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持つべきものは先輩

⭐️⭐️⭐️⭐️
(星の数でこの記事のオススメ度を五段階で評価しています)

先週の記事で
昔あった余興について書いた。

ちなみにこちら↓



本当に一部の僕のファンの方々
(皆さんが思っているよりも一部)

から割と好評だったので
今回も昔あった余興について
書いて行きたいと思う。


僕は大学1回生の4月から
落語研究会というものに
所属していた。


落語研究会の主な活動の一部として
賛助
というものがある。


これは
協賛扶助の略称で

老人ホームや
小学校、敬老会など
さまざまなイベントに
僕たち、学生落語家が
直接赴き、
落語を披露するという余興の一種である。


基本的にはボランティアだが
おひねり(個人的に渡されるお小遣い的なもの)

食事(昼食や夕食、お酒など)
が頂けることもある。

学生がわざわざ来てくれたのに
申し訳ないという配慮や
学生なのにこんなに上手くてすごい!
などという思いからだろう

僕もたくさんの賛助に行き
たくさんの物を頂いた。



2、3年前のある日も
僕はある賛助に向かっていた。


場所は滋賀県大津市


余興で滋賀に行くことは比較的多かった。


理由としては
僕の通っている大学が
大阪、京都、滋賀に
それぞれキャンパスを持っていることで
依頼されることが多いことと
京都から近いからなどが挙げられる。



一緒に行ったのは僕の大学の同期


奇しくも先週の記事に出てきた人物である。

彼の名前はRと言い、
彼と2人で賛助に行った数は数えきれない。

それほど慣れているメンツであった。


2人で京都駅で集合し湖西線に乗り
おごと温泉駅と言う場所で下車した。

改札を出て階段を降りると
お迎えの車が待っていた。


賛助は圧倒的に田舎が多い。


こう言っちゃ悪いが
娯楽が少ないのだろう。

田舎になればなるほど
学生の落語でも
楽しんでくれるような人が多いのだ。

田舎に行くと交通手段が圧倒的に少ないので
このように送迎してくれるパターンも多々ある。

挨拶をして
着物など荷物をトランクに乗せ
車に乗り込んだ。

「いやぁ〜よく来てくれましたね」


運転席のおじさんが話しかけてきた。

京都と大津は
めちゃくちゃ近い

よう来たなと言う距離ではないが
初対面だし目上だし
これから落語するので

「いえいえ、
呼んで頂いてありがとうございます」

と丁寧に返事しておいた。


しばらく車を走らせる。


比叡山が近くに見える。


中学生の時登ったなぁ。

ふと思っていると

ラブホテル街のような場所が見えてきた。


「なんやあれ!」


同期のRが叫んだ。


いやいや、2人じゃないんやから

おじさんおるんやから
あんま触れづらい場所に
注目すなよ!

そう思った矢先、おじさんが口を開いた。


「あれはね、風俗街だね。
ここら辺は有名だから」

え!


