★第二ボタンはもう古いんだ。そう、古いんだ。

 これがリアルな恋愛。聞いてください。私の、なんの起承転結も無い、ただの片思い。でも、同じ人がいる、共感してくれる人がいたら嬉しいです。
注意:これは小説です。

 私の名前は石田瞳。高校一年生。私が恋に落ちたのは六月。私の情報はこの三つだけあれば十分。
 私の学校は最寄り駅まで距離が遠い。その為、通学手段はバス(学校の目の前にバス停がある)か、自転車の人が多い。たまに、ダイエットがてら長距離を歩いて行き来する人もいるみたい。
 ――あの日、友達といつも通り帰る予定だった。でも、友達が男子と話をし出して、それを廊下で待っていた。さらに、友達がトイレに行って、ついでに私も行って。洗面所の鏡を見ながら、髪の毛のツヤとかささいな会話して。他にも色んな偶然が重なって、結局いつもと違うバスに乗ることになった。学校前が始発のバスは、いつも発車時刻より数分早く来ているため、私たちは一番後ろの長い座席の隅に座って雑談していた。発車時刻が近づくと同時にバスの中の生徒数は少しだけ増えていく。
「この時間は空いてるね」
 と、友達と会話して、そうだねって、話して。同時にその時、遠くから走ってくる男子三人がいた。あーバスに乗るのかな?間に合うかなーって思った。
「○○駅行発車します」
 運転手が言うと、走っていた三人はギリギリのところでバスに乗り込んできた。それを見て、危ないなー。って最初は思った。でも、その瞬間。ぶわっっっ!!と、体が熱くなった。三人の中の一人、彼はとてもとても、かっこよかった。ものすごく、ものすごく、すごくすごくかっこよかった。
 もう彼から目が離せなくなった。三人は座ることなくずっと前の方に立っていた。揺れるバスの中、私は、友達からの話しかけに、ちゃんと返事できたか覚えていない。私はもう、ひたすらずっと彼を見ていた。こっち見ないかなとか、こっち見たらどうしようとか。こんなにかっこいい人が学校にいたなんて。
 その後の友達リサーチで、彼は三年生。バスケットボール部だったけど、受験の関係で6月に引退(これはこの学校のルールみたい)。そのため、今は帰宅部で、そのおかげであの日会うことが出来た。あくまでも推測だけど。だって、部活していたら、早い時間帯のバスには乗れないから。
「あの日、たまたまうちら遅かったし、向こうは走って来なかったら乗れなかったし、(その他色々)、これって運命じゃない!?」
 友達は出会った日のことについて、いつでも大興奮。思い出しては運命説を証明しようとしてくれる。正直、私も先輩との運命を感じていたから、嘘でもそういう風に興奮してくれると嬉しい。
 そして、大事なのは彼女の有無。友達リサーチによると、中学の時はいたみたいだけど、それ以降はいないみたい。中学の時は彼女いたんだ。やっぱりいるよね。今はいなくても、なんだろ、寂しい。友達は人見知りが無くて、クラスの男子や女子、みんなと話せるからうらやましい。
 

