読書（2024/10/6）:荒山徹『神を統べる者』下巻『上宮聖徳法王誕生篇』初見実況
#荒山徹 #神を統べる者 #上宮聖徳法王誕生篇
— 犬神工房 (@nokkaranoumu) September 2, 2024
いよいよ…やるか！ 初見実況！
厩戸御子、トライローキヤム教団に拉致される。
ムレーサエール侯爵は当然奪回しようと捜索を行うが、トライローキヤム教団の刺客が来る。
ムレーサエール侯爵、愕然。この刺客。まさかこいつ…！
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トライローキヤム教団カウストゥバらは厩戸御子を連れて、本拠地である密林島に帰る。
刺客と共に。
刺客は…虎杖！
彼の海賊団は、トライローキヤム教団にハメられて滅ぼされたのだ。
虎杖は魔術で正気を奪われ、使役されていた！
…魔術？
仏教団が？
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仏教の行く末を真に憂う者であったトライローキヤム教団イタカ宗祖は、マハーヤーナ（大乗）が仏教を改変していくことに腹を立てていた。
しかし同時に彼は、ある結論に至ってしまった。
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ほんものの仏教は個人の生き物としてのままならなさを救うが、集団力学を前に無力だ。
イタカの古い布教のやり方では上手く行かない、という話はあろう。
ただ、前半は、厩戸御子も同じ結論に至った。後半も、少し真面目に考慮せねばならない話に聞こえる。
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で、軍事力と経済力を掌握すればよい、という、集団力学ならまあもっともな結論に至った。
とはいえ、おそらく仏教としては
「それをして、本当に自分が呑まれずに済むのか？ 呑まれるならだめ」
という話に、個人的には聞こえる。
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しかし。
イタカの最終目的は、トライローキヤム教団によって初期仏教が広まった国の実現だ。かつてのマウリヤ朝のように。
初期仏教は、そしてその目的の境地であるブッダは、大事ではあるが、最終目的ではない！
…組織の考え方としては分かるけどさあ。
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個人の実践としての修行と、組織の実践としての布教の違い、ということでもある。
イタカは後者だ。
だから、平然と言う。
厩戸御子はブッダであるが、我々は厩戸御子をブッダとして求めていたのではない。
別の力として求めていたのだ。
霊力！
…霊力？
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トライローキヤム教団の秘仏。
かつてバラモン教団の本拠地だったここを発掘して見つけた、男根の屹立した仏像。
それに、気絶した厩戸御子の肛門をあてがう。
秘仏、起動！
その膨大な霊力は、「あるもの」を動かすために注がれる。
それは…？
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トライローキヤム教団は、ムレーサエール侯爵らの支配する一大経済都市タームラリプティにやってくる。
「降伏しろ」。
ムレーサエール侯爵は、厩戸御子を拉致し、今や使者としてやってきて馬鹿なことをいうカウストゥバに、内心穏やかではないが…
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トライローキヤム教団は、タームラリプティが降伏しないと、何かとんでもない災厄をもたらし、タームラリプティに大きな被害をもたらす、と言うのだ。
動揺するタームラリプティ支配層ら。それは聞き捨てならない。侃々諤々の議論が行われる。
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さて、催眠術で使役されていた虎杖。
海賊仲間にとっては信頼できる兄弟分だ。
彼を麻酔薬で眠らせて奪回！
自分たちをこき使っているトライローキヤム教団から脱出する！
…それは良かったのだが、起きないまま数ヶ月が過ぎる。
どうしたら起きるんだ？
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柚蔓はムレーサエール侯爵から経緯をありのまま伝えられる。
性欲に苦しんで、とんでもない遍歴を経た厩戸御子のことを思うと、その辛さに泣けてきそうになる柚蔓。
奪回のために托鉢中にタームラリプティ市内をあちこち捜索するが…
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奇縁。
虎杖の海賊仲間の一人は、そもそも厩戸御子を護送していた船乗りの一人でもあった。
つまり、柚蔓のことも知っている。
彼らはタームラリプティの妓楼の二階に、昏睡状態の虎杖を匿っていた。
再会！
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起きろ！
厩戸御子を奪回するぞ！
柚蔓の叱咤に、昏睡している虎杖は目覚めない。
柚蔓ビンタ！
起きない。
かくなる上は。
柚蔓唐竹割！
おい…
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— 犬神工房 (@nokkaranoumu) September 3, 2024
…虎杖も剣士だ。
剣気で目覚める。
唐竹割を前にして…真剣白刃取り！
奇しくも合掌！
霊力による催眠術の効力が尽きたのか、シラフに帰っていた。
ヨシ！
一同、ムレーサエール侯爵の前に集結。
厩戸御子奪回部隊！
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さて。
「災厄」がどんなものかはっきり言わない限り、カウストゥバの脅迫も、タームラリプティ支配層には、ハッタリとして受け止められてしまいつつある。
そんな中、カウストゥバの主、トライローキヤム教団イタカ宗祖の船が、なんと直々に来た！
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交渉を求めるタームラリプティ支配層だが、トライローキヤム教団宗祖イタカ長老は応じない。
降伏するか否か以外を認めない。
頑迷に突っ張る人とやる交渉、やっとれんのだよな。ふつうは。
ふつうじゃなかったら？
実力を背景とした脅迫だったとしたら？
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気絶していた厩戸御子を、トライローキヤム教団秘仏に犯させて得た霊力は、同教団の最大軍事力を駆動するに足るものだった。
機動巨大ガネーシャ像！
本来はバラモン教の神格である。
