも仕事をしてみました。どこに居ても、セクター(領域)を区分することを中心とする観点を変えなければ解決できない問題が残り続けていました。これは私がアクセラレーター(AC)として働いていた時代、自身の限界でもありました。「全ての問題を企業の方式が解決できるわけではないのに、なぜ企業の方式で(ビジネスで)解決できなけば、間違っていると考えるのだろうか?」、「これはビジネスなのか?活動なのか?」など、こんな規定は無意味じゃないですか?結局は、「どのようにその問題を解決するのか?その方法は、問題を解決するのに最も適した方法なのか?」を選択するべきだと思うんです。

社会イノベーションも、このようにセクター分けを定めるように認識されてほしくないです。営利なのか非営利なのか、法人の形態が何なのか、そういうことよりも解決しようとする問題に集中して、この問題を最も上手く解決できる方法に焦点をあわせることこそ、社会イノベーションのあるべき姿ではないでしょうか。

ー 政治を、新しい社会イノベーションの方法の一つとして提案しているように感じました。 「アジア」という範囲に対して、つながりや連帯を感じたり、インスピレーションを受けたことがありますか?

ドイツの哲学者であるIsolde Charimの「Ich und die Anderen」(日本語:私と他者たち)という本から多くの影響を受けました。「今の時代の人々は以前のように市民教育で教育されず、一つのメッセージで縛ることもできない。ただ、その人々は自分自身であるだけだ」というのが主な内容なのですが、私はこの本を読みながら私の運動を語る言語ができた気分でした。一人ひとりを尊重しなければどのような社会とメッセージが可能であろうか?そして、この変化の地点を私たち皆が通っているのだと思ったんです。

巨大な波と流れに一緒に乗っており、その中で若い世代が耐えなければならない困難があり、その問題を解決する方法は連帯ではなく、「各自図生」(*3)が有利だと感じられるこの世の中で、果たして私たちはどのように生きていけるだろうか? ニューウェイズは、そんな悩みを共にする存在だと思います。

また、私たちに大きなインスピレーションを与えてくれた本の一つが、「台湾のデジタル民主主義とオードリー・タン」でもあります。「以前の世代とは異なる私たちの断絶した経験を、お互いにどのように分かち合い、資源化することができるだろうか?」、 こんな質問につながりを感じたりします。

*3:「各自図生」:それぞれが政府や他人に依存せず、生きていく方法を図ること。各自が生き残る方法を探ること。(시사상식사전

個人の力にはいつも限界がある。しかし、一人ひとりの影響力をつなげることが出来たら?

ー いよいよ最後の質問です。この時代を共に生きる人々に伝えたいメッセージはありますか?

私が伝えたいことはですね、個々人が一人で解決できることは多くなく、そして人はいつも微弱な存在ですよね。でも、一人ひとりが持つ影響力をつなげれば、その影響力が持っている力は、沢山のことを変えられるという経験を同年代たちと分かち合いたいです。

それを可能にするシステムをつくること、これはニューウェイズの世界観のうち多くの比重を占めています。一人ではできないけど大勢で一緒につくり上げる経験とその互恵性が、どんな力をつくりだすのだろうと思いましたか?このような変化を一緒につくっていければ嬉しいです。これからもずっと!

<写真提供> 뉴웨이즈(NEWWAYS、ニューウェイズ)

◎뉴웨이즈(NEWWAYS、ニューウェイズ)公式サイトInstagramTwitter

著者:Jeong So Min(チョン・ソミン)。公共文化企画者、市民一人一人が追求し創っていく公共性を信じています。過去には、個人プロジェクト型市民参加活動に関する研究を進めました。
翻訳・発行:IRO(代表・上前万由子)
後援:ソウル特別市青年庁・2021年青年プロジェクト(후원 : 서울특별시 청년청 '2021년 청년프로젝트)
このインタビューシリーズでは、アジア各地で社会課題解決に取り組む人々の声や生き方をお届けします。以下の記事も合わせてどうぞ!
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