まさかまさかの乗っかってきたやん。


巨大な風俗街を通り過ぎると
またのどかな風景が飛び込んできた。

繁華街でもなんでもない
この街にどでかい風俗街
そしてまた田舎



非常にカオスな街での賛助が始まろうとしていた。




会場についた。


その日の舞台は
地域の小さなお祭り

特設ステージで
他の出し物と一緒に落語をやってくれ
と言うものだった。


「祭りかぁ〜」


Rがあまり乗り気じゃない様子で呟いた。


皆さんにとっては少し意外かもしれないが
お祭りの余興での落語というのは
まず盛り上がらない。


誰も話を聞いていないのだ。


辺りを見回すと
落語なんか1ミリも興味がないような
キッズとその親だらけ


「今日は厳しいかなぁ」


また同期が弱音を吐いた

そう思うのも仕方がない。


祭りはウケない


これは落研部員なら
誰もが知っている定説のような
ものだった。


「まあ何人かは聞いてくれるやろうし
その人らに向けてやろ」


僕はRに対して言った。


前の記事でも書いたが
Rは落語において
全国的に見ても屈指の実力者である。


普段は全く面白いことは言わないが
こと余興や寄席においては
抜群の技術と親しみやすさで
お客さんを虜にする。

そして僕


僕も自分で言うのはなんだが
一応学生落語日本一である。


自分たちがこの場で出来る限りのことをやって
それで無理ならば
すぐに帰ろう。
僕らで無理なら学生は皆無理だ

その気持ちで今までやってきた。

「じゃあ控室の方、案内するね」


送迎してくれたおじさんが声をかけてきた。


特設ステージの横の
テントに入る。


「今日はねこの街のゆるキャラ
おご○んもいるから!」
(一応伏せ字にしてます)


おご○ん?


聞いたことがない

まあ、ゆるキャラで有名なのなんてごく一部だろう

ふなっしーとか
くまモンとか
ひこにゃんとか


まあそんなことはどうでもいい。


ゆるキャラなんか正直興味がない


「じゃあまあゆっくり過ごして」

「はーい」


テントで待機する。


「いやぁ、お前なんのネタする?」

僕がRに話しかけた。

「子供多いしなぁ。動物園しよかな」


『動物園』とは
上方落語(関西地方の言葉を使う落語)
の中でも最も有名な演目の1つで

毎日ろくに働きもせず
フラフラしている若い男が
動物園で働くことになり
そこで
「最近、人気者だった虎が死んだから
虎の皮を着て檻の中で歩き回ってくれ」
と言われ
色々なことに巻き込まれていく

というストーリーである。


確かにキッズにも比較的分かりやすい。

「写楽は何すんの?」

(僕の落語をする時の名前が
写楽斎のため同期からはこう呼ばれている)


「こういう時はもう秘伝書やろ」


『秘伝書』とは
これさえ読めば
人間、一生安泰に暮らせると
謳って、ある本を売る露店商と
騙されてそれを買った
アホな男の様子を描いた
僕の鉄板ネタの1つである。

「また秘伝書かぁ」

痛いところを突かれた。

確かにその時期、
僕は『秘伝書』をやりすぎていた。


「まあそれ以外ないやろ。
じゃあいつもの順番で」


僕たち2人は
賛助回数が多すぎて
出番順も完全に決まっていた。

Rが先に出て
その後で僕が出る。


しばらくして
時間も迫ってきたので
着替えようかという時になる。


僕たち2人は
あるものが気になっていた。

それはテントの端っこにある物体だった。


巨大な布の塊



布団のようだが布団にしてはカラフル


これはなんなのだろう


「失礼しますー」

テントの中に
中年女性が入ってきた。


びっくりしたー


なんの用事だろう


男子大学生が着替えるというのに

まあいいや


僕たちはそれぞれに服を脱ぎ
着物に袖を通し
帯を巻く。

準備完了



テントの端を見つめると
不思議なことが起き始めた。


中年女性が
大きな布の塊を
身にまといはじめたのだ。


何やら奇妙なことになってきたぞ


何が起こっているんだこの街で


よく見ると
女性が纏っていたものは
大きな着ぐるみだった。


何してんの?


赤と黄色のでっかいの


気になりすぎて聞いてしまった。


「あのー、何してるんですか?」


「え?私がおご○んです。」



お前がおご○んかい!!!!!


マジか!


ゆるキャラが生で着替える姿を
初めて見た


中は若くて体力のある
屈強な男とかちゃうんや


中年女性なんや


色んなことが起こりすぎている。


「じゃあそろそろスタートです!」

2人で舞台袖に向かう


Rの落語スタート


全くウケていない

前の記事でも
Rがウケていない様子を書いてしまったので
Rがウケない時が多いんじゃないかと
思われるかもしれないが
全くそんなことはない


Rは確実にウケる

しかし、
あー今日は無理やなぁ

そう思ってしまった。

僕もかなり弱気になってしまった。


「安心せえ!ワシが園長の野田や」(オチのセリフ)