6世紀の時点では仏教では扱われてない。
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宗教面では仏教国家の実現のために、霊力的にはバラモン教を運用している、トライローキヤム教団の性質が伺える。
方便として神話体系を習合するのは、ローマ帝国も日本もそうだが、これは習合のプロセスすらないからすごい。
何だこの教団。
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密林島の性的仏像（歓喜仏）が厩戸御子を犯しながら、その霊力でガネーシャ（歓喜天。まだそう呼ばれるべきじゃないけど）巨像を遠隔操作し、タームラリプティを粉砕していく。
特撮パート開始！
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交渉決裂で監禁されていたカウストゥバが平然と言い放つ。
トライローキヤム教団に降伏すればよし。
ダメならタームラリプティは滅茶苦茶になるし、我々は別の商業都市に同じことをやる。今度は即降伏するだろう。我々はそれで全然構わぬ。
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しかし。
トライローキヤム教団の本拠地のアジトのある密林島で、厩戸御子を奪回せんとする者たちあり。
柚蔓！ 虎杖！ 海賊団！
僧兵めいた武僧と戦ったり。
巨大コブラと戦ったり。
冒険活劇パートだ。
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柚蔓は厩戸御子が、秘仏に犯されながら、空中に浮いているのを見る。
厩戸御子は柚蔓に言う。
これと戦っている…性的に！
柚蔓も濡れる程の、厩戸御子の嬌声。
やがて…
座位の秘仏が、臥位になる。
秘仏の負け！
（俺は何を読んでいるんだ）
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ガネーシャ巨像の操縦権限は、秘仏から厩戸御子に移った。
トライローキヤム教団保有、ガネーシャ巨像二号機…起動！
トライローキヤム教団が厩戸御子から奪った霊力では、一機しか動かせなかった。
十全な状態の厩戸御子本人なら、両方動かせる！
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神格が巨像となり人々を殺戮する。
信仰の残る人々にとっては、ただの軍事的被害を超えた恐ろしい事態だというのは分かる。
厩戸御子は違う。
遊ぶ！
仏教活劇…巨像ファイト！
仏像と化した二号機、殺戮の一号機に仏罰ビーム！
爆発四散！
ノリノリだ！
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タームラリプティにおけるトライローキヤム教団の侵攻は、教団の全滅により幕を閉じた。
厩戸御子は言う。
またこの手のやつらがこの手の騒動を起こしたらまずい。
それに、やはり、倭に帰るんですよ。
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厩戸御子は懐かしのナーランダー寺院に挨拶する。
肉欲に目覚めた厩戸御子を扱いかね、遂に責任を放棄したシーラバドラ師。
しかし、厩戸御子を見て理解する。
ブッダになった！
肉欲故に、お釈迦様の如く、肉欲を克服したのだ！
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人生において肉欲に苦しんできたシーラバドラ師、肉欲故に肉欲を克服した厩戸御子を見て、悟りに達する！
…すごいなこの小説。
厩戸御子は謎めいた予言を残し、倭に戻る。
隋を経由して。
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隋の皇帝、楊堅の子、楊広は、首都・大興城で、ふと見覚えのあるやつの顔を見る。
皇子権限で捕まえようとするが、部下たちは「そんなところには誰もいない」と答える。不思議なことだ。
その夜。
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楊広は口から光球を吐き出す。
何だ！？
厩戸御子！
かつて、九叔道士が自分と楊広を拉致した時、2人に根本存在、太一の陰と陽を植え付けた。
厩戸御子においては、それは途方もない肉欲として顕れたが、楊広においては…
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楊広に植えられた陽の太一は除いたが、楊広は既に精神を蝕まれている。そう、厩戸御子は言う。
ついでに厩戸御子は楊広の野望を見抜く。
皇帝となったあかつきには、世界征服だ！
…もちろん倭の皇子にとっては迷惑極まりない話だ。
何とか備えないとなあ…
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厩戸御子、楊広の元から去る。
さて、ここから、長い長い最終章『淤能碁呂島』が始まるんですよ。
しおりを挟む前に予測。
『柳生陰陽剣』（『柳生雨月抄』）における、名前だけ出た荒山徹小説世界暫定最大霊的存在、国際同盟防衛機構『天沼矛』絡みか…？
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あと、トライローキヤム教団の
「仏教のためにはブッダは大事だが、仏教国のためにはブッダは要らん。経済力と軍事力と霊力と迫力ある偶像！」
という自暴自棄に、厩戸御子が
「うるせー軍事力と霊力と偶像その二を喰らえ」
をやったの、よかったのかなあ。
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この手は集団相手には効いた訳だが、ブッダであることが効いた訳ではないのよな。
トライローキヤム教団の「仏教は個人にしか効かない」絶望は、厩戸御子の手でむしろ傍証された。
この辺は宿題だな。厩戸御子は倭に帰ったら集団相手の政治家になるのだし…
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それと、厩戸御子がタームラリプティで学んだキリスト教のある派とかだと、
「ブッダ性でなく偶像崇拝で信仰を広めるのがもう邪道」
とか舌打ちをするのかもしれない。
（偶像崇拝的な要素のある派もあるからそれもどうかと思うが、言う人は言うだろうな）
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久々の大和！
厩戸御子は妙なことを言っていた。
「ブッダをやめてみようかな」
平静を極めすぎては、懐かしさも薄れる。
懐かしさは懐かしさで、嬉しく受け取れば良いのだ。それで心を乱さないことが肝要なだけで。
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しかし、厩戸御子、微熱を出し、柚蔓に介抱される。