 ――そして、私は二年生になった。先輩は卒業した。時の流れはあっという間だった。先輩のおかげであっという間に感じられたのかもしれない。先輩がどこの大学に行ったのか、それとも就職したのかは知らない。知らなくていい。もう、そこまでストーカーっぽいことしたくなかった。
 今思うと、一人で勝手な沢山のドキドキやワクワクがあった一年だった。私たちは食堂でご飯を食べる派で、毎日先輩が来ないか、お昼時は出入り口をよく観察したけど、先輩は教室でご飯を食べる派だったのか、ほとんど来なかった。でも、数回だけ先輩が飲み物を買いに食堂の自販機に来たときは、ドキドキして心臓が跳ね上がって、変にあわあわしてたのを覚えてる。
「飲み物買いに行こうよ!」
 と、友達が、先輩に私が近づけるように提案してくれたけど、恥ずかしくて結局一度も出来なった。そんな私を見て、一度だけ友達一人でわざと自販機に買いに行って、先輩の様子を見に行ってくれた時があった。その間は、私は友達の方を見ることも、先輩を見ることもなく、ただただ友達の帰りをドキドキしながら待っていた。
「なんか、炭酸買ってたよ。あと、笑ってた」
 炭酸好きなんだ。笑ってたんだ。それだけの情報でも嬉しい。それからは、先輩が買ったジュースを見かけると、先輩を思い出して愛おしくなった。
 廊下で先輩と会うことは無かった。友達が提案してくれたけど、わざと三年生の廊下、先輩の教室に行く勇気はなかった。でも、下駄箱とか、どこかの廊下で一度くらい会いたかった。下駄箱で待ち伏せしたこともあったけど(友達の強引さのおかげで)、やっぱり会わなかった。同じ時間に同じ建物内にいるのに、こうも会わないのか。あの時の私は少し、悲劇のヒロインぶってた。
 文化祭は、またも、学校のルール。三年生は受験もあって、やりたいクラスだけが企画をだしていいってルールがあるみたい。そして、先輩のクラスは何もしないってわかって、当日会うことは無かった。企画を出していないクラスは文化祭の間休日になる。だから、そもそも学校に来ていなかったのかもしれない。来てたのかな。私は、きっと来てると信じて、一生懸命廊下で勧誘係を頑張った(これも友達から)。もし、来たらどうする?声、かける?何て言おう。当日までの間、友達と沢山シミュレーションして、ずっと毎日夜は布団の中で妄想して。授業中も「もしもの時」を考えてドキドキしていた。
 体育祭は、どの種目に先輩が出るかわからなかったから、三年生の男子が出る種目は全部見て先輩を探した。でも、先輩は見つけられなかった。
「先輩の席探しに行こうよ!」
 友達の行動力は本当にすごい。でも、恥ずかしくて、もし会ったらどうしていいかわからないし、何度も断った。
「いいから!暇だし歩こうよ!」
 内心は、友達に感謝でいっぱいだった。本当にありがとう。二年生になった今でも友達には感謝してる。でも、やっぱり、先輩は見つけられなかった。この学校が生徒数が多いからだろうか。って、会えないのは残念だったけど、反面ほっとしてる自分がいたのは事実。
「何かしないとなー」
 いつも友達は一生懸命、私が先輩と何か進展出来ないか考えてくれる。先輩のSNSを見つけてくれた時、
「書こうよ!」
 って、いつも通り提案してくれたけど、先輩のSNSは投稿がほとんどなく、更新も全くなかった。多分、見る専門の為にアカウントを作ったタイプだろう。私と一緒だ。当然、コメント、フォローする勇気なんて私には無かった。いきなりなんだこいつ?ってなるし、でも、そこから発展したら…ってドキドキした。先輩のフォローしている人、フォロワーは無意識にチェックしていた。やっぱり、女の子いた。こんな子がタイプなのかな。元カノかなあ。モヤモヤが止まらなかった。フォロー、フォロワー先のSNSに先輩が写ってないか、そっちの方が先輩のSNSより頻繁にチェックしていた。特に女の子は遠くの過去の投稿まで遡って見てみたりと、先輩を探した。見なきゃいいのにね。先輩のSNSは、先輩が卒業してからは一度も見ないことにしている。 
 そして、気づくと卒業式が近づいてきた。 

「第二ボタンもらおうよ!!」
「無理だよ…」
 ――当然、卒業が近づくと、このことは考えてはいた。
「このまま終わるの?なんか思い出作りたいじゃん!」
「そうだけど、変だよ急に」
「変じゃないでしょ。バレンタインとか、卒業式って、突然告白とか、手紙とか定番でしょ」
 告白!何度か妄想してたけど、やっぱり無理無理無理無理!
「あたしがもらってきてあげようか?」
「え、だ、大丈夫。ありがとう」
 気持ちは嬉しいけど、友達と先輩がうまくいったらって考えてしまう。いやな性格だな、私。

