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映画(2023/10/17):『君たちはどう生きるか』ネタバレ感想_2.『下の世界』の話


4.『下の世界』の舞台と、『下の世界』の者たち

4.1.『下の世界』には『上の世界』とは異なる理が成り立っている

眞人が落ちた先は、海岸でした。
奇妙な古墳、奇妙な扉、奇妙なペリカンたち。
巻き込まれている眞人を助けたのは、ばあやと同じ名前の、キリコという若い漁師でした。

「火の道具で適切な手法で周囲を包むと身を安全にできる」
「殺生のできない存在達に巨大魚の肉等を分け与える仕事がある」
「ばあやたちによく似た小さい人形を周囲に置くと守られる」

などなど、分かるような分からないような話がたくさんでてきます。
ファンタジーというか、異郷のしきたりというか、そんな感じですね。

***

そう言えば、ジブリ映画ではよくありますが、ファンタジーでよく語られる価値観で
「他所の価値観は、それが如何に馬鹿げたように見えても、尊重はせよ。他所の権威や約束事や規範や貨幣を軽蔑したやつが他所と付き合える訳がない」
「その上で気に入らないなら、死を覚悟の上で抗い抜くことが選択肢になる」

という話があります。(今回も両方出て来る話です)

自分たちの価値観の中で生きていくなら、こんな知見は必要ないのです。
が、外に出ることがあったら、この感覚があるかないかで、トラブルの度合いがまるで違って来るんですね。
それこそ、戦争になるかどうかというレベルで。

だから、この二つは、現実世界でも本当に大事なことです。

4.2.大叔父の創った『下の世界』とその生態系

『下の世界』には独自の生態系がありました。
巨大魚。
巨大魚を殺生できる漁師。
漁師が分け与える肉等を食料とする、殺生のできない存在たち。
その中の一つ、産まれ出ずる人間のたましい・ワタワタ。
それを食う大叔父のエージェント、ペリカンたちや、もっとダイレクトに、人だのゾウだのを殺生して食う大叔父のエージェント、人喰いインコたち。

人間を食う鳥エージェント。
そんな恐ろしい存在達が、『下の世界』にはいるのです。

4.3.産まれ出ずる人間のたましい・ワタワタ

さて。
巨大魚を滋養にして、白いフワフワしたかわいい存在達が、夜空に渦を巻いて飛んで行くのです。
彼らはワタワタ。前述の通り、なんと人間のたましいであり、こうして『上の世界』に産まれ出ずると言うのです。
ここの映像はパッと見に美しく、感動的なシーンと言って差し支えないでしょう。

4.4.人間のたましいを食うよう大叔父に定められたペリカンたち

ですが、ワタワタの渦は襲撃されてしまいます。
さっきのペリカンたちに。

ペリカンは小型船に乗った後述の火の娘・ヒミに、パイロキネシス(火炎系念力)対空砲火を浴びせかけられます。
若キリコが言うには、どうもこれはしばしばあることらしいのです。

が、延焼してワタワタも一定数燃えてしまうのを見て、眞人はヒミを遠くから制しようとします。
ここでヒミは眞人を認識し、縁が出来ます。

***

後に、眞人はさっきの対空砲火で負傷して死を目前にしたペリカンと遭遇します。

ペリカンは人語でとんでもないことを言い出します。

自分たちは大叔父のエージェントである。
というより、無理やりこの世界に連れて来られて、ワタワタを食うべく定められたのである。
嫌だったが、この海域では通常の魚の捕食はできなかったため、これで食いつなぐしかなかった。(深い水深に巨大魚しかいない海域なのかもしれない)

もういい。殺せ。もうすぐ自分は死ぬ。

死んだ。

…大叔父、何を考えている?
何でそんなにもエージェントの鳥たちに人間を食わせようとする?
鳥たち、少なくともペリカンたちは、こんなことはおよそ望んでいないように見えるのに?
どうしてこんな生態系にした?
この辺で、不気味な感覚が生じてきます。

4.5.大叔父に住民として定められたイヤな人間臭さを見せるインコたち

さて、若キリコのところで、眞人はアオサギのおっさんと合流します。
当然喧嘩になるのですが、色々あって、1人と1羽、一緒に行動したり、道中喧嘩をしたり、打算で和解したり、共同作戦を取ったりすることになります。

***

共同作戦。

眞人とアオサギのおっさんは、難敵と遭遇します。

『下の世界』の住民とも言える存在達。
ペリカンたちよりはるかに面倒な連中。
独自の戒律(子供や妊婦を食わない。なお眞人は子供から外れるから喰っていいらしい。大叔父は困るだろうなあ…)に従い、集団行動し、武器を携え人を食う人間大のインコたち。
だいぶイヤな形で人間臭いので、初めて見るとぎょっとすると思います。

彼らの砦を突破すべく、アオサギのおっさんは身を張ります。
眞人も砦を走破しようとするのですが、即効で捕まります。
彼らはペリカンとは異なり、人間を積極的に食べたい、そんな連中でした。
食われる!