ブッダ状態を一旦やめたら、懐かしさで感情がドッと出たのでもあるし、長旅の疲れもたぶんある。
だが、物部隊商は、別のことを懸念している。
この国の神々が、厩戸御子を、ブッダを、拒んでいるのか？
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まずは蘇我馬子の元へ行く。
馬子と共に、物部守屋宅へ向かう。
この二人が、インド旅行のパトロンなのだ。まず話をしておくべき相手である。
厩戸御子は、刺激の強い話は全部濁して（そこはそう）、自分が仏教をマスターしたと告げる。
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大和の情勢は大いに変わっていた。
厩戸御子を抹殺しようとしていた敏達天皇は崩御し、次は用明天皇となった。厩戸御子の父だ。問題なく帰国できる。
この上で、厩戸御子の出方次第では、再び崇仏派の蘇我と排仏派の物部のパワーバランスが激変する訳だが…
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厩戸御子は、倭に仏教が適しているかの回答を、半月先延ばしにする。
仏教は分かった。でも自分は倭についての知識が昔のまま止まっている。倭に適合するかどうかの回答は、倭についての知識を集めてからだろう。（そこは本当にそう）
半月、勝負、お預け！
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父、用明天皇と、母、穴穂部間人皇后にも、厩戸御子帰国の報告が上がる。
パレード！
厩戸御子は、感極まっている父母を前にして、淡い感情しか起きなくなっている。
家族達は、そんな厩戸御子に違和感を覚えているようだ。
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厩戸御子としても困っていた。
厩戸御子は今までも、必要に応じてシラフと生の感情をスイッチングしてきた。
倭でもそのつもりだったが、懐かしさのあまりなのか、思ったより生の感情が激しく出過ぎる。
常時ブッダ状態でないと危なくなっている。
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常時ブッダ状態の人が、常時生の感情の人と、付き合っていかねばならない訳だ。
社会をやるなら、凡俗でも高邁でも概ね等しく網目であり、繋がるという状態からは逃げられない。逃げたら高邁な変人で終わる。
厩戸御子の問題は、新たなフェーズに突入した！
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多様な人と人との接続が、カテゴリーによって切れることは多々ある。身分の違い、教団と俗世の違い。
それは、似た者同士の安心と、違う者同士の距離感をもたらす。
だが、それが効かない場合も多々ある。
距離感のない、不安な状態に、備えねばならない。
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人は多様だ。
だが、そんなことはただの自明な前提に過ぎない。
その上で、防ぎようがない人間関係の網を、ある意味ほんとうの社会を、やっていかねばならない時がある。
高邁さのバリアーのない中、やっていけるか？ 厩戸御子？ これは大きな宿題だぞ…
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蘇我馬子宅。
蘇我馬子と虎杖、物部守屋と柚蔓、そして…厩戸御子。
仏教のプロ、ブッダの厩戸御子の言うことは、仏教の門前小僧の蘇我馬子にとっては、何もかもが破壊的な話だった。
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仏教は生き物としてのままならなさを克服するための修行である。
馬子の大叔父の考えているような、ブッダに帰依すれば救ってくれるというメカニズムの教義じゃあない。
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確かに「帰依すれば救われる」というのは、「崇め畏れれば守られる」日本の宗教とは異なる。そこに馬子の大叔父は魅力を感じたのかもしれない。
でもな。それは漢土や百済で起きた、教義の改変なんだ。インド本場の教義じゃあないんだよ。
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お釈迦様は亡くなって、弟子たちが統一見解を口伝で残し、そのうち文字でないためすぐに口伝の整合性が取れなくなって、教団がたくさん分裂してしまったんだ。だからお経がたくさんあるんだね。
神格としての仏もたくさんいるが、お釈迦様とは関係がない。
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仏教が一般向けになったマハーヤーナは、インド人にとっては偽史の塊だ。
ヒーナヤーナも一般人にできることではない。
インドでは土着のバラモン教が栄えている。
まず蘇我馬子の考える仏教と、インドの仏教とが、そもそも異なるのだ。
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物部守屋はほくそ笑む。
じゃあ、そんないんちきなマハーヤーナの、さらに漢土と百済で改変されまくった仏教など採用しなければよいではないか。
しかし。
厩戸御子はむしろ、その上でなお、仏教を倭に導入すると言い出す！
なぜ！？
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厩戸御子は、仏教の伝播した陸路を辿っていった。
仏教は常人に悟りをもたらすことはあまりなかった。
だが、明瞭に、人の心を豊かにしている。
仏教、仏教文化、仏教文明は、むしろインドの外で栄えたのだ。
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そして…恐るべき大国、隋も、仏教国である。
（トライローキヤム教団が見たら嫉妬で歯噛みするだろうか。それともマハーヤーナのまやかしを呑んだ愚民どもの偽りの仏教国として蔑むだろうか）
あの文明の塊を見たら、思う。このままでは倭は秒殺だろう。
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脅威たる大国の流儀を前に、秒殺されずに防衛して生き残るには、まず彼らの土俵に立てていなければならない。
だから彼らの流儀を…仏教文明を導入する！
…そう来たか。
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まあ、分かるんだ。
「大国や大国どもの土俵にちゃんと乗る」以外のことをしたら、ある日こちらは向こうに「秒殺されて当たり前」と言われながら秒殺されるだけなのだ。
国際社会のリアリズムだ。
後に、幕末以降も、現在も、ずーっと直面する話だ。
