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ひとり研究所の生息状況をちょっと覗いてみる:リサーチ&評価活動の一コマ

1.「評価」の第一印象は「怖い、近寄りがたい、とっつきにくい」

「リサーチャーって、日ごろ何やってるんですか?」

「えっ?大学や企業に属さずに、研究室を持たずに、リサーチャーって名乗れるんですか?」

「評価の専門家って、怖い顔してダメ出しするプロですか?怒鳴るプロとか世の中に必要ですか…?」

面と向かってこんな質問浴びせられることはほぼないですが、だいたい自己紹介すると、0.3秒後に一歩引かれるか、眉間にしわ寄せて無言になられるか、その2択です。

「評価」という言葉に、ネガティブイメージを持つ人の方が圧倒的に多いですよね。

「評価」という言葉の放つ雰囲気や、言葉に付随する経験(だいたいネガティブ)、それを生々しく再現させる過去の感情など、この漢字2文字にはハッピーな人を憂鬱にしてしまう魔力があります。

そんな世界に自分から身を投じて生きる「評価の専門家」って何者なのか?

突き詰めたところで、明るい未来なんてあるのですか?
価値をぐいぐい掘り下げて、メンタル大丈夫ですか?

と、斜めから観察されている感覚をよく抱きます。

2.「文理融合のアーティスト」、今はそう名乗ることにする。

海外暮らしが長い私にとって、Evaluator(評価士)は、学位を持ち、社会的立場を得て活躍する専門家。アメリカの大学や仕事仲間の中にいると、「そういう生き方が選択肢としてある」ということが当然になってしまい、コミュニティー(研究グループや学会など)の中では、声高に自己主張する必要性もそう多くありませんでした。

でも、2年前に、急遽コロナ禍で日本一時帰国してから、状況が変わります。

「評価の哲学の実務者&研究者(二刀流!)」というものになるのだと、ぼんやりビジョンは定まっていたが、日本にはそんな肩書で生きている人を見たことないし、そんな存在聞いたことがないという人が多いのです。きっと、外から見ると、外来種。抽象的な理想の世界を浮遊する、風船のような存在なのかもしれません。

その生態の実態はなかなか見えず、話しても「評価?はてな?」という反応が返ってくるばかりで、このブラックボックス化している状態をどうにか解明していかねばという焦りは高まっていくばかり。

PCと四六時中向き合うオフィスワーカーか?
それとも、アーティストか?と聞かれたら、

アーティストに近いと即答します。数字の中に美学を追求し、言語の中から魂を浮かび上がらせる、文理融合のアーティストだと。

実際には、言葉と数字に命を吹きこみ、コンセプトをノートいっぱいに並べ、創作家に近しい活動をやっていると自分では思っています。

その理由は、少しずつご紹介していこうと思いますが、例えば、最近の例では、こんなことをやっています。

3.年度末のお仕事:1年間のレビュー「インフォグラフィックを作る!」

「離島・へき地で一人でたたかえる医師を育てる!」というビジョンを掲げて、日本初のへき地医療研修プログラムを民間で立ち上げた「ゲネプロ」の研修プログラムに伴走。2018年にパートナーシップがスタートしてはや4年の年月が流れています。

その間、研修プログラム戦略とリサーチ&評価の側面からお手伝いしています。

・組織の成長にとって意味のある数字を探し出す対話
・ビジョンや目標を個人レベルと組織レベルに分解し、3D(立体)で価値を浮かび上がらせるための質問づくり
・教育・研修プログラムに特化した調査や評価手法の提案・伴走
・数字が独り歩きしないよう、意味と解釈で数字をサンドイッチして、研修の価値が向上するプロセスや導線づくり

ここが、「事業戦略」コンサルと「事業価値創造」コンサルの最たる違いかもしれません。

今回作成したインフォグラフィックは、鹿児島県薩摩川内市の離島である甑島(こしきじま)にある診療所の一年間のレビューです。

下甑手打診療所:令和3年度(2021年度)一年間のレビュー

一年間の振り返りをするのは、今年で2回目ですが、ただただ見栄えの良さそうな数字をかき集めているわけではありません!

数字を追求するよりももっと前段階で、

● 島の医療や福祉の状況を把握するために有益な指標とは?
●下甑島の人口は約1600人。65歳以上の高齢者が約50%。この地域の診療に携わる上で、「意味のあるデータ」って何?
● 現場で無理なく提供してもらえるデータはどれだろう?事務長さんやスタッフさんの負担にならない量はどの程度?