Rの落語が終わった。


結果

ゼロウケ


僕の出囃子が流れる。


正直言って憂鬱だった。


特設ステージの前では
ほとんどの人が待機しておらず
お祭り会場では
露店の前にほとんどの人が待機しており
金魚すくいをしたり
たこ焼きを食べたり
綿菓子を食べたり

そらそうや


キッズにとっては
学生落語より
祭りの出店の方が100倍楽しい


僕も小さい時ならそうしただろう。


舞台に出た。


確かに少し嫌ではあるが
手を抜くわけにはいかない。


ネタ中何度もギアを入れ直した。


何度も何度も
何かに気を取られている
お客さんの注目を
こちらに向けようと
努力した。


結果


ややウケ


なんやねんまじで


正直その時は
腹が立ってしまった。

なんで呼んだんや!

ありがたい

確かに呼んでもらうのは
ありがたい

しかし
なぜ興味がない人を集めて
僕らを呼ぶのだろう


心の中で悪態をついていると
おご○んがステージに出た。


全く盛り上がっていない


盛り上がらんのかい!


おいおい


お前はホームなんやから
盛り上げんと!


おご○んのステージが終わった。

結論

この祭り
マジで特設ステージいらん
それ以外完璧


控室に戻り着替える

「おいR!
なんやねんこれ!
なんやねんこの賛助!」

「えー写楽はちょっとウケてたやん!
俺はあかんかったけど」


Rはどこまでも優しい

マジ天使


確かに少し反応はあったが
でも2人とも正直スベッた。


陰鬱な思いを抱えながら着替える。


「おっ疲れ様でーす」


おご○んが帰ってきた。


なんやその陽気な感じ!
みんなスベッてんねんぞ!

反省せえよ!


正直イライラが止まらなかった。


遠くはないが
わざわざ休日を使ってここまで来て
全力で落語をして
なぜここまで嫌な思いをしないといけないのだろう


「いやぁ、すごいですね落語」


おご○んの中身が話しかけてきた。

「ありがとうございます!」

一応2人で返事する。


「本当に感動しました!
落語また見に行きますね!」


絶対見にこない。

この手の人は見にこないと
わかっている。

「ホンマですか!
是非見にきてください!」

Rが返事した。


お前は偉いなぁ。


ちゃんと対応してる。


着替え終わると2人で外に出る。


「せっかくやし、
ちょっとお祭り楽しんでいこか」


2人でいくつかの露店を回る


地方のお祭りにしては
本当に充実していた。


しかし充実しているからこそ
僕たちの落語がウケなかったのではないかと
思ってしまった。


しばらくウロウロしていると


ある背の高い小洒落た
お年寄りというには
少し見た目が若すぎる男性が話しかけてきた。


「お疲れ様」


「お疲れ様です!」


「君ら何も食べてないやろ?
どっか行こか」


どっか行こか?

何だろうこの男性は

見たことがないし、会った事もない


「君ら立命落研やろ?」


あれ?

もしかしてこの人
立命館大学の落語研究会のOBか?


たまにいるのだ。

僕たちの所属する
立命館大学落語研究会のOBが


僕の所属していた落語研究会は
今年で57年目だ。


600人くらいOBがいる。


ここにいてもおかしくない。


「はい!僕ら立命館大学落語研究会です。
OBさんですか?
勉強不足でご挨拶遅れてすいません。」


僕は答えた。


「いや違うよ。
落語研究会じゃないよ。
でも立命館大学のOBや。
あのね、友達が落語研究会所属やったんよ。
〇〇くん」


〇〇くん?


知らないOBだった。


600人全員把握できるわけがない。


「その子と仲良かったからね。
君らも僕の後輩や
飯いこ!」


マジか!

そんな理由?

マジで嬉しい!