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摩擦もする多様な人と人との避けがたい関わり合い、社会の中でどう生きるか、という宿題はともかく。
摩擦してる多様な臣民が生きていける場を、崩壊と侵蝕から維持する、公人としての宿題は、立派に果たそうとしている。
厩戸御子、偉い。泣けてきそうだ…
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さて、大和を馬で駆けたり、国史の編纂に熱心な叔母の額田部皇女に気に入られたり、いろいろしていた厩戸御子。
彼の中で、決意が固まる。
これにて自分は、ブッダであることをやめる。
政治家として、倭に仏教国を創造り、守護る！
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そして、柚蔓と逢う。
解脱をしたら激情からは離れられるが、それでは俗世では無力になる。俗世において、解脱とは逃避でしかない。
しがらみのある懐かしのこの地で、激情に灼かれ、二度とブッダには戻れないかもしれないが…
そう生きる！
…重い決断だ…
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そして、柚蔓と逢う。
解脱をしたら激情からは離れられるが、それでは俗世では無力になる。俗世において、解脱とは逃避でしかない。
しがらみのある懐かしのこの地で、激情に灼かれ、二度とブッダには戻れないかもしれないが…
そう生きる！
…重い決断だ…
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柚蔓も、厩戸御子を心より慕う者である。
厩戸御子の激情を受け止める。
翌朝。
間人皇后は、厩戸御子を迎える。
人を辞めていたブッダの如き息子が。
人として帰ってきた。
何かあったのだろう。
問わない。
おかえり。
ただいま。
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さて。
厩戸御子にある霊力とは何か。
子をなす力。
人を太古から未来へと連綿と続かしむる力。
伊勢の天照大神は厩戸御子を国外追放させ、仏教修行を通じて、厩戸御子の霊力が最大限に育つよう仕向けたのだ。
これこそが、厩戸御子国外追放の、真相！
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そんなことを教えてくれる、決して懐かしくはない相手。
禍霊。
その名は、水蛭子！
天照大神の兄！
倭に対する最初の怨念にして、倭における怨念の塊！
厩戸御子に、水蛭子の王になってもらいたい。
…まただよ。
しかし。
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水蛭子は極めて奇妙なことを言う。
なぜ、厩戸御子に、水蛭子の王になって欲しいのか。
浄化だ。
自己目的化した怨念の再生産に、我々は疲れたのだ。
肯定的に弔われて、肯定的に消えたいのだ。
厩戸御子の霊力なら、できるかもしれない。そう期待する。
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…人の世に敵意を抱く者たちの、何らかの肯定的な落とし前をつける。
たいていそれは人の世の公人のやったことへの敵意でもある。
敵意を持つ者としては、「公人はこれに責任を負うべきだ」と思うのも、ある程度は自然な成り行きであろう。
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人の世への怨念への落とし前。
厩戸御子、でかい宿題を渡されちゃったな。
とはいえ、
「大人しく浄化されてやる。そのためなら、人の世のために、力を貸してやろう」
と怨念の側が言い出すの、本当にでかい譲歩であるのは、まあ分かるんだ。
どうする？
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厩戸御子はブッダを止めて人に戻った。
人が人とやっていくなら、ブッダが人とやっていくより、明らかに円滑であろう。
今から倭を仏教国にする。漢土や百済の仏教ではなく、倭の仏教を作る。
それは政治だ。当然、人として人とやっていかねばならん訳だ。
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しかし。
物部守屋と、懐かしの布都姫が対峙する。
布都姫は神社の斎宮だ。物部守屋は反仏教だ。厩戸御子の計画に否を唱える。
計画を貫徹できるのか？ 反発を防ぎきれるか？ 厩戸御子の死後も体制を盤石にできるのか？ 我々はそこまで信じてやれない。
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布都姫は怒っている。
あの可愛い坊やが、よりによって最大の敵となった。可愛さ余って憎さ百倍！
厩戸御子はガッカリしていた。
物部守屋は、仏教に対して、政治において、シビアな男だ。
その彼が、味方になってはくれないことははっきりした。残念だ…
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厩戸御子は母・間人皇后の言葉を聞き、父・用明天皇と話す。
建築が趣味の、政治的野心のない彼が、大王になったのは、追放された息子を安全に迎えるためだ。
親心が沁みる。
用明天皇は仏教導入に乗り気だ。
というか、寺に興味があるんだな（あー…）
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さて。
物部守屋は別の皇子と接触していた。
穴穂部皇子。厩戸御子の母・間人皇后の弟。
蘇我の血を継ぐが、反仏教で、しかも政治的野心がある。
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物部守屋は言う。
自分は反仏教を強く主張していく。
当然、蘇我とは揉める。
用明天皇に政治的野心はない。厩戸御子のための親心で、なりたくもない大王になった。
揉め事を通じて、用明天皇をうんざりさせて退位に持って行く。
穴穂部皇子のチャンスだ！
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…ところが、それどころではなくなる。
用明天皇が病に倒れた！
半ば遺言めいて言う。
自分は仏教徒となる。この国が仏教国になるか、豪族らよ、議決せよ！
厩戸御子にとっても。
蘇我と物部にとっても。
大和と倭にとっても。
待ったなしの事態になった！
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敏達天皇の嫡子だった押坂彦人皇子は隠棲している。皇嗣争いには関わり合いにならない。
とはいえ、目論見がある。自分の非蘇我系皇族の血を残すことに意味がある。今迂闊に蘇我と豪族たちの政争で死んだり、望まない縁組をされないことが大事なのだ。
