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百三十二話 鉢合せ

 薄明かりの中、勢いだけで進む。
 天命に身を任せ、全身全霊で索敵する。
 猛然と敵方の山に駆け上がる浅井。眼の前に小さな小屋が見えた。
 中に入る。電気などもちろんなく真っ暗だ。
 七、八畳の部屋――突如、敵兵二人と鉢合わせた!
 一瞬の出来事だ。他にも三人くらいいるだろうか。
 吃驚びっくり仰天し、凍りつく。
 られた!
 浅井の全身の動きが停止、凝固フリーズする。
 否、身体機能どころか時空全体が止まった感覚に陥った。

 ところが、敵の攻撃がない。それどころか、向きを変えて逃げ出している。驚いたのは敵も同じだったのだ。
 浅井は、腰に下げていた手榴弾の安全ピンを慌てて引っこ抜き、投げる。しかし、慌てふためくあまり、あろうことか目の前の地面に叩きつけてしまった。
 自爆。らかし。これぞ零距離。
 浅井は下手を打った。一度は拾った命を見す見す捨てた。

 ところがである。目と鼻の先で爆破するはずの手榴弾が地で跳ねた。手榴弾は、浅井が徴発時拾った支那製のもの。ちょうど生茶のペットボトルくらいのおおきさ、小さな取っ手と多数の鋲とついている。拳固サイズで、信管を切って投げる日本製と異なり、単に投げて破裂させるのだが、それが不良品だったのだ。
 徴発者として、浅井は決して褒められた者ではない。しかし、故に再び命拾いしたのも事実。何が己に利するかは、真に天のみぞ知るところだ。
 
 気を取り直す間もない。速攻外に出る。ブッシュの中を進む。
 人の臭いを感じた。 
 ドス赤黒い顔――互いに重なり合い、仰向けになって死んでいる。
 安井と墨倉。
 憐れなり、ウッフー兄弟の最期だった。

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