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1800→6(福岡県八女手漉き和紙)

今回は、福岡県筑後地域の伝統産業「八女手漉和紙」のお話。[溝田和紙工房]の4代目・溝田俊和さんに、八女手漉き和紙の現状や課題をお伺いしました。

古紙回収の仕事をしていた溝田さんは、奥さまの実家の家業だった手漉き和紙製造所の跡を継ぐ形でこの道に進んだと言います。「特に迷いはなかったですね。面白そうだなと思いました」。2007年に久留米大学で発足した比較文化研究所の「文化財保存科学研究部会」の研究部会員としても活動しており、防虫効果のある和紙を作るなど、和紙の可能性を広げる取り組みにも積極的に尽力しています。

タイトルの数字は後々答えが出てくるので、ぜひ読み進めてみてください!

八女手漉き和紙の歴史と特徴

元々は「筑後手漉和紙」と呼ばれ、その歴史は文禄年間(1592~1596)年に福井県の今立郡五箇村出身の日蓮の僧・日源上人により創始されたと言われています。

しかし、正倉院に残された紙の中に、天平十(738)年の正税目録帳の断簡通が筑後の紙として発見され、長い空白期間を経て日源上人によって”再興”されたと言えます。

日源上人が全国行脚の途中で筑後に足を延ばしたとき、矢部川の地理や水質が製紙に適しているのを見て技術を伝授したと言われています。八女手漉き和紙は九州地方の最も古い歴史と伝統のある和紙として各種広い分野に愛用され、1972年には福岡県無形文化財に、1978年には特産工芸品にそれぞれ指定されています。

美しい矢部川。川のそばには和紙づくりの歴史アリ!


原料がなくなる

八女手漉和紙は、長繊維の楮(コウゾ)を主原料にしています。これが職人の伝統技法と掛け合わされることで、強靭かつ優美な和紙に仕上がります。

「今一番の懸念点は、原料であるコウゾがなくなりそうだということ。日本全国、地域によって和紙に使うコウゾの種類が違っていて、八女で使っているのは黒構(くろかじ)という種類。現在、この“八女コウゾ”を生産する方は2軒のみに減り、その農家さんもご高齢なので、今後どうなるかわからないですね」。

原料のコウゾの樹皮

「“八女コウゾ”を使って漉きこなしているから“八女和紙”としての特徴が出る。国内の他地域や中国、タイでもコウゾはできるし、他地域のコウゾを八女で使っても和紙を作ることはできます。でもそれを“八女和紙”と言っていいのか…。プロとして、それは違うだろうなと感じています」。


1800→6

和紙作りは水をたくさん使うので、全国どこでも川の近くで発展してきました。八女手漉き和紙も、矢部川が育む美しい水と豊かな自然に恵まれ、地元の主要産業として栄えてきました。そうやって最盛期には1800軒ほどあった手漉き和紙製造所ですが、今ではわずか6軒にまで減少。

「自然淘汰ですよね。色んな技術の発達や、住宅様式が変わったことで今の住居にはほとんど襖がついてないし、紙が要らなくなってきた。今がちょうど淘汰されたところじゃないかな。これからどうなるかわからないけど。精一杯やれるだけやって、なくなるならなくなる、このまま続くなら続けていこうと思う」。

ちなみに、他の大きな産地ではほとんどが機械漉きで、その一角で手漉きをやっているのだそう。手漉きだけで6軒残っているのは八女くらいなのだとか。その理由はやはり“八女コウゾ”があるから。強度が高く真っ白な紙を作る原料と技術があるので、提灯屋や国宝文化財の修理など、プロを相手にできるのが強みなのだそうです。

漉きたての和紙


海外への販路を

日本の紙や美術品は江戸後期から世界中に渡っており、その修復は日本の和紙じゃないとできません。和紙は世界に通用するもの。国内で和紙の需要が少なくなっていくなか、溝田さんは数年前から海外へ目を向けます。

「たった4回」で1枚を仕上げる!

ヨーロッパをはじめ世界中の美術館や博物館、国内は福岡県にある[九州国立博物館]の所蔵品「宗家文書」の修復、[福岡県立図書館]の本の修復に使われるようになったことを受け、“手漉き和紙でないとダメな部分”に販路を探ります。そして、一流の美術品を修復する和紙にこだわって開発を続け、修復に適している八女手漉き和紙の特性を生かした修復用の和紙を完成させました。

コロナ前は海外へ行くことも多かったのだそう。「目の前で実演すると、漉き方や工程全部にすごく食いついてくれるんです。リスペクトを感じますし、興味をもって聞いてくれるのが嬉しくて楽しいです。日本人にとっては和紙ってもう当たり前で身近なものですが、海外の方はやはり新鮮なんでしょうね」。今後も、国内だけでなく海外へのアピールは積極的に続けていきたいのだそうです。


ちなみに、皮を剥いだ後の“中身”は…

和紙に使うのはコウゾの樹皮の部分のみ。樹皮を剥いだ後は写真のように保管して、後で燃やしているそうです。

皮が剥がされて中身だけになったコウゾ

コウゾの木は成長が早く、和紙作りはとてもエコフレンドリー。工房で燃やして処分しているならと、ippoでもアップサイクル用の廃材としてお取り扱いをさせていただこうか検討しているところです。DIYerさんたち、キャンパーさんたち、モノづくりやハンドメイド作家さんなどに活用の機会があるのではないだろうかと。うまく発信して、廃材×活用したい方の橋渡しができたらと思います!

ということで、今回はこれで終わりです。

お読みいただき、ありがとうございました!

最後に遊び心と創作性溢れる溝田さんの作品を。

和紙でつくったカボチャとにんにく。リアル!


溝田さん、ありがとうございました!


溝田和紙工房
0943-22-6087
住/八女市柳瀬708-2


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