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最終的には蘇我宗家は滅び、非蘇我系皇族として、息子の舒明天皇や、孫の天智天皇・天武天皇が天皇家を継いだ。
押坂彦人皇子の粘り勝ちだと言ってよい。
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だから、この時点で物部側の中臣勝海が接近してきたのは、押坂彦人皇子にとっては大迷惑だった。
配下の剣の達人、迹見赤檮に暗殺させる！
そして蘇我馬子に伝える。即位を誘うという不吉不敬な真似をした中臣勝海は死んだ。
要は、我々に関わるな。
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厩戸御子は、父・用明天皇の危篤を横目で見ながら政争と流血を繰り広げる豪族たちに、うんざりする。
…水蛭子の声が聞こえる。
またか。
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念の為、厩戸御子は訊いてみる。お前らの力で、父を治せないのか？
水蛭子は怨念、意識に過ぎない。心には働きかけられるが、体だの命だの物理力だのは出来ない相談だ。
厩戸御子としては、当然、「何しに来やがった。いいからすっこんでろ」てなもんだが…
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水蛭子が言う。厩戸御子は政治をやるんだろう？ 政治は争いだぞ？ そして二人いれば政治は起きる。そういうものだ。
水蛭子にしてからが、伊弉諾と伊弉冉の、そうしたそれの犠牲の怨念なのであった。
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政治をやる以上、争いをやることからは避けられないのだ。
争いを避けようと日和見をするやつに、政治は微笑みかけはしない。
お前がそんなんなら、政治家の蘇我馬子はお前を放っておいて、勝手に仏教国化政策を推進するだろう。
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さあ、政治の一局面、争いを、やるのかやらんのか。
やるなら我々水蛭子に味方せよ。水蛭子の王となれ。
怨念の塊として、人の心には働きかけられるのだ。
お前の政治に、争いに、力を貸して役に立ってやろうではないか。
断る！
厩戸御子、大変だなあ…
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蘇我馬子は、間人皇后と穴穂部皇子の弟、泊瀬部皇子と接触する。
穴穂部皇子は物部氏と提携している。
泊瀬部皇子、察する。蘇我馬子が折り合いの悪い野心家の兄を下ろしたら、自分が即位できる目があったりするのか？
泊瀬部皇子、蘇我馬子と提携。
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物部守屋は直ちに察する。
穴穂部皇子との提携がバレた。
穴穂部皇子即位後、親戚だが宗教の異なる蘇我氏を冷遇し、物部氏と二人三脚、というプランはもう無理だ。
覚悟を決める。
小細工は抜きだ。
全力で行く。
物部氏お得意の軍事力、そして宗教力で！
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物部氏の本拠地は河内国。今の大阪府の一部だ。
しかし、もう一つ、秘密の拠点があった。
淡路島。
ここに、物部氏の究極霊力兵器が眠るという。
物部氏の神社、石上神宮のおばばさま、胆弓姫との協議。
封印を解く！
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物部守屋は、用明天皇の平癒祈願と称して、巫女団を河内国に向かわせる。
理屈は通っている。止める道理が立たない。
兵士らしき者も特にはいなさそうに見える。少なくとも挙兵ではなさそうだ。じゃあますます止める道理は立たない。
しかし。
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物部巫女団には、柚蔓がいた。
真の目的地は、実は淡路神宮であるらしい。
柚蔓は察する。物部氏究極霊的兵器！
この情勢下では、それが愛する厩戸御子を害するものとしてはたらくのは、考えるまでもなく分かる。
脱走！
おばばさまに捕まる！
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おばばさまは裏切り者の柚蔓を当然ながら処刑しようとする。
己の霊力で。
厩戸御子、柚蔓を救出！
おばばさまを退け、逃げ切る！
ヨシ！
物部氏にとっては最悪だ。
物部氏究極霊力兵器の件が、発覚した！
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淡路島に眠る物部氏究極霊力兵器。
その正体は、神話に通じるものだった
天地開闢の神々、伊弉諾と伊弉冉は、神器・天之瓊矛（天沼矛）をもって海を搔き回し、始まりの島・淤能碁呂島（おのごろじま）を作ったという。
淡路島こそが、淤能碁呂島なのだ。
※この作品内での正しい表記は「天之瓊戈」です。以下そのように読み替えて下さい。
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海から大地を作り出した神器・天之瓊矛は、未だに物部氏の拠点、淡路島にある！
そして。
伊弉諾と伊弉冉の子孫、天孫・瓊瓊杵尊の兄に当たる、河内国天孫降臨先発部隊隊長、天孫・饒速日尊。
瓊瓊杵尊の末裔が帝であるように、饒速日尊の末裔は物部氏だ。
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天之瓊矛の管理権は物部氏が持つが、操縦権は帝が持つ。
今の帝である用明天皇は、今崩御しようとしている。
空位である場合、天皇家の血の者なら誰でも操縦出来てしまうという！
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物部守屋は、用明天皇崩御の隙を突いて、穴穂部皇子を物部氏究極霊力兵器・天之瓊矛の操縦に用いる気だ。
そして。
遂に…用明天皇崩御！
その場にいたのは物部守屋だった。
訝しむ。
蘇我馬子がいない。
次の即位を狙う、穴穂部皇子も。
…まずい！
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穴穂部皇子は額田部皇女から連絡を受けていた。
用明天皇崩御！
共に弔問に行こう。
待っていてくれ。
穴穂部皇子は額田部皇女に恋していたが、振られてきた。
その彼女が、保身のため、自分に色目を使っている。
よかろう。皇位と恋が両方手に入る訳だ。
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…長い時間を浪費して。
やってきたのは蘇我馬子の手の者の部隊だった。