こんなことを対話の中から探っていきます。

現地で日々医療に従事される医師の先生方とのやり取りはもちろん、彼らが綴る手記や写真、活動の様子などもくまなくチェックし、追いかけ、活動の意図を聞いたり、原動力は何なのかを尋ねたりします。


例えば、手打診療所の副所長の室原先生のnoteの記事

・「手診便り」という室原先生の手描きのイラスト満載のお便り。診療所から下甑島の住民全員に届けられるお便りの発行回数は、年間10回程度(月1回)。数字にすれば、たった10枚の紙きれです。
でも、その1枚のお手紙が、1人の人生を救ったというお話

毎日外来受診→入院→退院→外来受診を繰り返すおばあちゃん宅への往診。
それぞれ診療所の各項目のデータカウントを増やしていますが、その数字の「裏にある理由」を突き止め、ハグで不安を溶かしたというお話

数字だけをみても、色も形も感情もありません。
しかし、実際の臨場感あふれるストーリーをキャプチャーすることで、一気に色味が増し、数字が3Dに浮かび上がり、感情が動き始めます。

医療以外の活動にもしっかり目を向け、住民との関係や信頼構築に関連する項目を作っていきます。

そうです!
「作る」のです。

事業をより良くすることに寄与する考え方や行動
ビジョンに直結するとひらめいた構想

そんな表現がぽろっと出てきたら、逃さないように空中キャッチする!
自分たちで新しい指標をつくっていいのです!

● 診療所内で行っている医療活動と、診療所の外で起こっている島民とのコミュニケーションには「同様の価値」があるという認識がある。であれば、評価するときの重みも50%:50%の比率にする。診療所の活動成果に島民とのふれあいを含めるのは、この診療所では「当然」のこと。

● 一人でなんでもやるスーパー医師の時代から、チームワーク(Hub&Spokes)の時代へ転換した。だから、医師による医療活動だけではなく、診療所を支えるスタッフや外部からの支援について、同じくらいの分量を割いて報告する。

● 島外病院との連携、代診医がシームレスに島の医療を支援し、学びあえる仕組みづくりについてしっかり報告する。

そんな対話をしながら、1年間の活動をインフォグラフィックにまとめていきました。

4.学際的に分野を横断し、融合を目指す

これは、数多くの仕事のなかの一コマです。

その他にも、外国の政府機関、大学、自治体(人口200万人規模から数万人規模まで)のお仕事内容をイメージで例えると、玉ねぎの皮を一つ一つむいていき、やがて芯に辿りつくような、そんなお仕事です。

そして、ビジョン・ミッションのど真ん中にある「潜在価値」を掘り起こす探検隊のような仕事です。

文化人類学者として
・研究手法である「エスノグラフィー」をつかい、インタビューや観察を実施。録音・録画をし、音声をテキストに落とし込み、専門のソフトでコーディングをする。
・言葉はもちろん、言葉にならない音や空気、雰囲気、感覚、温度、振動などを言語化する。
・穴が開くほど対象物(人)を観察し、行動の奥深くに宿っている「意思」をあぶり出す。

混合法(Mixed Methods)の研究者として
・組織やプロジェクトを「生かすため」の定量データと、「殺してしまう」定量データを見極める。
・国勢調査やe-Stat(日本の統計が閲覧できる政府統計ポータルサイト)なども駆使して、関連性の高い指標やデータに優先順位をつける。
・メッセージを届けたい人は誰か、キーとなるステークホルダーは誰かを絞り、定量データと定性データの黄金配分比率を決める。
・縦糸と横糸のを美しく編み込み、しなやかで洗練された織物をつくるイメージで成果物の構成を練る。

バイリンガルであるがゆえ
・日本語と英語を駆使して、片方の言語にしかないものをどう表現するかを熟考する。
・言葉の持つトーン、言葉に宿る感情、引力のある言葉の選択、放った言葉がストレートに解釈された場合と変化球のように曲がって受け取られた場合の2つのバターンを考慮して、言葉を厳選する。

量子力学的に…
社会学的に…
行動心理学的に...
公衆衛生政策の側面から…

こんなことを皿回しのように同時にやっているのが、私の毎日です。

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