4.6.火の娘・ヒミ。しかし

ここでまた火の娘・ヒミが現れ、眞人を連れて転送して救出します。

ヒミは自分のペリカン退治に物言いをしてきた眞人を「生意気」と思っているようです。
が、それでも眞人の「父の大事な人」を救いに行くという動機のため、一緒に付いて行ってくれます。

ヒミはここの地理に詳しく、挙句眞人の探し人である夏子のいる場所を知っていました。
それどころか、後で夏子にお姉ちゃんめいた檄を飛ばしたりもします。

***

実はヒミは、かつて神隠しに遭っていた頃の、夏子の姉にして眞人の母、久子その人でした。
久子は、何らかの事情で『下の世界』に呼ばれ、そこで一年間過ごし、何故か晴れやかな顔で『上の世界』に戻って来たのでした。
『下の世界』では久子はこの環境に順応し、大叔父の血のせいかは知りませんが特殊能力まで発揮し、ヒミを名乗り、その力で縦横無尽に振る舞っていたようなのです(次回説明する、『下の世界』の要たる隕石の力の反発を受けない限りで、ですが)。
今、眞人が会っているのが、その時期の久子、即ちヒミです。
もちろん当初は、ヒミも眞人も、お互いそんなこととは知りません。

4.7.若キリコは下の世界ではああいう感じだったけど、何でだろうな(以下憶測)

そういえば、若キリコは下の世界ではああいう感じだったけど、何でだろうな。
大叔父の血の者ではなく、またエージェントでもない、ただ単に巻き込まれた人だから、大叔父や『下の世界』そのものからはほっとかれたのだろうか。
そして、彼女にとって一番しっくりくる自己イメージが、若く逞しい頃の姿だったのだろうか。
それで、『下の世界』の環境にそのうち順応して、同じく環境に順応したヒミとも出会って、『上の世界』についての記憶は『下の記憶』では失われ、その痕跡はばあやたちの人形とかくらいしかなかったのだろうか。
(だとしたら、これは後でオチにつながっていく話になるので、解釈として個人的には採用したいところですね)

5.『下の世界』での出来事

5.1.勝一がフル装備で危険を冒して塔まで助けに来た時、眞人はどうしたか

途中でヒミは、『上の世界』につながる多数の扉を示し、特に眞人や夏子の元いた田舎につながる扉の番号を伝えます。何かあったらここから出れば良い。

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一方、『上の世界』では、眞人と夏子の神隠しを知った勝一が、様々な装備(とチョコレート)を携え、塔に向かいます。

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後でヒミと眞人は、インコたちに追われて、一度は扉を開くのです。
扉から『上の世界』にはみ出したインコたちは、ただのちっこいインコになり、脅威でも何でもなくなります。
外には勝一たちが迫って来ていました。
勝一については(まだ赤の他人なので)知らないヒミが、眞人に訊きます。
救出者が現れた。戻るか?

眞人は断ります。

この状況下で勝一が助けに来たのはもっともなのだし、そこは立派な父なのです。
が、巻き込まれて突っ込んでいった眞人は、そういう「当事者」である自分の手で、やるだけやることにした。外部の力は借りない。新たに首を突っ込んで来た勝一を、自分は巻き込まない。そういうことなのだろうと思います。

***

それと、メタ的に言うと、勝一だけは部外者なのです。
そのため、このまま突っ込んでも、勝一が『下の世界』に到達できたとは思い難いのです。
久子や夏子や眞人と違って、大叔父がアクセス許可を出す動機がないからです。(ここについては次回説明します)

5.2.夏子の身になって考えたら、眞人「に対して」わだかまりがあったとして、それはむしろ当然なんだよな

さて、最奥部の、立入禁止である、聖域めいた雰囲気の空間。
眞人は遂に、横たわる夏子と再会します。
しかし、目覚めた夏子の口から出たのは、意外な言葉でした。

どうして来た。
お前なんか大嫌いだ。

眞人は愕然とします。

***

でも、よく考えると、当たり前なんですよね。
夏子にしてみれば、極力親切に振舞おうとしても、眞人は礼儀正しく振る舞いはするが心は閉ざしているわ、何かあると行方不明になるわ、ばあやたちと総出で捜索せねばならなくなるわ、頭に大怪我を負うわ、一連のストレスは自分のお腹の子に悪いわ、そんな状況下でも気遣いの言葉一つ言わないわ。
このガキ。
くらいには思われていても、しょうがないと思いますよ。
そして今は殊更心身の不調の極めて激しい時だ。言葉に出てしまったとしても、これは、当然、「あること」です。

***

しかし。
眞人は肚を据えて、「父の大事な人」ではなく、夏子が一番言って欲しかったであろう言葉を言います。

夏子「母さん」。
戻ろう。

あれほど家族として受け入れられなかった夏子のことを、それでも眞人は家族として受け入れることにしました。家族としてやっていこうではないですか。
そういうことを、口にしたのです。

ここは、正直、グッときました。
夏子も眞人も、わだかまりのある相手に、ちゃんとこういう親切を「やれる」、または「やれるようにした」から、家族としては本当にご立派ですよ。

***

しかし、最奥部の立入禁止の聖域は、眞人を拒み、夏子の姿をどこかに隠してしまいます。
そして、ヒミは、最奥部の立入禁止の聖域に侵入したため、インコたちに捕まってしまったのでした。

ここまでで前半の「家族になれない者同士が『家族』としてやっていくことにするまでの折り合い」の話は終わります。
後半の、「『家』の資産だか負債だか分からないものを、引き継ぐかどうか」の話は、次回以降行います。乞うご期待。


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