額田部皇女？
蘇我馬子の元にいますよ？
つまり？
穴穂部皇子も蘇我馬子の元へおいでますよう。
そういうことです。
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やられた。
穴穂部皇子はテキパキと後楯の物部守屋の元に行くべきだったのだ。
今、こうして、蘇我馬子に掌握されようとしている！
皇位継承の野心、成らず！
…ふざけるな。
穴穂部皇子、蘇我馬子の配下の部隊と交戦！
戦死！！！
おい…
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擁立の駒であった穴穂部皇子が死んだ。
さらにまずいことに、物部氏同様、軍事豪族たる大伴氏が蘇我氏についた。
大和において、物部氏の命運は、極めて厳しい。
本拠地の河内に撤退する。
夜の雨の中の移動だ。大和側は追撃を諦める。
戦、待ったなしだ。
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夜になり、豪族たちが去った後、厩戸御子は亡き父を思う。
しばらくインドに行っていて、顔も合わせていなかったが、やはり父への思いはある。感謝が。
母を思う。さみしいだろうが、兄弟たちがついている。
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殺された叔父である穴穂部皇子のことも思う。
自分がかつて操ったガネーシャ巨像。
神器・天之瓊矛もそのようにして使われる可能性があった。
操縦者として用意されていた穴穂部皇子が死んだので、それももうないが…
甘い。
水蛭子が警告する。
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厩戸御子は水蛭子の声を、誘いを拒む。
だが。
水蛭子は警告しに来たのだ。
何から？
物部のおばばさま、胆弓姫の襲撃！
厩戸御子、何度目かの拉致！
またかよ！
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拉致された厩戸御子は、生駒を越え、河内に着き、河内湖から、大阪湾を経て、今や淡路島にいた。
物部守屋。布都姫。胆弓姫。
彼らは新しい天乃瓊矛の操縦者として、厩戸御子を使う気だ。
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そして、穴穂部皇子の時とは事情が変わった。
厩戸御子の霊力なら、もっと上を狙える。
厩戸御子を傀儡の帝にする？
否。
物部守屋が帝になる！
蕃神の仏教を導入する、愚劣な瓊瓊杵尊の子孫ではなく。
兄神、饒速日命の末裔が継ぐ！
うわーそう来るか！
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神器・天之瓊矛は二人で操縦する。
今回は厩戸御子と布都姫だ。
とはいえ厩戸御子はパワーソースとして求められているに過ぎない。実質的には布都姫が操縦する気だ。
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— 犬神工房 (@nokkaranoumu) September 5, 2024
天之瓊矛は、海から島を、大地を創る、国土級地形変化神器なのであった。
『柳生陰陽剣』（『柳生雨月抄』）の霊的対大陸同盟包囲網としての天沼矛とは違うようだが、これはこれでやはり荒山徹小説内最大級霊的存在の一角であることは、文句無しに分かる。
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天之瓊矛は今や、国土級地形変化神器でなく、封印解除天災神槍兵器である。
地形変化を、皇族らと旧豪族勢力の集まる大和にぶちかまし、沈める！
水没した大和に代わり、河内の物部氏が、倭を統べる者となる！
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…かなりシリアスに、惨状、としか言いようがないやつがお出しされてしまった。
フィクションに対してこんなにも「阻止しなきゃ」と思えるの、久しぶりだよ。
どうなる？ 厩戸御子！？
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柚蔓は愛しい厩戸御子を救いに、単身飛び出す。
すぐに二人になる。
虎杖。
厩戸御子を救いたい気持ちは虎杖も同じだ。
それに、厩戸御子を奪回しなければ、上司の蘇我馬子は勝てない。
物部氏の裏切り者である柚蔓は、虎杖を連れ、最適経路で行く。
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淡路神宮で、胆弓姫のおばばさまの金縛りに遭って、逃げられない厩戸御子。
布都姫が甲斐甲斐しく世話をする。
私とあなたは伊弉諾と伊弉冉になるの。そうやって天之瓊矛を操縦するの。
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そして、恨み言が始まる。
私は処女なのに、あなたは童貞ではない。
あの裏切り者の柚蔓が…
まあ、はい。分かります。
実際、おねショタ恋の争奪戦では、今は柚蔓がトップな訳だし。
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だが年増の柚蔓より自分の方が若い。振り向かせて見せる！
厩戸御子は冷静になってきている。
こういう女の相手は何度もしてきた。
憐れみの目を向ける。
キー憎らしい！
いつか自分の身体でさんざん泣かせてあげますからね！
元ブッダが、泣くかなあ…
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河内湖。
軍事豪族であり、水軍を擁する物部守屋。
柚蔓と虎杖の失踪の理由を当然理解し、見て見ぬふりをして、手持ちの皇子たちと共に、朝軍として立ち上がる蘇我馬子。
それぞれの決戦前。
そして、柚蔓と虎杖、もう一つの決戦地、淡路島にたどり着く。
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決戦前とは思えないほどのどかなものだ。
まあ、そういうものだ。漁師は魚を採り、農民は稲を植える。そういうものだ。
人はおのおのの、その人なりのなすべきをなすしかない。
（厩戸御子も、万人がブッダになるとよいとは、今となっては考えないだろう）
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もちろん、剣士は剣で戦う。
行くぞ！
船で潜入！
虎杖は奇妙なことを言い出す。
インドが、海賊団が懐かしい。
彼らと再会する旨約束したのだった。
厩戸御子のことが終わったら、会いに行きたい。
堂々と彼らと再会するためにも。
厩戸御子を救うぞ！
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淡路神宮では、天之瓊矛が、赤錆から脱皮し、その金剛石（ヴァジュラ）の如き極彩色の輝きを覗かせる。
