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麦茶は夏の味

今年もこの季節がやってきた。

朝起きればうだるような暑さ。外を歩けば頬を包み込む熱風。

湿気で一日中肌はベタつくし、汗もとどまる気配がなく、窓ガラスに吹きつけた雨の水滴のように首筋を流れる。

テレビでは連日、各地の最高気温がオークションの入札者のごとく、次から次へと数字を更新していく様子が報じられている。過去最速で梅雨も明けたというから、この暑さには呆れるほどである。

しかし、それすらも心地良いと思ってしまうのは、夏が魅力的だからか?それとも僕が変人だからか?

後者の可能性が極めて高いが、いやはや、1年に1回しかないこの季節を骨の髄までむしゃぶりつくして楽しむほかはない。

そうは言いながらも、ここまで世間から疎まれる夏といえば何を思い浮かべるだろうか。

花火、スイカ割り、海水浴、祭り、バーベキュー、夏フェス・・・

このように、イベントを羅列すれば枚挙にいとまがない。僕の周りでも、冬がいちばん好きと公言する人も多いが、みんな意外と夏を楽しんでいるように思う。

そして、最近の僕の中では、夏の表象はあるものに収束しつつある。

それが、題名にもなっている「麦茶」だ。

何を馬鹿なことを、と思う人は多いはず。

でも僕は、麦茶を飲むと必ずと言っていいほど夏の情景が口の中に広がる。
その多くは、一般的な夏のイメージ、いわばありふれた夏の情景描写というよりも、僕の過去の出来事から引き合いに出される心象がほとんどだ。

これも列挙すればいくらでもある。

・夏休みの部活動中、灼熱のグラウンドのベンチで喉に流し込んだ麦茶。
・エアコンをガンガン効かせた部屋で、画面の中で激闘を繰り広げる高校球児たちに熱狂しながら、大量の氷と共に飲み干した麦茶。
・おばあちゃんの家の縁側で、風鈴の音色に耳を澄ませながら、鼻に流れ込む蚊取り線香の匂いとともに、ちびちび飲んだ麦茶。
・花火大会で、空を見上げながらも隣の異性を横目に恐る恐る飲んだ、生ぬるいペットボトルの麦茶。

夏の情景こそが麦茶にあり、麦茶には夏の追憶が遺伝子のように組み込まれている。

それを飲めば、あら不思議、どこかで見た懐かしい夏の景色が目の前に広がる。

きっとこの夏の記憶も、将来の自分が麦茶を飲んだときに思い出せるのかな、なんていう淡い期待とともに、僕は今日も麦茶を飲む。

夏に飲む麦茶がいちばん美味しい。やはり麦茶こそ夏のベストパートナーである。

最近は、青空に浮かぶモコモコした入道雲を見つけては勝手にはしゃいでいる。

今年もこの季節がやってきた。

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