 卒業式当日。この学校は二部に分かれた卒業式が行われる。一部は全校生徒が体育館に集まって、一年生と二年生の代表が挨拶をして、三年生がお礼の挨拶をする。そして、ほかにも色々あって最後は三年生を見送る。二部は三年生と保護者の卒業式みたいで、そっちの方が「THE卒業式」って雰囲気らしい。一年生、二年生は一部が終われば下校になる。
 ――何回も行った卒業式の練習(三年生はいない)で、三年生がどこを通って教室に帰るのか、ルートはわかっていた。最悪、最後はバス停がある。でも、保護者といたら恥ずかしいな。
 見送る時に見えた先輩に、これでさよならなのか、これから声をかけるのかって怖さや決意、もう戻れないって色んな思いが溢れて、変な汗をかいた。ああ、道中、同じように考えてる女の子のグループをあちこちで何組も見た。手紙を持っている子もいた。みんな頑張ってるんだな。これまでにないほど心臓が飛び跳ねる。

 その時なんか来なければいい。でも、もし、もし、もしも…もしもって思ったら。

「来たよ!!!!」
 友達の声に全身がぞわっとした。あわあわと動揺する。
「落ち着いて落ち着て!あ、三人だけじゃん。親もいないし、いけるよ瞳!」
 体が動かない。無理無理無理無理。でも、でも、でもっ、もし、もしも、もしも…っ!
「来る来る来る!」

 何か起こってくれ。全ての運をここで使えるのなら使ってくれ。奇跡、奇跡、お願い、何か奇跡を。誰か。怖い。でもそれを乗り越えたら、もしかしたら。
 もし、もし、もしも…。色んな未来が一瞬で脳内を駆け巡る。
 顔を上げて先輩を見る。友達と話している横顔。体の中の爆発がもう止められない。私は先輩から目が離せなかった。先輩の最後の姿、背中が見えなくなるギリギリまで――

 恋愛漫画みたいに、恋愛ソングみたいに、みんながみんな青春しているのかな。夏祭りに行ったり、映画チケットが当たって誘ったり、突然ぶつかったり、花火見たり、声かけられたり。いじめっ子から助けてくれたり、私の足元にバスケットボールが転がってきたり。壁ドンされたり、あごクイされたり。でも、桜の花びらは本当に散っていった。
 私には何もなかった。何も行動を起こせなかった。でも、主人公は偶然が重なっていたとしても、頑張っていると思う。私の偶然は、あの日だけ。
 私が友達だったら、もっと自分に自信があったら、もっと、こうだったら、ああだったら。キリがない。
 片思いって矛盾していることばかりだった。会いたいのに、会いたくない。関係がうまくいきたいけど、不安もある。声かけたいけど、かけるのが恥ずかしい。妄想さえも、常に相反することを両方していて、矛盾していた。
 知りたいことは沢山あるのに、知らなくていいことまで自分から知ってしまう。そして、不安が増すとわかっていても更に調べてしまう。自分で自分を苦しめる。自分で自分を喜ばせる。変なの。でも、本音は、そりゃあ、ね。でも、そうなってみないとわからない。でも、怖い。ほんと、臆病な私。
 先輩の瞳の中に、私が映ったことはあるだろうか。
 

 先輩がいなくなった後、泣いている私の背中を友達は優しくさすってくれた。
「ま、今時第二ボタンは古いか」
 友達はそう言ってフォローしてくれた。ありがとう。ごめんね。先輩には、勝手に恋して申し訳ない気持ちがあるけど、約一年間私に青春をありがとうございました。


 あの時友達が言ってくれた言葉。そう、第二ボタンはもう古いんだ。うん、もう古い。古いんだっ。そう自分に何度も何度も言い聞かせて、何度も何度も泣いて、私は二年生になった。

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