蘇我馬子は今や朝軍だ。皇子たち、特に兵装までした額田部皇女の意気は高い。厩戸御子がいないことは不審を招いているが…
※よく読むとやる気なのは額田部皇女だけで、他はそれほどでもなく、特に泊瀬部皇子は不安気で頼りない感じですね。
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とはいえ。
軍事豪族であり、水軍を持つ物部氏が、軍事的には圧倒的に有利だ。
河内湖の湖上戦！
ことは軍事だ。朝軍でも賊軍でも、勝てば勝つ！
（賊軍だとその後の政治は困難だが、今回は物部守屋本人が正統帝になる気なんだからな…）
戦が。
始まる！
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…数で勝ろうが。
朝軍であろうが。
軍備と戦術と連携がなっていない蘇我連合軍が、軍備と戦術と連携で上回る物部軍に勝てる訳ではない。
被害、甚大。
が、ここで引いたら「朝軍が敗走した」ことになる。
士気の上でも、政治的にも、かなりまずい。
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天之瓊戈、覚醒！
厩戸御子としてもここは正念場だ。
「正念場で日和見をするやつが、政治に関与などできないし、政治に見捨てられる」
そういった意味のことを、水蛭子が言っていた。
今まで水蛭子を拒んできた厩戸御子。
だが。
やるか…？
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そして。
胆弓姫が、柚蔓と虎杖の侵入を、厩戸御子に示す。
彼にとっては大きな希望だ。
逆に言えば、二人が死ぬところを見せれば、厩戸御子の心をへし折り、抵抗力を奪い、自由に操縦することができる。
そう胆弓姫たちは考えたらしいのだ。
つまり？
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柚蔓と虎杖を、物部男女剣士団が迎え撃つ！
多勢に無勢と言いたいところだが、そうではない。
虎杖は強い。海賊団での実戦経験もある。
訓練はしているが実戦経験のない物部剣士団、不意を突かれてやられまくる！ （蘇我連合軍が見たらキーッだろうが）
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やがて、混戦になる。
柚蔓も、虎杖も、背中を守りながら、四本の腕で、台風の如く、迫り来る物部剣士団を切り殺す！ （確か『柳生百合剣』で見たやつだ）
しかし、多勢に無勢。長期的にはじわじわと劣勢になりつつある。
まずい。
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厩戸御子は…
遂に。
肚を決める！
来い！ 水蛭子！
ここぞという時に来ない。
胆弓姫は言う。何かしたいのかも知れないが、ここは霊力を遮断する仕組みになっている。厩戸御子の霊力は届かぬ。残念だったな。
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さて、胆弓姫は布都姫と厩戸御子を交わらせようとする。
状況は絶望的だ。
そんな中、しかし厩戸御子は冷静になる。
ブッダの如く。
男性器「を」勃「て」ない！
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天之瓊戈の操縦は、伊弉諾尊と伊弉冉尊に見立てた、帝（か皇族）と誰かの交わりによってなされる。
男性器が勃たないとなると、それ以前の問題だ。
布都姫、キレる！
何とかして愛する厩戸御子と交わる！
伊弉冉尊と伊弉諾尊の如く！
それしか頭にない。
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伊弉冉尊役の布都姫は、熱情のまま伊弉諾尊役の厩戸御子に接吻の嵐を浴びせ、伊弉冉尊の如く、あることを口にする。
「あなにやし、えをとこを」
なんて素晴らしい男なんだろう。
だが。
分かる人には分かる。
例えば、胆弓姫には。
これは…まずい！
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厩戸御子は、伊弉諾尊の如く、あることを口にする。
「あなにやし、えをとめを」
なんて素晴らしい女なんだろう。
嘘でもそれを言ってやれる厩戸御子。
しかし別段それは布都姫への優しさのためではなかった。（ひどい）
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神話上の故事。
伊弉冉尊は伊弉諾尊を先に口説いた。伊弉諾尊はこれに応えた上で、「女の方から口説かれるのはいかん」ともぼやいた。
その結果が、望まない水蛭子の誕生だった。
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後にやり直して伊弉諾尊が伊弉冉尊を口説いてみて、今度は望む子が産まれたのだった。
この国の神話において、女が男を口説く行為は、伊弉諾尊めいて差し障りをもたらすようなのだ。
それを、布都姫が、厩戸御子に、やってしまった。
結界が、弱まる！
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弱くなった結界をぶち破ってやってきたのは、水蛭子！
伊弉冉尊が伊弉諾尊を口説いた故事に感応したという意味合いもあるのかも知れない。
厩戸御子、水蛭子を受け容れる。
伊弉諾尊が如き厩戸御子に、水蛭子は従う。
水蛭子神を統べる者、ここに現る！
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救え！ 柚蔓と虎杖を！
80人もの物部剣士団に囲まれていた柚蔓と虎杖。
もはやこれまで。
…奇妙なことが起きた。
水蛭子の力は、命や体には及ばないが、意識には及ぶ。
壮絶な同士討ち！
最後の一人、自殺！
柚蔓と虎杖だけが、生きてその場にいた。
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助かった二人、淡路神宮最奥部に向かう。
飛び出す巫女たち。
全裸で髪を逆立て錯乱しながら巫女を撲殺する布都姫。
唖然とする虎杖。
顔をそむける柚蔓。上司のお嬢様のこんな姿、まあ見たくはなかろう。（柚蔓のせいだが、そんなこと言われても困るよな）
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淡路神宮最奥部。
宙に浮く巨大な天之瓊戈と、撲殺された胆弓姫と、それを見下ろす生きている厩戸御子。
胆弓姫の結界は破られ、物部剣士団は全滅し、柚蔓と虎杖は生き残った。
キレた布都姫が、胆弓姫を殺ったのだという。
全て、終わったのだ。
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否。
