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なぜ、コタンタンのシードルが特別なのか

※フランスのノルマンディー地方のコタンタン半島のシードルは、AOC(原産地呼称)制度で国が認定した名産地に登録されています。

わたしが、メゾン・エルーのシードルを日本に紹介するようになったきっかけは、生産者であるマリーアニエスとの出逢いでした。ですので、ノルマンディに住んだこともないし、特に詳しいわけでもありませんでした。
他にも大切な友人が暮らす場所なので過去数回訪れたことがあり、印象派のアーティスト達にも愛された美しい絶景のある地であるということは知っていましたが、それ以上の地理的、歴史的特徴に精通していたわけではありません。
シードルを紹介するにあたり、色々と調べて感心したことを皆様にもお伝えしてみたいと思います。

歴史的背景として、13世紀から穀物用の土地を保護する規制でビールやワインの製造を禁止していたため、また、土地の風土や気候がリンゴの生産に適していたため、古くからシードルの栽培が発展したそうです。
16世紀には既に文献の中に、コタンタン産シードルの素晴らしさが語られているとか。
日本では13世紀は鎌倉時代、16世期は室町時代になります。日本でも鎌倉時代には日蓮聖人の記述に日本酒の話題が出ているそうです。

風土について、コタンタン半島(別名、ノルマンディー半島)は、その名の通り海に囲まれているため海洋性の気候(climat océanique)です。北大西洋海流と偏西風のおかげで高緯度の割に温暖なのが特徴です。しばしば強い海風が吹いてくるのですが、ブナ、トネリコやナラ(オーク)などが密生した生け垣に囲まれた区画では、その風を遮り温度低下を防ぎ穏やかな温度と水はけのよい深い土壌でりんごの栽培に適した条件が生まれます。
そのような栽培法は、先祖代々実践されてきた智慧のひとつであり、アグロフォレストリーと呼ばれます。

アグロフォレストリーとはあまり聞き馴染みのない言葉ですが、農業(Agriculture)と林業(Forestry)を組み合わせた言葉で、森をつくりながら農作する方法です。たとえば南米の国々では、収穫期が異なるコショウやカカオなどの熱帯作物とマホガニーなどの樹木を混植することで、農業と森林の保護・再生の両方を可能にし、アマゾン地域の森林保全、住民の生計向上にも貢献しているそうです。正に持続可能な農業のひとつですね。

コタンタンでは、この生け垣は防風林という役割だけでなく、そこに生息する動物環境を守ったり(ビオトープを作り出す)、雨の多い土地の浸食を防いだりと複数の恩恵を与えてくれます。
コタンタンAOC認定のシードル生産者は1ヘクタール辺り、200メートル以上の生け垣を残すことを義務付けられています。
日本でも耕作地の少ない山間部に工夫されて作られた棚田が景観的にとても美しく、本来の自然の地形と相まった風景が人々の心に深く刻まれるのと同様に、コタンタン地区でもこの生け垣が、特徴的な景観を生み出し、人々が愛着をもつ個性のひとつになっているのでしょう。
フランスの誇る環境保護活動家で、美しい航空写真の第一人者でもあるヤンアルテュス=ベルトランのように、空中からコタンタンを見下ろしてみたらそのかけがえのない景色はどのように見えるのだろうと空想を膨らませてしまいます。

追記・・・コタンタンAOCに登録しているシードル生産者は9軒です。日本に輸入されているのは、現在(2023年6月)メゾン・エルーのみです。日本での通販はこちら→ https://herout.base.shop/
FACEBOOK : https://www.facebook.com/herout.japon
Instagram : https://www.instagram.com/herout.japon/
参考(日本上陸はクラウドファンディングから):https://www.makuake.com/project/maisonheroutjp/

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