「ありがとうございます!
よろしくお願いします。」


僕たちはその男性と
その男性の奥さんと4人で車に乗り込み
数分間走ると、ある店の駐車場に乗り付けた。


「よしここや。降りよか」

着いたのは
料亭のような旅館のような見た目の
確実に高級なお店だった。


扉をくぐる。


着物を着た
訳わからんくらい綺麗な中年女性が迎えてくれた。

「いらっしゃいませ。
あら、〇〇さんじゃないですか。
どうぞどうぞ」

このおじさん夫婦は常連なのだろうか

完全にお得意さんの扱い


個室などの間を抜け
辿り着いたのは

厨房を取り囲むように長ーく設置されたカウンター席だった。


4人で並んで座る。

OBのおじさんが
店主のような人に向かって言った。

「この若い2人はザルで
僕らは…どうしよ…
そんな腹減ってないから適当に握って」

「かしこまりました」

店主が答える。

「君らなんか飲む?
酒はいけんのかいな」

僕はすぐに答えた。


「はい!いけます」


Rは酒を飲まない

「僕はあまり飲めないです」


「好きなん頼んでいいぞ!」


僕はお言葉に甘えて
ビールを頼んだ。

Rはリンゴジュース的なものを頼んだ。

リンゴジュースと言っても普通のものではない。
1杯700円くらいする白濁色の
めちゃくちゃいいリンゴジュースだ。


「じゃあ乾杯しよか」


かんぱーい!


正直、こんな事になるとは
1ミリも思っていなかった。

こんな良いことがあるとは


おじさんと会話しながら待っていると
何人かの板前が次々に
おじさん夫婦の前の
板のようなものに寿司を置いていく。

「はいこれね、今日入ったマグロです」

「はいこれね、金目鯛!
味付けしてあるんでそのままどうぞ」

「はいこれアジね。これポン酢でいってください」


全て旨そうだった。


何がはじまるんだ!?


そうこうしているうちに

ザル

と呼ばれる謎のものが運ばれてきた。

それは
どじょうすくいなどに使われる
大きい、網目のついたザルに
小皿で様々な料理が乗った
超高級定食のようなものであった。

何じゃこりゃ!

賛助先でこんな豪華なもの
出てきたことがない


「いっぱい食べや」


僕たちは夢中になってそれを食べた。


ザルに盛られている食材の一つ一つが
味覚がバグってしまうほど旨かった。


これは舐めていると思われるかもしれないが
おそらく滋賀で一番飯がうまい店はここだと
確信を持って思えた。

「どんどん好きなもん頼みや!
飲み物もええねんで!」

おじさんが言った。


このおじさんは一体何者なのだろう

奥さんも
おじさんと同じくらいの歳だとは思うが
妖艶で品のある女性だった。

「やっぱり若い子がたくさん食べるのは良いわね」

優しく微笑んでいた。


何が起こっているんだ!?


あんなイベントがあった後に
こんなイベントがあって良いのだろうか

しばらくして
完食


僕は好き嫌いが多いので
様々な食材が混ざった定食や懐石などの料理は
少し苦手だったが
美味しすぎてペロリと完食した。


「ご馳走様でした!」


2人で声を揃えて行った。

帰り道
なんと
おじさんの車で駅まで送ってくれた。


完全に
至れり尽くせり


僕は思わず聞いてしまった。


「今日は本当にご馳走様でした
なんで僕たちにそこまでしてくれるんですか?」

おじさんは一言
その場に置くように答えた。


「まあ後輩やからなぁ」


後輩やから?

マジか

後輩といっても
サークルの後輩とかではなく
ただの大学の後輩だ。


立命館大学は
日本でも3、4番目に学生の多い大学である。

毎年8000人くらいの学生が入学している


ということはこのおじさんの
立命館大学の後輩の数は
約30万人


それを全員後輩と捉える?


規模が違いすぎる。


「僕ね、会社をやっているから
また何かあったら呼ぶよ。
はいこれ名刺、
何かあったら連絡して」


丁寧に名刺までいただいた。

駅まで送ってもらい
家についた僕は
名刺に書いてあったメールアドレスに
お礼の連絡をした。

するとすぐに返信が返ってきた。




文面は一行だった。



「この国を担える人になってください」


僕はこれから
この国を背負えるような人間に
なれるだろうか

今でもこの出会いは
鮮明に思い出せる。


今後もどんどん楽しく面白い記事書けるよう頑張ります! よければサポートお願いします😊