石上神宮勢にとっては終わりだろうが、厩戸御子にとっては、まだ終わってはいない。
蘇我連合軍を救うべく、天之瓊戈を、やはり、使う！
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柚蔓が、布都姫の代わりを務める、ということか？
そうではない。伊弉諾尊役の厩戸御子にとって、伊弉冉尊役は、柚蔓しかいないんだよ。
口説く。
「あなにやし、えをとめを」
なんて素晴らしい女なんだろう。
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柚蔓、応える。
「あなにやし、えをとこを」
なんて素晴らしい男なんだろう。
故事ではガタガタ言ってた本来の伊弉諾尊も、これならガタガタ言うまい。
交わる！
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なんか勝利のメイクラブをおっぱじめたんですが…
虎杖は蚊帳の外でしょんぼりしている。
が、二人の体が宙を浮くのを見て、瞠目する。
男神と女神の交わり。
二人は光の塊となって、ダイヤモンドめいた天之瓊戈の中に入る。
膨大な光が、場を埋め尽くす！
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蘇我連合軍。
公的には、厩戸御子は拉致されたのではなく、仏に必勝祈願しているのだと説明されていた。
厩戸御子、現る！
そして、小さな四天王を頭に結わえ、祈る！
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もちろん本来の仏教に必勝祈願の御利益はない。
使うのは霊力の方だ。
これはパフォーマンスだ。罪悪感はある。
だが、自分は政治家だ。やるのだ！
必勝祈願ではない。
勝つためには実践（実戦）をせねばならない。
戦いの火ぶたを。
自分の手で切る！
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淡路神宮最奥部。
今や完全掌握した、最終兵器、天之瓊戈。
遠隔操縦！
起動！
蘇我馬子は見た。
物部守屋は見た。
特大級の直線の稲妻が走るのを。
それは本来、今は蘇我連合軍を焼き、やがて大和国を沈めるものだったはずなのだが…
河内湖を干した。
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天変地異。
河内湖、焼失！
物部水軍、機能停止！
物部氏の優位性がなくなった今。
これなら烏合の衆である蘇我連合軍でもやれる。
野戦！
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別の動きがあった。
押坂彦人皇子だ。
中立を保って、非蘇我系皇族の血を保って、変死も変な縁組も避けたかった。
が、いざという時に日和見をしていたら、中立どころか政治に今後一切関与できなくなる。そういうものだ。
そう、腹心の迹見赤檮に説かれる。
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剣士として最強と呼ばれる迹見赤檮は、暗殺者としても最強であった。
迹見赤檮、このどさくさに紛れて、物部守屋を射殺す！
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決戦時、誰が見ても最大の武勲。
これがおそらく、押坂彦人皇子の存在感を高める形ではたらき、ひいては舒明・天智・天武以降の天皇家につながったのだ。
そういう意味では、途方も無い大金星である。
が、それは後の話だ。
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後の話。
この小説には出て来ない話。
蘇我連合軍に合流した、いまいち頼りない泊瀬部皇子だったが、同世代なので帝として選ばれ、崇峻天皇となった。
※亡き用明天皇と同世代、という意味です。
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布都姫は石上神宮斎宮として、政治にも関与するほどの権勢を誇った。
崇峻天皇も、鬱陶しい後楯、蘇我氏への牽制を考えていたのだろうか。
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物部氏の分派である布都姫を重用したり、いろいろ蘇我氏や大和諸豪族と折り合いが良くなかった崇峻天皇。
彼は、後に粛清めいて、兄の穴穂部皇子同様、蘇我氏に暗殺される。
ぎょっとするが、世界各国の王家を見ると、まああるある話ではあろう。
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世界と言えば、ナーランダー寺院には、隋が滅んだ後の唐から、仏教の天才がやってくるのだった。
その天才は膨大な経典を唐に持ち帰り、マハーヤーナ（大乗）の基礎、般若経典の集大成、大般若波羅蜜多経を編纂することとなった。
三蔵法師、玄奘である。
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そして。
この小説に戻る。
柚蔓が、厩戸御子の元を去って行く。
虎杖を伴って。
意外だが、よく考えると当たり前だ。
厩戸御子の妻になるには、当時の感覚では身分が低すぎる。いくら何でも周囲に認められることはないだろう。
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あと、おそらくだが。
柚蔓は元々物部氏の剣士だ。
彼女を嫌う布都姫は、その後も実は健在である。
暗躍、暗殺、呪殺が当たり前の、大きな揉め事は避けられまい。
万一愛する厩戸御子をそれに巻き込んだら最悪だ。
だから、去ったのではないだろうか。
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厩戸御子は…これを受け容れる。
倭国に大国の基本思想たる仏教を導入し。
倭国の亡き者達の怨念たる水蛭子神を宥め。
倭国の生ける者達の依って立つ八百万の神を統制し。
倭国に新たな宗教土壌を構築する。
今から自分は、これをひたすらやることになる。
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柚蔓はインドに行く。
ナーランダー寺院にではなく。
戦友として心を通わせた虎杖と共に、海賊女首領になる！
…そう来たか。
お倖せに…
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国作り半ばにして、伊弉冉尊は伊弉諾尊の元を去る。
一抹の寂寥感と、そして決意。
これから自分は、法王、すなわち仏法の王の仮面をつけた伊弉諾尊になるのだ。
伊弉諾尊は…厩戸御子は帰る。
国へ。
大和へ！
荒山徹『神を統べる者』、完！
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